中田英寿 サッカーの次にプロ目指した「日本酒」の世界語る

4月8日(土)7時0分 NEWSポストセブン

「世界のヒデ」がサッカーの次に目指したゴールとは?

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 いつも冷静沈着な岡田武史・サッカー元日本代表監督(現・日本サッカー協会副会長、今治FC代表取締役)も、その日ばかりは驚いたという。


「昨年9月、私の還暦祝いのパーティーが行なわれたんです。ヒデはちょうど海外にいるということで参加はできなかったんですが、その代わりにと送ってきたのが60本の日本酒。しかも全部別の銘柄で、30本はパーティーの会場用、残りの30本は私が個人で飲む用にと分けてあった。


 僕は、酔っぱらえればなんでも飲む人間なんですが、さすがにどれもすごく美味しかった。人とは違うことで楽しませてくれるのが、ヒデらしいなぁと思いました」


 中田英寿氏は、いま日本酒に本気で向きあっている。2006年、29歳で現役を引退。2009年には沖縄の波照間島から日本全国を巡る旅をスタートし、6年半かけて北海道・宗谷岬までたどり着いた。


「各都道府県、短いところで1週間、長いときは何度も足を運んで1か月以上かけてまわりました。観光地を巡るというよりは、農業や食、伝統工芸、伝統芸能などに携わる人々に出会うための旅です。そこでたくさんの人や文化に触れあい、あらためて日本の魅力を感じたんです」(中田氏・以下同)


 6年半の間で旅に費やしたのは、のべ500日以上。1台の車で約10万kmを走り、2000か所以上を訪問し、1万人以上に出会った。その旅の中でとりわけ彼の心を惹きつけたのが、日本酒だったのだ。


 米と水が醸しだす芳醇な香味。蔵人ひとりひとりの思いが込められた日本酒は、土地によって驚くほどに味わいが変わる。かつて「ワインかシャンパンしか飲まなかった」という中田氏は、日本酒の奥深さを知り、のめり込んだ。


 これまでに訪ねた酒蔵は300以上。元来、真面目な中田氏は、日本酒の勉強を重ね、利き酒師の資格を取り、昨年はついに酒類販売業免許まで取得した。完全に日本酒のプロになったのだ。


「子どものころサッカーを始めたとき、プロになりたいなんて思ってもいなかった。ただサッカーをしているのが楽しくて、それを続けていたらプロになっていたという感じです。日本酒も同じ。


 日本酒が好きで、たくさんの銘柄を飲んで、たくさんの蔵人に会い、知識や経験を重ねるうちに、自然とプロを目指していました。僕は酒を造るわけでも売るわけでもないけど、自分なりに日本酒業界に貢献できることがあるんじゃないかと考えたんです。


 日本酒は国内だけでなく海外でももっと多くの人に楽しんでもらえるポテンシャルがある。みんなが日本酒を美味しいと感じるためのきっかけを、僕が作れるんじゃないかと思ったんです」


 2012年ロンドン五輪、2014年ブラジルW杯、2015年ミラノ万博など、世界的なイベントの際には現地に日本酒バーをオープン。海外での日本酒の知名度アップのためにひと肌脱いだ。


 英語、イタリア語、フランス語など7か国語で日本酒を検索できるアプリ『Sakenomy』をプロデュースし、昨年からは、日本全国の銘酒が一堂に揃うイベント『クラフト サケ ウィーク』を開催。日本酒好きはもちろん、これまで日本酒に縁のなかった人たちにも、その魅力を伝える活動を続けている。


 3月21日からは初の地方開催となる『クラフト サケ ウィーク 博多』がスタート。前日に福岡入りした中田氏は、プロデューサーとして会場の設営や音響、オペレーションなどを細かくチェックし、スタッフに指示を出す。のれんの色や酒器の見せ方、料理のサービス方法まで、すべてに完璧を求める。


「日本酒のPRイベントは他にもたくさんあります。でもせっかくやるからには、単に酒を飲むだけではなく、そこにいる時間を楽しんでほしい。カップルや家族で来て、酒を飲めない人でも“また来たい”と思えるようなイベントを目指しています」


 会場のデザインは、世界で活躍する建築家・藤本壮介氏が担当。酒に合わせて提供される食事も、2つ星のフレンチ『レフェルヴェソンス』やイタリアンの『ドンチッチョ』など、ミシュランクラスの名店ばかりだ。このイベントには、中田氏の培ってきた人脈がフルに生かされている。


 続いて4月7日から東京・六本木で開催される『クラフト サケ ウィーク 六本木ヒルズ』では、新しい花見を提案したいという中田氏のアイデアで、プラントハンター・西畠清順氏の協力を得て、昨年から準備。約1000本の桜の枝を用いた“桜の花畑”が会場を彩る。


 だが、もちろん主役は日本酒。この『クラフト サケ ウィーク』では、テーマに合わせて日替わりで10軒の酒蔵が出店するが、出店数を10軒に絞ったのにもこだわりがある。


「1日で味を記憶できる種類は限られていると思います。たくさん飲んでも酔っ払ってしまえば、どれが美味しかったか忘れてしまうじゃないですか。


 僕は、このイベントで美味しいと思ったら、銘柄を覚えてもらって、次は自分で買ったり、居酒屋で注文したりしてほしい。ひとつずつをしっかり味わってほしいと思って、1日の蔵数を絞っているんです」


 博多で6日間、六本木で10日間の計16日、148蔵が参加することになるこのイベント。ここに出店できるのは、すべて中田氏が自ら飲んで美味しいと思った酒蔵だけだ。


「日本酒がおもしろいのは、毎年天候などによって味が変わること。使う酒米や酵母にもブームがあって、ファッションのようにどんどん変化している。


 逆にいえば、有名だから、去年美味しかったからといって、今年も美味しいとは限らないんです。だから毎年ちゃんと自分で飲んで、参加する酒蔵を決めるようにしています」


◆なかた・ひでとし/1977年、山梨県出身。日本、イタリア、イギリスでサッカー選手として活躍。W杯には3大会連続出場。2006年に現役引退後は国内外の旅を続け、日本文化復興や東日本大震災の復興などを目的としたチャリティー活動を行なう。2016年「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。国内外で日本酒イベントを行なうなど伝統文化・工芸の普及を目指して活動中。4月7日より東京・六本木ヒルズアリーナにて『クラフト サケ ウィーク』を開催。全国から中田氏自身が選んだ100種類の酒を楽しむことができる。詳細はhttp://craftsakeweek.com/まで。


撮影■岡村昌宏 取材・文■川上康介


※週刊ポスト2017年4月14日号

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