“打たせる”守備も一つのプラン。被シュート数から見る、Jクラブの守備スタイル【データアナリストの眼力】

4月7日(木)10時0分 フットボールチャンネル

“打たせない”守備と“打たせる”守備

 ひとえに「守備が堅い」チームと言っても、各チームはそれぞれに独自のプランを持ちゲームに臨んでいる。ではその守備のスタイルはどのように区別できるだろうか。被シュート数と失点数をパラメーターに、Jクラブの守備を分類した。(分析:庄司悟/文:海老沢純一)

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 試合の優劣を見極める上で、重要な指標の1つとなっている「シュート数」。一部のテレビ中継ではスコアの下にカウントが表示され、多くの数を記録すればそれだけで1つのニュースともなり得る。

 データアナリストの庄司悟氏が算出したデータを基にこのシュート数を分析すると、各チームが持つ戦略が見えてくる。

 まず参考にしたいのは10年前の2006年に開催されたW杯ドイツ大会。この大会を制したイタリアは、全7試合でわずか2失点。それもグループリーグ(GL)第2戦米国戦でのザッカルドのオウンゴールとフランスとの決勝戦でジダンに決められたPKの2本。流れの中からは1つの失点も許さず、“カテナチオ”の名にふさわしい強固な守備網を築いていた。

 また、PK戦の末に準優勝に終わったフランスは7試合で失点は3。その内訳は、GL第2戦の韓国戦で朴智星に決められたゴールと決勝T1回戦スペイン戦でのビジャのPK、そしてイタリアとの決勝でCKからマテラッツィに決められたもの。流れの中での失点は朴智星によるゴールのみであり、こちらもイタリアに負けず劣らずの堅守を誇っていた。

 しかし、この2チームの「被シュート数」を見ると、意外な事実が浮かび上がってくる。

 まずはイタリア。イタリアはオウンゴールとPKによる2失点ながら、被シュート数はベスト4進出チーム中最多の80本を記録している。

 このデータについて、庄司氏は「ブッフォンというGKとカンナバーロというCBを擁して『この位置、この形であれば打たれてもOK』というスタイルを持っており、対戦相手を袋小路に追い込んでいた」と分析している。つまり、イタリアの被シュートは“打たれた”のではなく“打たせていた”ということ。

 対してフランスの被シュート数は51。こちらはベスト4中最少の数字となっており、庄司氏は「マケレレとヴィエラという強力な中盤を中心に相手にシュートすら打たせない“ガチガチ”の守備を展開していた」と語った。

 W杯のようなトーナメントでもリーグ戦でも、最終的に優勝を争うのは守備力の高いチームと言われるが、この10年前のW杯で優勝を争った2チームは同じ堅守でも全く異なるプランで戦っていたことがわかる。

 では、このデータをJリーグで見ていくとどうなのだろうか。

昨季優勝を争った広島、G大阪は“打たせる守備

 まずJ1。図1は、昨季の「被シュート」を横軸、「失点」を縦軸にして各チームを割り振ったもの。これを見ると、浦和、FC東京、鹿島、横浜FM、湘南、柏、甲府の7チームがともに平均より少ない数字を記録。フランス型の“シュートを打たせない”守備網を築いていた。

 その中でも、やはり上位に食い込んでいる浦和、FC東京、鹿島、横浜FMの4チームがより好成績を残した。

 一方で、チャンピオンシップで優勝を争った広島とG大阪は、被シュート数は平均より多いながらも失点は平均より少ない数を記録。ともに林卓人や東口順昭という日本を代表するGKがいることで、イタリアと同様の“シュートを打たせる”守備を展開していたといえる。

 対して、名古屋、鳥栖、神戸、仙台、松本、山形の6チームは被シュート数も失点数も平均より多い数字となっている。多くのシュートを打たれ、多くの失点を喫しているだけに、守備に大きな課題を残したチームという印象を持たれているはずだ。

 川崎F、新潟、清水に関しては、平均より少ない被シュート数ながら平均以上の失点数を記録した。これは、シュートを打たれないような守備を心がけながら、シュートを打たれれば失点に繋がる悪循環に陥っていたということ。

