齋藤学が示した“10番”を背負う意味。中村俊輔の継承者が切り拓くマリノス新時代

4月9日(日)10時16分 フットボールチャンネル

“10番”中村俊輔が「帰ってきた」。サックスブルーをまとって

 今季からジュビロ磐田に移籍した中村俊輔が、初めて古巣である横浜F・マリノスの本拠地に凱旋することで注目を集めた一戦。その俊輔から“10番”を受け継いだ齋藤学が躍動した。トリコロール新時代の象徴は、ピッチ内外でリーダーとしての自覚と成長を見せ始めている。(取材・文:舩木渉)

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 試合を決めたのは“10番”だった。

 2017年4月8日。日産スタジアムに中村俊輔が帰ってくることで注目が集まっていた、明治安田生命J1リーグ第6節の横浜F・マリノス対ジュビロ磐田が行われた。

 昨季まで10番を背負い、長きにわたって横浜FMの象徴だった中村俊輔に「帰ってくる」という表現を使うことにはまだ違和感がある。だが試合が終わった頃には、これからは「帰ってくる」でいい…そんな感覚があった。

 そう考えるに至ったのは、やはり中村俊輔から“10番”を受け継いだ齋藤学の輝きを目の当たりにしたからに違いない。横浜FMの新たな時代の先頭に立つドリブラーは、サックスブルーの戦闘服をまとった先人にプレーと結果で自らの成長を示した。

「僕はずっと背中を見て育ってきたので、そういう選手と試合をするのは不思議な感覚でした」

 中村俊輔と対峙するにあたって、齋藤は「マリノス対ジュビロだ」とチームメイトたちに言い続けてきたという。だが、ただのリーグ戦の1試合と口で言うことはできても偉大な先輩との対戦に無関心であるのは難しい。本人もそのことは十分に理解していた。

 それでもキャプテンになった齋藤は、これまで以上にチームの勝利だけに集中することができていた。なかなか結果が出ない中で、今週初めには選手だけでミーティングを行い、意識の共有を図った。これは齋藤がチームに伝えたいことを伝える場でもあった。

「セレッソ戦の後に副キャプテン何人かと喋って、『副キャプテンたちだけで一回声を出し合うのもありかな』って言っていたんですけど、それよりも僕はみんなで一回意識の共有をしたかった。オフの間ずっと何を言うか考えていて、中身は言わないですけど、それでもいい話し合いをできたから練習のみんなの姿勢が変わったと思う」

 ミーティングの成果は磐田戦にしっかりと反映された。「僕がアシストしたことよりも、一人ひとりが走りきって、球際で戦って、最後の最後まで戦う姿勢を見失わなかったことが僕は嬉しい」と齋藤は語る。

 リーグ開幕戦から2連勝を飾ったものの、その後は公式戦4試合連続で勝利なし。明らかに流れの悪い中、磐田戦が今後につながる大きな勝ち点3になったことは間違いない。過去との決別も含めて。

2アシストの齋藤学が見せた“怖さ”。ゴールなくとも相手の脅威に

 齋藤はピッチ上でも違いを見せた。36分、左サイドでボールを持つと中村俊輔の目の前からマルティノスにピンポイントのクロスを送り、先制ゴールを演出。さらに73分、中央でコーナーキックからのこぼれ球を拾い、ペナルティエリア内でフリーになっていた金井貢史へやさしい浮き球のパスを送り、決勝ゴールの起点となった。

 2アシストという目に見える結果以上に、プレーも明らかに変化している。これまでのように左サイドに固執することなく、中央や逆サイドまで顔を出して攻撃のあらゆる局面に関与する。またドリブル一辺倒ではなく、相手と味方の動きを見極めて決定的なラストパスも出すことができる。対戦する選手からしてみれば怖くて仕方ないだろう。

 ボールを持った際の姿勢も以前とは違う。かつてのように前傾するのではなく、上半身を起こして視線はボールではなく常に前を向いている。これによってドリブル中も相手をしっかりと見て的確かつ効果的なプレーを選択できるようになった。また、ただボールを要求するだけでなく周りの選手たちに積極的に声をかけるようにもなった。

 それでもまだ成長できる。その実感は齋藤自身の頭の中にはっきりと刻まれている。

「僕を警戒してくるチームに対しては、この前のセレッソ戦もちょっとやりかけてできなかったんですけど、いろいろな形を今とろうとしていて、ああやってシフトしてくるからこそまた違うところに穴が空いてくると思う。それでもまた僕は点取れなかったですけど、2アシストということで警戒されると思うので、またいろいろなところを突いていきたい」

 C大阪戦は徹底マークに遭って良さを消されてしまったが、あからさまに自らを警戒してくるチームに対して闇雲にドリブル突破を試みるのではなく、周りと連動しながら崩す形を模索している最中。齋藤にとっての磐田戦は通過点にすぎなかった。

「俊さんが僕らの変化を感じてくれればいい」

 自らの意志で中村俊輔の“10番”を受け継ぎ、エリク・モンバエルツ監督からはキャプテンを任された。「キャプテンになった自覚はないわけじゃないけど、僕はチームがどうやったら強くなるかを考えて行動しているだけ」と齋藤は語るが、背負うものの大きさや立場が変わったことで潜在的な意識の部分に変化があったことは確かだろう。

「戦う姿勢。僕が若いころにずっと教えられていたものなので、マツさん(松田直樹)とか河合竜二さん(現札幌)とかね。そういうものを今の若い子たちはあまり知らないので、僕らが見せていかなきゃいけないかなと思う」

 こういった何気ない一言からも、齋藤自身の立ち位置やサッカーへの向き合い方がこれまでと変わってきていることは明らかだ。中村俊輔も「アイツはキラキラしたものを持っているから」と自分の“10番”を受け継いだ齋藤への期待を語る。

「去年からいろいろ思っていたことはあったけど、僕ひとりで考えているというよりは副キャプテンのボンバー(中澤佑二)だったり、(飯倉)大樹くんだったり、(栗原)勇蔵くんだったり、喜田(拓也)だったり、マチくん(中町公祐)だったり、みんなと話しをしてこうやっていこうと言った結果ああいうものが生まれている。本当に僕だけじゃないので。本当にいいチームになれるかなと思います」

 齋藤が言うように、中村俊輔去りし後の横浜FMは非常に若く、発展途上のチームである。リーダーとしての自覚が芽生えた新たな“10番”を先頭に、経験豊富な心強いベテランたちがチームを支え、20代前半の若い選手たちが躍動する。

「俊さんが何か僕らの変化を感じてくれればいいですけど」

 実際に対戦した中村俊輔は、古巣の変化とかつての戦友たちからのメッセージを直に感じ取ったはずだ。注目された“新旧10番対決”は、齋藤に軍配が上がった。それはクラブ25周年の節目に、横浜FMに新たな時代が到来したことを告げる歴史の新たな1ページとなった。

 トリコロールの戦士たちは新時代の“10番”とともに、未来へと突き進んでいく。

(取材・文:舩木渉)

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