なぜ多くの名物アナが存在? メディアも球団の一員、米国の野球放送とは

4月8日(金)10時46分 フルカウント

ファンに愛される名物アナウンサーが誕生する米国

 ビン・スカリーやハリー・キャリーという名前をご存知だろうか。彼らはメジャーリーグの名物アナウンサーとして長らく野球ファンを楽しませてきた。

 ビン・スカリーさんはロサンゼルス・ドジャースの専属実況アナウンサーとして67年目を迎えているが、2016年シーズン終了後に輝かしいキャリアに終止符を打つことになる。ドジャースタジアムへ繋がる道が「ビン・スカリー・アベニュー」へと改名されるほど、彼の人気は絶大なるものだ。

 ハリー・キャリーさんもいくつかのチームで実況を経験し、最後の16年間はシカゴ・カブスのテレビ専属実況アナウンサーを担当。今や歴史あるリグレー・フィールドの外には銅像が建っている。

 これだけファンに愛される名物アナウンサーがなぜ誕生するのか。それは、メディアと一体となる構造がメジャーリーグ各球団に存在するのではないだろうか。

シーズン中は選手とともに行動、メディアスタッフもチームの一員

 日本に比べると、米国では有料ではあるがケーブルチャンネルを契約している人口も多く、全米放送される野球中継の多くが自然に見られる環境下にある。それでも各球団はローカル局と契約をして、全米各地で「ホーム」チームの試合が見られるようになっており、球団ごとにテレビ・ラジオ専用の放送チームが組まれている。彼らは選手、スタッフがシーズン中に使用するチャーター機にも共に乗り、同じ宿泊先に泊まり、年中チームと共に行動する。

 最初はメディアの人間がチームと共に移動することに違和感があったが、日が経つにつれて彼らがチームにとってどういう存在なのかを理解するようになった。チームと共に行動し、関係を築いていく上で全国中継では見られない選手の素顔やストーリーを引き出していく。

 もちろん、選手とメディアの一線はあるものの、チームの広報的な存在でもある気がする。それでも時に厳しい発言などをして、選手たちから「そこまで言うのか?」という思いをされるときもあるが、最終的にはお互いがプロとしての立場を理解している。厳しい意見があるからこそ、視聴者に向けて説得力が出てくる。

 各球団で働くスタッフの名前が綴られている球団公式サイトのフロントスタッフページには、「ブロードキャスティング(放送スタッフ)」という欄の下にラジオ・テレビの解説、実況だけでなく、プロデューサーやエンジニアの名前まで綴られている。球団によっては「ブロードキャスターズ(解説者)」と題して専用ページがあり、それぞれのプロフィールがある。ロサンゼルス・ドジャースの公式サイトに行ってもらえれば分かると思うが、ビン・スカリーさんのプロフィールは通常の選手よりも長いくらいだ。

 ローカル局だけではなく、メジャーでは現在、全国放送局のESPN、FOX、TBS、そしてMLBネットワークと契約を結んでいる。放映権の総額をMLBが一括し、30球団に分配する仕組みで成り立っている。

 それぞれの放送局では独自路線で中継番組を制作し、ESPNでは日曜夜に放送される「サンデーナイト・ベースボール」、月曜夜の「マンデーナイト・ベースボール」、水曜夜の「ウェンズデーナイト・ベースボール」がある。木曜夜にはMLBネットワークが放送する「サーズデイナイト・ベースボール」、そして土曜日にはFOX、日曜日にはTBSと、曜日によって各チャンネルが全国放送する試合の権利を持っている。

 ESPNでは日曜夜に放送する試合に今シーズンから初の女性解説者を起用することを決めた。ジェシカ・メンドーサさんはアテネ五輪のソフトボールで米国代表の一員として、金メダルを獲得。そして解説者としてもキャリアを始め、2015年カレッジ・ワールドシリーズ(大学野球の全米選手権)では解説を担当。昨シーズンも幾度となく「代役」で解説者を務めたが、ESPNは今年から正式に彼女を起用することを決定した。

 1つの「地方」だけではなく、全国をターゲットとする放送局は、人気を誇る元選手や独自の人選で視聴者へ野球を提供する。

全国放送とローカル放送、ターゲットの違いとは

 全国放送局とローカル局の試合を見比べていて感じる違いは、ターゲットとする視聴者だろう。地元では、試合中に地元NPOやチャリティーをおこなう財団法人の責任者をゲストとして呼ぶこともある。ホームチームの野球の試合を提供するだけでなく、地元をターゲットにした番組作りをしていることが見て取れるときが多い。地元出身の芸能人やアスリートなどをブースに招くこともある。

 野球の試合はどうなったのだろう、と疑問に思うぐらい話題がそれることもないわけではないが、162試合の長いシーズン、そして比較的ゆっくり見る野球中継だからこそできる試みなのだろう。

 全国放送の中継では、MLB全体の動きや他試合を交えた話題が目立つ。ターゲットがそれぞれの地元ではなく、野球ファン全体に向けた制作だからだろう。客観的にその街の様子を伝えたりもするため、地元局との視点も違っていて、それぞれを見比べると非常に面白い。

 2015年にはメジャー専門チャンネルMLBネットワークが「スタットキャスト」という専門分野を設立し、多くのデータを駆使した放送が可能となった。伝える側にも難しさが増したが、見る側としてはさらに野球への見方の幅が広がるだろう。MLBネットワークは視聴者が野球ファンということが前提なので、より野球の見方が深くなる情報を提供するという、ターゲットを考えた作りとなっていくのではないだろうか。

 メジャーには名物アナウンサーが多く存在し、それぞれのローカル局でも人気を誇る。それは地元に根付いたファンが多いこともあるだろうが、放送に関わる者たちも選手と同じく厳しい競争を勝ち残ってきたからだろう。

 各球団にラジオ、テレビと放送チームが組まれているものの、毎年入れ替わりがある席ではない。もちろん長いシーズンのため、「代役」としてシーズン中に何度か実況が代わることはあっても、年間を通してチーム専属アナウンサーになれる人間は一握りだ。それでも米国の野球界には、メジャーでそのイスを勝ち取るために経験を積める場が多く存在する。

 マイナーリーグだけではなく、各大学でもラジオチャンネルを持ってスポーツ専用のアナウンサーを雇用している場合が多い。それぞれの場で実戦を積んでくるからこそ、メジャーの舞台にたどり着く頃には洗練されたアナウンサーとなっている。

 ターゲットが地元であるためローカル局ではチームに縁のある元選手を起用するところも多い。それでも元選手ではなく、喋りのプロをメインに構成している球団も多く、結局は実力勝負であることが分かる。メジャーでは実力者が生き残り、多くの名物アナウンサーが存在する。その所以とは何なのか、さまざまな背景を知ることによって、理解を深めていくことができる。

 理由を追求していけば限りないが、いろいろな中継を見比べることによってヒントが見えてくる。これからはオンライン中継や端末で見られる放送など、メディアも多様化していく。ローカル局にとっては「顔」となる名物アナウンサーの存在、そして全国放送局にとっても人選や取り組みが鍵となってくるだろう。それぞれが野球というコンテンツとともにどう進化していくか今後も楽しみだ。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

新川諒●文

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