経済から見るタイサッカー。景気低迷も代表には勢い、アセアン利用し新たな局面へ

4月9日(土)10時0分 フットボールチャンネル

好調のタイ。アンケートでは3割以上がW杯出場可能と

 3月24日にイランで行われた2018年のロシアW杯アジア2次予選、タイはイラクと2対2で引き分け、F組1位を確定。実に、2002年日韓ワールドカップの予選以来となる、最終予選進出を決めた。活躍する代表以外にも、タイサッカーは様々な面で新たな局面を迎えようとしている。(文:長沢正博【タイ】)

ーーーーーーー

 インドネシアがFIFAから資格停止処分を受け、タイ、イラク、ベトナム、台湾の4チームで行われたF組。終わってみればタイは4勝、2引き分けという無敗での突破となった。

 大きかったのは、強豪イラクとのホームおよびアウェイでの対戦を引き分けに持ち込んだ点だろう。昨年9月のホームでの対戦は、イラクのスピードある攻撃に苦しみ、後半途中まで2点をリードされながら、見事な粘りで追いついた。

 イランでの試合も序盤からピンチの連続だったが、GKを中心にしのぐと、CKから先制。その後、追いつかれるも、今度はFKから勝ち越し点を奪う。終了直前に再び同点とされたが、1位を確定する勝ち点1を得ることに成功した。

 タイ代表の活躍に国内は沸いている。タイの国立コンケン大学が今年1月にタイ東北部20県でサッカーに関心を持つ18歳以上の700名を対象に行ったアンケートでは、タイが2018年のロシアW杯に出場できると答えた人が37.8%に上ったという。比較するデータはないが、タイにとって近年になくW杯が現実のものとして近づいているといえるだろう。

 最終予選の組み合わせ4月12日に決まる。比較的組み合わせに恵まれた2次予選に比べ、最終予選では日本や韓国、オーストラリアなどのような強豪国ばかりが待ち構えている。守備などに課題があり厳しい戦いが想定されるが、何より彼らとの対戦を選手、サポーターが待ち望んでいる。

 タイ代表のキャティサック・セーナームアン監督がまだ現役の代表選手だった前回の最終予選は4敗、4引き分け(5チームのホーム&アウェイ)と未勝利で終わった。まずは前回を上回る成績を残したいところだ。

強豪チームが相次いでタイ近隣国へ遠征。大企業の思惑

 ほかにも、年明けからタイのサッカー界には興味深い動きが見られた。まず、シーズンオフにブリーラムユナイテッドとムアントンユナイテッドという強豪チームが、相次いでタイの近隣国へ遠征したのだ。

 昨季のリーグ戦、FAカップ、リーグカップを制したブリーラムユナイテッドは1月23日にカンボジアの首都プノンペンでカンボジアオールスターズと、同31日にはラオスの首都ビエンチャンでラオスオールスターズと対戦した。

 昨季2位のムアントンユナイテッドは1月16日にプノンペンでカンボジアオールスターズと、同23日にはベトナム南部のビンズオンでレ・コン・ビン擁する昨年のVリーグ覇者べカメックス・ビンズオンと親善試合を行った。

 結果をまとめると、ブリーラムとカンボジアオールスターズとの試合は2対2のまま90分を終え、PK戦の末、カンボジアオールスターズが勝利した。ラオスオールスターズとの試合は3対1でブリーラムが勝利している。

 ムアントンはカンボジアオールスターズとの試合を4対3で落とすと、ビンズオンにも2対1で敗れ、力の差を見せつけるという結果にはならなかったが、ブリーラム、ムアントンとも地元の子供たちを対象にサッカークリニックを開く等、各地で交流を深めていた。

