吉田麻也、黒子に徹する“統率力”。サウサンプトンのDFリーダー、プレミア5年目の覚悟か【東本貢司の眼識】

4月7日(金)11時26分 フットボールチャンネル

試合前、若手選手に話しかける吉田の姿

 今季の吉田麻也は、サウサンプトンにおけるセンターバックの主力としてプレーしている。出場機会に恵まれない時期もあったが、今は若手選手と積極的にコミュニケーションをとり、セインツ(サウサンプトンの愛称)の先輩として模範を示す姿勢も見られる。ピッチ上では目立つことのない吉田だが、その姿からは、プレミア5年目の前向きな覚悟が感じられる。(文:東本貢司)

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 試合開始直前の待機スペース。三々五々、両軍のプレーヤーたちが姿を現す中、ピッチへの出口と反対側の壁際で、サウサンプトンの赤と白のストライプに身を包んだ吉田麻也が、何やらしきりに両足を上げ下げしながら、隣に立つ同僚に話しかけている。おそらく、相棒CBのジャック・スティーヴンズだろう。若いスティーヴンズはほんの時折、首をかすかに縦に振る仕草こそすれ終始無言、心なしかうんざりしたような冷めた表情で、吉田をじっと見つめるばかりだ。

 しばらくして吉田は、今度は反対側の隣に並んだ別の若いプレーヤーに向き直り、まったく同じ仕草と熱心な口ぶりで何事かを説き始める。確認はできないが、おそらく左サイドバックを務めるこちら、サム・マックイーンの反応も似たり寄ったり。そのうち、二人に対する吉田の一連の“説諭ぶり”は、どことなく滑稽にすら見えてきて…。

 ちなみに、この溜まり場の中で、吉田のような技術的(?)で事実上一方的な対話を仕掛けている者など他には誰一人いない。笑顔と二言三言の挨拶の交換のみ。というよりも、それが普通だ。ゆえに、吉田のそのパフォーマンスが妙に印象に残っている。

 スティーヴンズ、23歳、マックイーン、22歳。いずれもイングランドのアンダーエイジ代表に名を連ねているが、プレミアでの実戦経験では、2012年8月からブリテン島南岸に腰を据えた吉田に遠く及ばない。

 ちなみにバックラインのもう一人、右サイドバックのセドリックは3年目、セインツの一員としての出場試合数は吉田の半分以下、多分英語はまだ片言で、ざっと見ても同僚たちと会話している節はほとんど見受けられない。

目立つことのない吉田の統率力

 サウサンプトン入団の一年目にリーグ戦で32試合に起用された吉田麻也だが、翌シーズンは故障もあって8試合に激減、続く2014/15には22試合と持ち直したものの、この頃からどちらかと言えばセカンドレギュラーにシフトダウンされていたきらいがあった。慣れないサイドバックで起用されることが多かったせいもあったろう。

 それが、主戦フォンテの移籍(ウェスト・ハム)などで本職の持ち場に返り咲いて以来、今やれっきとしたセインツDFの柱然として安定したプレー内容を維持し、指導陣からの信頼も上々のようである。仮にフォンテの穴埋め補強がうまくいかなかったゆえの次善策に乗っかった成り行きがあったとしても、そのチャンスをしっかりとものにして築きつつある現在のスタンスは、彼の資質に運も味方したゆえに結実と評価してよさそうだ。

 取り急ぎ、最新のゲーム、3-1の逆転快勝に終わったクリスタル・パレス戦を“資料”に取り上げてみよう。サイドバックとはいえ、ポルトガル代表でもおなじみの通り、セドリックは盛んに攻めあがる。実戦的感覚ではもうウィングバックに近い。

 つまり、セインツDFは実質的に3バック、その中心に吉田がいる。両脇の若いスティーヴンズとマックイーン(セドリックほどには前に上がらない)を、いつなんどきでもカバーできるポジション取りに腐心し、たまに敵陣からのロングボールにいち早く前に出てブロックする以外、じっと落ち着き払ってGKフォースターとの距離を意識しながら、ディフェンス全体のバランサー役を任じる。すなわち「統率」している。そして、目立つこともない。

