【ライターコラムfrom広島】“源”森崎和幸不在の痛手 苦境脱出は背番号8から学んだことの模索にあり

4月6日(木)21時54分 サッカーキング

今季はまだ出場が無い森崎和幸 ©J.LEAGUE PHOTOS

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 サンフレッチェ広島が苦しんでいる。

 1分4敗。得点はわずかに2点。北海道コンサドーレ札幌戦の後半、柏レイソル戦の前半と、内容面でも目を疑わんばかり。ボールをつなげない。カウンターを食らう。決定機をつくってもネットを揺らせない。柏戦の前半1分の失点を見ても、確かにミスではあるが、そのミスが悉く失点へつながる運のなさ。

 ケガ人も途切れない。前十字じん帯を再断裂した佐々木翔だけでなく、プレシーズンには柴崎晃誠やアンデルソン・ロペス、林卓人も負傷。開幕後も、柏好文やミキッチらが次々に戦列を離れた。そして4月5日には青山敏弘も左ひざの違和感を訴えて、練習を取りやめている。

 その離脱者の中で、もっとも痛いのは森崎和幸の不在だろう。

 広島が広島である最大の理由は、ポゼッションだ。ボールを失わず、後ろからしっかりとボールをつなぐ。主体性をもってゲームを支配し、そこから相手守備網をコンビネーションで打破していく。それが広島の特異性であり、2012年からの4年で3回優勝という「黄金時代」を導いた理由だ。そして、その広島サッカーの核は、間違いなく森崎和幸である。

 日本代表経験もない彼の、どこが凄いのか。たくさんある。

 パス成功率は、アベレージで90%を常に超える。彼にボールを預ければ、まず失うことはない。そんな安心感をチームに与える存在だ。そして、守備もハードである。「全てのボールがカズさんのところに吸い込まれていくように思える。それほどポジションどりが素晴らしい」と水本裕貴が絶賛する予測能力。タックルは深くて、激しくて、その多くがノーファウル。相手をふき飛ばしても、警告どころか笛すら鳴らない。「昔はそこまでのハードな守備をする人ではなかった。どうやったら、あそこまで球際に強くなれるのか」と青山も感嘆する。

「カズさんほどサッカーが上手い選手は、未だに会ったことがない。浦和でも、日本代表でも」

 柏木陽介がいつも絶讃する森崎和幸の本当の凄みは、一緒にプレーしないとわからない。選手たちは口々にそう語る。

「カズさんに預ければボールは落ち着くし、ピッチに立っているだけでチームは安定する。技術が本当に高いし、守備も上手い。だけど、広島移籍以前は、その凄さに気づかなかった。カズさんが代表でも普通にレギュラーを張れると感じたのは、一緒にプレーしたからです」

 李忠成(浦和)の証言である。同じような言葉は、たとえば西川周作(浦和)からも、佐藤寿人(名古屋)からも聞いた。浅野拓磨(シュトゥットガルト)も、トレーニングで対峙して最も衝撃を受けたのは、森崎だったと語る。塩谷司も「よほどサッカーを知っていなければ、外から見てもカズさんの凄みはわからない」。そんな選手がJリーグに、この日本に、果たしてどれだけいるだろうか。

 森崎よりもトリッキーなプレーができる選手はいるだろう。多彩な足業を持つ選手も、スルーパスの感覚や長距離のキックなども、森崎よりもいいものを持っている選手はいる。だが、広島の背番号8よりも「サッカーが上手い」選手が、果たしてどれだけいるだろうか。彼はボール扱いが上手いだけでなく、サッカーが上手いのだ。

 ピッチ上で森崎のプレーを体感する相手選手は厄介な存在だと話すことも多い。相手にとってイヤなプレーは、逆に味方にとってはありがたい。

「困った時にもみんなが頼るのは、やはりカズさんなんですよ。カズさんの言葉でチームは大きく変わるし、カズさんのところで守備が完結し攻撃がスタートするんです。自分の良さを最大限に発揮させてくれる存在」

 青山の言葉はデータでも裏づけられている。データスタジアムの調べによれば、昨年のホーム、アビスパ福岡戦で青山のプレー機会は113回。一方、森崎が不在だったアウェイのベガルタ仙台戦は70回にすぎない。仙台戦も2−0と快勝だったが、福岡戦はさらに凄まじい内容で結果も4−1。その戦いの中で青山は気持ちよくボールに触っていた。彼がいいプレーを見せれば、広島は勢いづく。それは誰もがわかっている法則ではあるが、その源は森崎だ。

 チームとしても、パス本数では仙台戦の405から福岡戦では701。パス成功率でも、仙台戦が85.5%で福岡戦は89.2%だ。

 森崎自身の福岡戦でのプレーはと見れば、プレー機会・パス本数・パス成功数・こぼれ球奪取・タックル成功数、すべてナンバー1。彼自身の素晴らしいプレーが、チームの良さも引き出す。これが森崎和幸の凄み。サッカーが上手いというのは、要はこういうことだ。

 広島のレジェンド。誰もが崇拝してやまない伝説の選手が今、体調を崩している。双子の実弟・浩司によればかなり回復しているようだが、それでも復帰までは時間がかかるだろう。自分の良さを発揮しながら周りの良さをうまく引き出す天才がいれば、連係や試合運び、ポゼッションの安定や守備の落ち着きなど、今の広島が悩んでいる多くの部分は解決に向かっていくはず。だがこの仕事は、森崎の才能ありき。誰でも簡単にできることではない。

「これができなかったら死んでしまうくらいの迫力をもって、カズはサッカーに対峙している。だからこそ、知的なプレーと強烈な闘争本能が両立している。あいつは、クレバーを装ったファイターなんですよ。考える力も凄いけれど、激しさは他の誰よりもすごい」

 広島OBである解説者・中島浩司氏の言葉である。「ピッチ上の監督」と呼ばれる森崎和幸の「能力」を真似することは、おそらくできまい。ただ、森崎和幸が持つ「まるで外国人選手のような闘争本能」(中島氏)を全員が発散することは、もしかしたら可能なのかもしれない。なぜなら森崎自身、若い頃はその闘争本能をプレーでうまく表現できなかったのだから。

 これまでの歴史の中で、プレーで雄弁に語っていた背番号8の姿から何を学んできたのか。何を見つめてきたのか。できないこともある。でも、できることもあるはずだ。その模索にこそ、今の広島が陥っている苦境を脱出するヒントがある。私は、そう考える。

文=紫熊倶楽部 中野和也

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