【独占】町田ユース出身サイラス龍一に訊く「ベトナム強豪クラブ加入までの道のり」

2024年4月5日(金)14時0分 FOOTBALL TRIBE

サイラス龍一・チャン 写真:Becamex Binh Duong F.C.

日本とベトナムの血を引くMFサイラス龍一・チャン(29歳)が、ベトナムのベカメックス・ビンズオンに移籍加入。同クラブはVリーグでの優勝4回、ベトナムカップでも3度の優勝を誇る強豪クラブで、サイラスはVリーグで昨季から新設された越僑枠(在外ベトナム人枠)での登録となった。


アメリカ・ハワイ出身のサイラスは、幼少期に日本に移住。名東クラブや町田ゼルビアU-18、国際武道大学を経て2020年に再びアメリカへ。FCアリゾナ、ミシガン・スターズ、アルビオン・サンディエゴでプレーし、今季途中からベトナム1部リーグのビンズオンに加入した。ビンズオンはシーズン前期を終えて2位。9年ぶりの優勝を狙える好位置につけており、サイラスにはシーズン後期の起爆剤となることが期待されている。


「越僑枠」は、海外の優れた育成システムで育ったベトナム系選手の登録を容易にするための仕組みで、国内リーグのレベルアップと将来的な代表強化という狙いがある。通常の外国人枠(3人)に加え、1部と2部のクラブからそれぞれ1人ずつの登録が認められている。これまで各クラブで登録された越僑選手は、チェコやスロバキアといった東欧、ロシア、フランス、アメリカ、カナダなどの選手がほとんどで日系人はサイラスが初。このインタビューでは、ベトナムでの新たな挑戦に対する意気込みや日本で過ごした町田ユース時代について訊いた。




三鬼海 写真:Getty Images

ゴールキーパーからの転向


ー幼少期に日本に移住してユース時代は町田ゼルビアにも所属されていました。現在J1で躍進中の町田ですが、当時トップチームの試合は見ていましたか?また印象に残っている選手はいますか?


サイラス:当時は月1回ほどトップチームとの交流もあったので、試合も観に行ったことがあります。僕自身もトップの練習に参加させてもらっていましたが、一個上に現在も町田に所属している三鬼海選手(元U-20日本代表)がいて、とても良くしてもらいました。今はちょっと怪我で出ていないですが、ずっと応援している選手ですし、僕にとっては良き兄貴分です。


ーユース世代はクラブがモットーとするコンセプトのもとで育てられると思いますが、当時の町田で大切にされていたことは?


サイラス:楠瀬直樹監督(現:三菱重工浦和レッズレディース監督)が(東京)ヴェルディユースから移ってきて、しっかりボールを動かすというところにフォーカスしていました。ユースだけじゃなくトップも含めてポゼッションにはこだわりを持ってやっていました。実は、町田ゼルビアユースの入団時はゴールキーパーだったのですが、楠瀬監督がきっかけで高校一年生の時にフィールドプレーヤーに転向しました。


ー今も町田ゼルビアを追っていますか?追っているのであれば、黒田剛監督のもとで躍進している町田への印象を教えてください。


サイラス:フルで試合を観たことがなくハイライトを観るくらいなのですが、今もクラブに所属している何人かの知り合いに聞く限りでは、勝利のためにチームとして戦う集団になっているという印象です。昇格したばかりですが、今シーズンのトップ4に入るんじゃないかと期待しています。




サイラス龍一・チャン 写真:ベトナムフットボールダイジェスト

アメリカからベトナムへ


ービンズオン入団以前は、アメリカの複数クラブでプレーされていました。当時を振り返ってみていかがですか?


サイラス:アメリカでプロ契約して5年ぐらい現地でプレーしましたけど、様々な国籍の選手がいる中でサッカーのスタイルも全然違いますし、人種が違えば交流の仕方も違うので色々と学ぶことが多かったです。そういう環境でしっかり自分を出せるように主張しないといけないなというのを感じる日々でした。


ーこれまでプレーした複数の国の中で、サッカーの違いを感じましたか?


サイラス:やっぱりアメリカは身体能力的の高い選手が多いですし、縦に速かったり高さがあったり、フィジカル的なところは違うなと感じました。ベトナムもすごく勢いがあって強度が高いシーンもありますし、国それぞれにスタイルがあるというのは感じています。


ーアメリカでは現在、久保裕也選手や山根視来選手(いずれも元日本代表)といった元Jリーガーがプレーしていますが、アメリカでの日本人選手の評価は?