 そこで、冒頭にあげたあの“説諭”がリンクしてくる。内容自体はどうということもない(はず)。大切なのは、経験の浅い相棒たちと言葉をかわす(かける)コミュニケーションそのもの、もしくはその意思と姿勢。

 もちろん、若手の、および吉田自身にとっても、ゲーム直前の緊張感をほぐす効果もありそうだ。気取らず、ちょっとコミカルな人懐っこさが、そこで顔を出すのは吉田ならではのキャラか。さて、当のスティーヴンズたちは内心、どう思っているのだろうか。

先輩として示した模範。感じ取れる前向きな覚悟

 ふと、かつてのアーセナルの、というよりもプレミアの“顔役”ディフェンダーとして鳴らしたトニー・アダムズのことを思い出す。無名のコロ・トゥーレをアフリカの“盟友”を通じて引き入れたアーセン・ヴェンゲルには確固たるヴィジョンがあった。

 イングランドにやってくるまでのコロの“本職”はミッドフィールドだったが、体型と性格からセンターバックで成功すると見ていたヴェンゲルにとって、キャリアの終焉に近いアダムズの公私における立ち居振る舞いが、コロの成功に大きく寄与すると見たのだった。

 その見立てはまんまと当たったのだが、その際、アダムズがコロや新参の未知数戦力(ヴィエラ、ラウレンら)のハートを打った、有名なエピソードがある。アダムズは彼らがまさに入団したばかりのとき、チームメイト全員の前でアルコール中毒で悩んでいることを告白したのである。

 そのとき、まだ英語がほとんど覚束ないヴィエラらは何のことかもよく分からず、しばらくしてその真相を知って驚き、かつ、このチームの結びつきの強さを思い知ったという。しかるべくして、アダムズの率直で妥協を許さないプレースタイルとその断固たる意志は、CB初体験のコロを目覚めさせ、精進に向かわせたのである。

 経験、佇まい、性格などの点で、吉田をアダムズと比べるのは恐れ多く、少なくとも筋違いだろう。だとしても、吉田は吉田なりに、先輩として何らかの範となる努力を怠るまいとしているのではないか。そこには、入団以来決して順風満帆とは言えなかった苦悩、内心の葛藤、このままでは終われないと奮起した反骨までうかがい知れ、自身のセインツキャリアについての前向きな覚悟のようなものまでも感じてしまう。

セインツファンのハートをつかんだ『マヤ・ヨシーダ』

 奇しくも、吉田の内に秘めたその覚悟に敬意を表し、しばし祝福するかのようにこのパレス戦の勝ち越しゴールは吉田の右足から生まれた。それも、直前の成り行きから敵ゴール直近の位置にたまたま居残っていた“強運”によって。

 その瞬間、シャツのセインツマークに何度もキスをしたうえ、派手なスライディングパフォーマンスで喜びを爆発させたのも、痛いほどよくわかろうというものだ。同時に、『マヤ・ヨシーダ』の名前は、改めてセインツファンのハートをがっちりつかんだことだろう。このジャパニーズは頼りになる、めったにでしゃばりはしないが、ここぞというときに仕事をやってのけてくれる!

 締めくくりに一しきり、“蛇足”として付け加えておく。日本代表の吉田には少々“熱くやりすぎる”きらいが見えないか。もしそうだとすれば、やはりそれは、サウサンプトンにおける彼の現在の立ち位置からくる余裕と自信との“落差”によるものかもしれない。吉田麻也はひたすらじっと構え、余裕のウィットもスパイスにして、あくまでも黒子のチームの要に徹する方がふさわしい。“結果”のためにも。

 もっとも、そんな“良きゆとり”効果に、ハリルホジッチが気づかないまま、ひょっとして苦言を呈する恐れもなきにしもあらずだが…。あえて“心象的”に予言させてもらうなら、タイ戦大勝にも問題山積がささやかれるサムライブルーの“是非”と希望の行方は、そこにかかっているような気さえするのである。

(文:東本貢司)

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