 この昨季の結果を受けて、今季はどのようなデータが出ているのだろうか。

“フィッカデンティ効果”か。鳥栖が見せた変化

 代表ウィークによる休止前の第4節までの結果から庄司氏が分析したものが図2だ。まず最も大きな変化を見せたのが鳥栖。鳥栖は昨季、被シュート数も失点数も平均より多いゾーンにいたが、今季は真逆のともに少ないゾーンに食い込んでいる。

 これは、やはり守備に深い文化を持つイタリア人指揮官であるフィッカデンティ監督の就任が大きな影響を与えているのだろう。2014、15年の2シーズンでFC東京を堅守のチームに変えた指導力は鳥栖でも健在といえる。

 そのフィッカデンティ監督によって守備を鍛えられたFC東京、さらに浦和、鹿島、横浜FMは変わらず強固な守備を誇っている。浦和、鹿島、横浜FMは昨季から同じ監督を継続させているチームであるため、今季も上位で終える可能性は高い。FC東京は城福監督が“フィッカデンティの遺産”をうまく引き継ぎ続けられるかが焦点となる。

 対して、昨季より厳しい状況となっているのが湘南、柏、新潟の3チーム。湘南と柏に関しては、鳥栖とは逆に被シュート数も失点数も少ないゾーンから、ともに多いゾーンへと下がってしまっている。新潟は、昨季は被シュート数が少なかったが今季は平均より多いゾーンへ。第4節時点で最も失点の多いチームとなっている。

 シーズン終盤の残留争いに加わらないためには、1日も早く守備組織を改善しなければならないだろう。

 第5節で浦和に抜かれ2位となった川崎Fだが、被シュート数も失点数も立ち位置は昨季とほぼ同じ位置。“風間イズム”が完璧に浸透している結果ともいえそうだが、このまま終盤までトップを争うためには失点を減らせるかが鍵となるだろう。

J2、守備構築が順調な清水。厳しい状況にある山形

 次に今季のJ2に目を向けてみると、若干J1とは異なる展開となっている。図3は第5節終了時の数字を反映させたものだ。

 まず、昨季は広島とG大阪、今季の4節まででは名古屋と仙台の各2チームのみとなっている「被シュート数が多く失点が少ない」ゾーンにJ2は6チームがひしめいている。

 その中でも特に目を引くのが熊本とC大阪のポジション。開幕から好調を維持する熊本と今季こそはJ1昇格を決めたいC大阪は、被シュート数こそ平均を大きく上回るが、熊本は1失点、C大阪は2失点と安定感を発揮している。

 特にC大阪に関しては、ゴールマウスに君臨している韓国代表GKキム・ジンヒョンの存在が大きい。仮にJ1でプレーしてもトップクラスといえる能力を持つ守護神はC大阪の大きな武器となっている。

 また、昨季の降格チームを見てみると、清水が「被シュート数と失点がともに少ない」、松本が「被シュート数が多いものの失点は少ない」、山形は「被シュート数が少ないものの失点が多い」というゾーンに位置している。

 清水は今季から就任した小林伸二監督のもと、守備組織が改善されたという声もあり、開幕から6節を終えて2失点と安定している。攻撃面が大前元紀に頼る展開となっているが、チョン・テセの負傷が癒えて復帰を果たせば大前の負担は軽くなる。今後、攻撃面でも上向く可能性は十分にあるだろう。

 松本は失点数が平均よりは少ないものの、開幕から6節で6失点。山口戦での3失点が響く格好だが、元来ディフェンスのチームであり、GKにはシュミット・ダニエルを獲得しているだけにさらなる向上が期待される。1年での昇格を果たすには2014年の35失点と同等の数字を残すことが求められる。

 そして、厳しい状況にあるのが山形。山形はJ1だった昨季から被シュート数こそ減らしている傾向にあるが、失点数はJ2の今季も平均以下。開幕から6節で9失点を喫して勝ち星なしの最下位に沈んでいる。

 攻撃面でもここまで5得点と苦しんでいるだけに、まずは守備組織を向上させて勝ち点を拾わなければならないだろう。

(分析:庄司悟/文:海老沢純一)

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