サイラス:(アメリカは)フィジカル的要素がすごく求められるリーグでもありますから、そこで活躍するのはそれほど簡単ではないと思います。でも、日本人選手の質や適応能力の高さはアメリカはもちろん世界共通で評価されています。


ービンズオン入団までの経緯を教えてください。


サイラス:知り合いの選手がベトナムでプレーしていて、代理人を紹介してもらいました。僕自身、両親がベトナムにルーツがあったので、越僑枠という制度があるのを知って本格的に動き出したという感じです。


ーベトナムリーグ挑戦の最大の決め手となったのは?


サイラス:父がサイゴン(現ホーチミン市)生まれで何かの縁を感じましたし、今年30歳になるということでサッカー選手として違う場所でチャレンジしてみたいという思いから挑戦を決めました。


サイラス龍一・チャン 写真:Becamex Binh Duong F.C.

「越僑枠」制度がもたらす効果


ービンズオンではトライアルを経ての加入となりました。既に1か月以上チームで練習されていると思いますが、チームの印象は?


サイラス:すごく歴史があるクラブだというのは聞いていましたし、多くのタイトルを獲得してきたクラブなので、しっかりしたチーム・組織だという印象を持っています。


ー監督からはどんな役割を求められていますか?


サイラス:僕自身は攻撃的なポジションの選手でもあるので、攻撃でアクセントをつけてほしいというのは常々言われています。攻撃時の豊富なアイデアだったり、自分にしかできない部分をどんどん出してほしいとは言われていますね。


ー今回「越僑枠」での登録となったわけですが、この制度自体をご存じでしたか?また、この制度はVリーグに対しどのように貢献すると思いますか?


サイラス:(越僑枠制度は)知らなかったです。ベトナムに行ける可能性があるという段階になって情報を色々と調べている中で初めて知りました。国外で生まれ育った選手がベトナムでプレーする機会が増えればベトナム人選手にとっても刺激になりますし、サッカーのスタイルが今後良い方向に変わっていくきっかけになるんじゃないかと思っています。


ー越僑枠でVリーグクラブに加入した選手としては、GKフィリップ・グエン(元チェコ代表)が後にベトナム国籍を取得し、現在はベトナム代表でプレーしています。将来的にはベトナム国籍取得や代表でのプレーなども視野にいれていますか?


サイラス:国籍取得までのプロセスや手続きで、どれぐらいの時間が必要なのかそれ次第というところもありますが、プロサッカー選手である以上高いレベルでやりたい気持ちはあるので、チャンスがあれば代表の試合にも出場してみたいです。


ービンズオン省での生活は慣れましたか?いざ生活してみて、驚いたことなどはありましたか?


サイラス:もう慣れました。街としても発展しているので、ここでの暮らしは気に入っています。驚いたこととしてはやっぱり交通ですかね。日本以外のアジアに住むのは初めてですから、バイクの数には驚きました。




サイラス龍一・チャン(右)写真:Becamex Binh Duong F.C.

新天地にかける想い


ーベトナムにルーツをお持ちですが、ベトナム語はどうですか?コミュニケーションに問題はありませんか?


サイラス:ベトナム語は全然話せないのでこれから勉強したいと思っています。通訳がいますし、英語が少し分かる選手もいるのでチーム内でのコミュニケーションは大きな問題にはなっていません。


ーベカメックス・ビンズオンと言えば、親会社の繋がりで川崎フロンターレと長い間協調関係にあります。ビンズオン省も日系企業が都市開発を手掛けていますが、日本人としては生活しやすい環境でしょうか?


サイラス:そうですね。日本人に優しい街という印象はあります。イオンモールもありますし、都市開発が急ピッチで進んでいる感じです。


ーシーズン後期からの加入となりますが、ビンズオンはシーズン前半戦を2位で折り返すなど好調です。チームは当然優勝を狙っていくと思いますが、個人として今季の目標があればお聞かせください。


サイラス:12〜13試合を残す中で少しでも早くチームの勝利に貢献できるプレーをしたいですし、今後コンデションなども含めてベトナムサッカーに適応できる準備を整えたいと思います。チームの目標としては、リーグ優勝やACL(AFCチャンピオンズリーグ)出場があります。僕としても出来るだけ長くピッチに立つ時間を増やして、ここに来た意味というのを証明したいです。

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