【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第2回】入賞の難しさを理解し協力を惜しまないベテランと、伸び幅が小さくても戦える理由

2024年4月4日(木)18時0分 AUTOSPORT web

 2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。好調なシーズンのスタートを切ったことは前回のコラムで触れた通りだが、第3戦オーストラリアGPでは上位勢のリタイアもあり、ハースは2台ともに入賞を果たした。ただケビン・マグヌッセンには戦略のミスがあったといい、レース後に小松代表は謝罪。一方で、高いモチベーションを持ってシーズンに臨み、今回もチームプレーに徹したマグヌッセンには感謝も述べたということだ。そんなオーストラリアGPの事情を小松代表が振り返ります。


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2024年F1第3戦オーストラリアGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選14番手/決勝10位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選16番手/決勝9位


 第3戦オーストラリアGPは、今シーズン初のダブル入賞で終えることができました。ただしケビンに関しては戦略ミスがあったので、今回もまずはレースを振り返っていきます。


 ケビンは14番グリッドからいいスタートを切り、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)をパスしました。ダニエル・リカルド(RB)が5周目にピットインしたのを受けて、そのアルボンも6周目にピットイン。この時ケビンをピットに入れることもできたのですが、ここではまだ早すぎるという判断でステイアウトしました。結局アルボンに反応する形で7周目にケビンをピットインさせましたが、その結果アルボンにはアンダーカットされ、アルボンに詰まったせいでエステバン・オコン(アルピーヌ)にオーバーカットされてケビンはふたつポジションを落としてしまいました。


 この辺りのコミュニケーションや戦略の一貫性は、もっともっとよくしていかなければいけません。今の中団争いは本当に拮抗しているので、ふたつポジションを落とすようなミスがあると、それがそのまま選手権の順位に関わってきます。バーレーンでもケビンの1回目のストップのタイミングにはミスがあったので、これで2度目です。鈴鹿の前にはしっかりと対策を施したいと思います。


 レース直後にケビンにはこの件についてまず謝りました。またそのうえで、その後の順位の入れ替えをスムーズに行ってくれたことについても感謝しました。ハードタイヤで第1スティントを走っていたニコはバーチャルセーフティカー(VSC)の間にタイヤ交換をすることができたので、ケビンよりも新しいミディアムタイヤで走るニコを前に出すことにしたのです。1回目のピットストップでチームのミスがあったにも関わらず、この時はまったくニコにタイムをロスさせることなく、順位を入れ替えることができました。とても感謝しています。

2024年F1第3戦オーストラリアGP ポジションを入れ替えたニコ・ヒュルケンベルグとケビン・マグヌッセン(ハース)


 今年はケビンもニコも、今まで以上にチームの一員という感じがします。チームとして1ポイントを獲るのがどれだけ大変かということをよく理解していて、それを実際の行動に移しています。今回も何も文句を言わずに順位を入れ替え、チームのためにこういうことをしてくれるのでとても助かっています。特にケビンのようなタイプの人間にとってモチベーションというのは非常に重要ですが、今年のケビンは昨年までとは全然違って高いモチベーションを持っていろいろなことに取り組んでいて、それが結果に現れていると僕は評価しています。


 話をレースに戻すと、今回のレースではケビンのタイヤの持ちがよかったので、もしケビンがアルボンの前を走り続けることができていたら、さらに前を走っていた角田裕毅(RB)に勝てたとは言いませんが、脅かす存在にはなれていたでしょう。本来ならばそういう位置にいなければなりませんでした。

2024年F1第3戦オーストラリアGP ケビン・マグヌッセン(ハース)&アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)


■最もチーム規模の小さいハースが戦える理由


 今年はプレシーズンテストが始まる前から、僕がまだうちのクルマは最下位だと考えていたということはすでにお話ししてきました。それは全チームのなかで一番チーム規模の小さいハースが冬の間に改善したのと同じくらい他のチームもクルマを改善すると考えるのが妥当だからで、それが僕のエンジニアとしての正直な見解でした。


 現状では3レースを終えて4ポイントを獲得し、コンストラクターズ選手権で7位につけていますが、うちがなぜここまで戦えているのかといえば、冬の間に他の数チームよりゲインがあったからというのが大きいです。もちろんうちのスタッフはよくやったと思いますが、相対的に考えると、うちはVF-24の開発が遅れたこともあって昨年からの伸び幅が特に大きいとは考えていません。オーストラリアGPに限った話でいえば、うちよりレースペースが遅かったのはアルピーヌだけだと思いますし、ウイリアムズとは同じくらい、キック・ザウバーやRBには負けています。ポイントを獲れている点ではポジティブですしチームにもそう伝えていますが、冷静に考えるとまだそれほど競争力があるわけではありません。


 ただ、いろんな面で改善されているというのは事実です。プレシーズンテストでタイヤのことに集中して取り組んできたからこそこの3レースでも戦えています。まだ完璧とはいえませんが、何か起きた時に入賞を狙えるような位置につけることもできました。テストでレースタイヤの使い方に集中して取り組んでいたことが活きていると思います。フリー走行中にそのような根本的なテストをするのは難しいので、はっきりとした方向性をテストで見出せたことは本当によかったです。またタイヤのことだけでなく、ピットストップなど他の部分も去年よりはよくなっています。

2024年F1第3戦オーストラリアGP ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)


 もちろんテストは大変でしたし、現場のレースエンジニアたちやドライバーふたりにもほかにやりたいことがありました。でも僕は「チームの目標から、もしひとつやるなら何をすべきかを考えて集中してやろう」と伝え、タイヤの使い方やロングランのペースを改善するために必要なことを最優先してきました。新設したパフォーマンスディレクターをはじめコアになるメンバーたちが本当によくやってくれています。


 僕は目標を達成するために一番大きな枠組みを作り、チームのみんなには、そのなかでそれを達成するには何をどうすればいいか考え実行してもらっています。クルマの問題の共有やコミュニケーションについては僕が責任を持ってやっていますが、その問題の解決方法はそれぞれに託しています。会議も基本的にはその部署の人に任せていて、このやり方でメンバーの成長も実感しました。


 次回は僕にとってのホームレースとなる日本GPですが、実はVF-24の弱点が最もさらけ出されるのが鈴鹿です。うちはメルボルンでもターン6、12の高速コーナー、ターン9、10のシケインで一番遅かったので、鈴鹿のセクター1のことを考えると厳しいですね。予選も今回以上に厳しいと予想していますが、なんとか12、13番手あたりで終えることができれば、レースでは10、11番手くらいを走って入賞を目指すことができるかもしれません。天候がどうなるかわかりませんが、少なくとも予選ではQ2に進んでできるだけ上位のグリッドを獲得し、レースでポイントを獲るというのが目標です。とにかく、今年のハースは「こういうチームだ」ということを示せるような週末にしたいです。

2024年F1第3戦オーストラリアGP ニコ・ヒュルケンベルグとケビン・マグヌッセンのダブル入賞を喜ぶマネーグラム・ハースF1チーム
2024年F1第3戦オーストラリアGP ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)
2024年F1第3戦オーストラリアGP ケビン・マグヌッセン&マーク・スレード(ハース)


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