 今回の遠征には、両チームのスポンサーであり、遠征にも協賛した大企業の思惑も透けて見えた。

 ムアントンの本拠地の名称にも付くSCG(サイアム・セメント・グループ)は、セメント、石油化学、製紙など多角的に事業を手掛けるタイの大企業だ。ブリーラムのスポンサーでもあるタイビバレッジは、タイへ旅行に来た人なら一度は見たことがあるかもしれないビール“ビアチャーン”で有名なタイの大手飲料メーカー。同社はブリーラムのホームスタジアムに隣接するサーキット場の命名権を取得するなど関係が深い。

タイ経済の低迷によって戦略にも変化が

 2社に共通しているのが、アセアン(東南アジア諸国連合)域内での売上増を戦略としていることだ。タイビバレッジは中期経営計画ビジョン2020の中で、東南アジアで最大の飲料メーカーを目指すとしている。また、同社を傘下に収めるTCCグループでは、タイ国内のカンボジアとラオスの国境付近に大型ショッピングセンターを建設している。

 SCGもタイ以外での売上増を目指し、アセアン各国で積極的に工場建設などを進めており、カンボジアでは大規模なセメント工場を建設、ベトナムにも大きな投資を行っている。

 日本からは意外に思われるかもしれないが、昨今、タイの経済は伸び悩んでいる。政情不安があった2014年のGDP(国内総生産)成長率は0.8%、2015年も2.8%(いずれもタイ国家経済社会開発委員会)と、かつての勢いは影を潜めている。国内需要の低迷、中国の経済減速による輸出の不振など様々な要因が影響した。

 加えて、タイは出生率が1.5(2013年、世界銀行)と日本並み(同1.4)に少子化が進行しており、将来的に人口増による市場の拡大は難しい。そこで注目されているのが、タイ周辺にあるラオス、カンボジア、ベトナム、ミャンマーという、まさに今経済成長が盛んな国々だ。トヨタもこれらインドシナ半島を流れるメコン川流域国のクラブによるメコンクラブチャンピオンシップを昨年、一昨年と開催している。

 今回の2チームの遠征は、上記2社のスポーツを活用した周辺国へのマーケティングでもあった。これまで外国企業からの投資や、ヨーロッパなどの強豪チームの遠征を受け入れる一方だったタイが、成長を求めて自ら国外へと打って出る立場に変化してきたのだ。

アセアン経済共同体が発足、アセアン枠に弾みか

 折しも東南アジアでは昨年末にアセアン経済共同体(AEC)が発足した。簡単に言えば、アセアン加盟10ヶ国間で人、もの、金の動きを活発にし、より経済的な統合を深めていこうという取り組みだ。現状、課題は山積みなのだが、様々な面で東南アジアが結びつきを強めようとしていることは間違いない。

 かつてタイではアセアン枠について議論に上ったことがあった。Jリーグが提携国枠を導入したように、地域随一のレベルを持つタイでアセアン枠が創設され、東南アジア各国の選手が競い合うようになれば、よりタイのリーグに注目が集まる。実現の可能性は未知数だが、アセアンスーパーリーグが構想段階のまま進展しない中、より実現性が高い選択肢といえる。

 タイでは2月にサッカー協会の会長にソムヨット・プンパンムアン前タイ警察長官が就任し、日本でもプレーしたヴィタヤ・ラオハクル氏が技術部門の責任者に就くなど協会の体制が一新された。新体制は、これまでの“タイプレミアリーグ”という名称を“タイリーグ”へと変更、運営会社も新しく設立した。これは前運営会社の株式の多くをウォラウィ・マクディ前会長が握っていたためとも言われている。

 改革に大鉈を振るったリーグは開幕が1週間遅れ、地域リーグにあたるディビジョン2に至っては会長選前から一部チームが開幕を拒否するなど混乱が発生。結局、新体制下で地域分けからやり直され、1ヶ月以上開幕が遅れた。

 タイのサッカーにとどまらずタイという国そのものが今、新たな局面を迎えようとしている。その先に、悲願のW杯出場が結実するのか。最終予選は9月から始まる。

(文:長沢正博【タイ】)

フットボールチャンネル

「景気」をもっと詳しく

「景気」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