なかなか試合を中止にしないMLB なぜ米国ファンは雨の中待ち続けるのか

4月10日(日)23時7分 フルカウント

米国では青空の下、天然芝でプレーする選手たちを見ることが野球観戦の醍醐味!?

 4月7日、ほっともっとフィールド神戸で予定されていたオリックス—楽天の試合は、プレーボール約4時間前の時点で雨天中止が発表された。天気は午前中から雨模様だったことから、選手にとってもプレーできる状態ではなく、集客も見込めないという早めの決断だったことが予想される。

 日本ではドーム球場が多いが、パ・リーグでは千葉ロッテ、楽天が屋外球場を本拠地に持つ。一方、メジャーリーグでは現在、1球団のみが完全な密閉式ドーム球場を本拠地とし、1球団が人工芝の開閉式屋根付き、5球団が天然芝の開閉式屋根付き、それ以外の23球団は屋外球場となっている。

 アメリカでは、青空の下で選手たちがプレーし、ファンも青空の下で観戦してこそベースボールという風潮が強いように感じる。ドーム球場を本拠地とするトロント・ブルージェイズ(開閉式)やタンパベイ・レイズは土地柄もあるかもしれないが、シーズン中何度も対戦相手として訪れると、いつも空席が多い印象があった。

 数字を見ると、2014年シーズン総観客動員数でブルージェイズは30球団中17位、レイズは29位だった。そこからブルージェイズは好成績と共にファンが足を運ぶようになり、2015年シーズンは全体8位まで浮上した。一方で、レイズは観客動員数で最下位となってしまった。チームの成績が向上すればファンはやってくるが、下位に沈んでしまうとドームを本拠地にするチームはそれだけファンを呼び寄せるのに苦労するのかもしれない。

 日本では音楽やエンターテイメントのイベントはドームで開催されることが多く、アーティストが「五大ドームツアー」と題して全国を回ることも多い。気候の影響もなく、音響調整も野外とは違って楽になり、イベントを運営する意味ではドームを好むのも不思議ではない。そういった環境に慣れている分、日本では野球観戦は、必ずしも青空の下でというこだわりは強くないのかもしれない。

 だが、アメリカでは青空の下、天然芝でプレーする選手たちを見ることが野球観戦の醍醐味という感じがある。さらには、青空球場の特性を生かした花火などのイベントもシーズン中は多数企画されている。

 もしかすると、米国ファンにとっては元々、野球観戦だけが目的でないのかもしれない。雨天中断となっても、その時間ビールを飲んだり、食事を楽しんだり、オフィシャルチームショップでグッズの買い物をしたりと、いろいろな楽しみ方ができる空間が多く存在する。外野にはスポーツバーのような空間を作り出しているボールパークも少なくない。そしてスイートルームでの観戦をしているファンも多く、彼らにとっては中断することでビジネスの会話や商談がその場でできる貴重な時間となるかもしれない。

 さらには、公共の交通手段を使って観戦に訪れるファンが多い日本とは違って、車社会の米国は終電の時間を気にしなくてよい分、ある程度余裕を持って雨の中でも試合再開を待つことができる。日本では数時間の中断を挟んでしまうと、脳裏に終電の時間がよぎってしまうファンも多いだろう。

メジャーで試合を簡単には中止にできない理由とは?

 そしてメジャーでは、なかなか試合を中止にできない国土と過密日程の事情もある。30球団で構成されるメジャーでは同じ相手とシーズン中に何度も対戦しない。シーズン中に同じ土地を訪れることも少ないため、その1試合を中止にしてしまうと、両チームの予定をやりくりする必要が出てくる。連戦の初日であれば、翌日ダブルヘッダーを組むなど対処の術はあるが、最終戦であり、しかも移動日での雨天中止となると、その選択肢がなくなってしまう。

 試合開始前であれば、試合を中止にする決定権は開催チームにある。だが、一度試合が始まると、審判にその判断は委ねられる。ただ、大抵は一方的な決断ではなく、両チームの監督、そして球場責任者、審判が集まって話し合いをする場面がよく見られる。

 一度試合が中止となると、その試合をどこに振り替えるかという話し合いが行われる。両チームにとって「ちょうどいいオフ日」があれば話は早い。だが、長いシーズンで全米各地を飛び回っている両チームにとって、シーズンが後半になればなるほど「ちょうどいい日」と呼べる候補が少なくなってしまう。

 選手たちはオフ日を返上することになるため、長期連戦に変貌を遂げてしまう可能性もある。選手会とMLBでは、可能であればオフ日なく20日間連続で試合を開催することは避けるべきという取り決めも行われている。そのため、雨天中止となった試合の影響で20日以上の連戦となる場合は、選手側の同意もチームは必要となる。

 20連戦以上となる日程の組み合わせが必要となれば、監督からチームの選手会代表に相談があり、選手だけで意見を交わす話し合いが行われる。そこで議論となるのが、1試合のためにどこからどこへの移動が最適なのか。そして、埋め込もうとしている試合周辺のスケジュールを比べて、チームにとってどちらに振替試合を組み込むのがベストかを議論する。選手会とMLBが交わしている労働協約では、さまざまな規定があるため選手たちの意見も尊重される。

再開を我慢強く待つファンのために

 現場にいた頃は、合計何時間、雨のために待たされたかは予想もつかない。だが、いつも驚かされるのが、数時間の中断を経てからの再開でもファンは球場に残っていることだ。そのファン心理を逆手に取るわけではないが、試合を運営している側とすれば、待ってくれるファンがいる限り、早い段階での中止は利益の損失になるだろう。

 雨天中止になるかもしれない状況下でも、ファンは再開を待ってくれる。その間、試合は開催されていないのでファンはビールを購入したり、食事をしたりしてくれる。球場側も他試合をビジョンで流し、時には他競技であっても地元チームの試合を中継する。雨が降っていてもファンを帰らせない仕掛けを考える。

 マイナーでは人手が足りないために、スーツを着たGMまでもがグラウンドへのシートを敷く作業に参加する。球団スタッフが一丸となって、取り組む作業は見ている側としては心温まるシーンに映る。もちろん、びしょ濡れになって作業に取り組んでいる者たちからしたらたまったものではないだろうが、ファンもこういうシーンを見て大歓声を送る。これはマイナーならではの光景かもしれない。

 メジャーでもマイナーでも、雨が降って、数時間中断しても帰らないファンを見ると、「アメリカ人は本当に野球が好きだな」という単純な思いが最初はあったが、実際にはファンたちが球場に残る理由があり、ファンが残ってくれるための仕掛けが多く存在するのではないかと思うようになった。

 今季、メジャーではニューヨーク、そしてクリーブランドで開幕戦が中止となった。クリーブランドでは体感温度がマイナス7度だったことから、低温を理由に中止の決断が下された。それでも服を着込んだファンたちは球場前で開幕戦の開催を楽しみに待ち続け、地元メディアでは中止の決断に多くの不満の声があったという報道も目立った。もちろん開幕戦という特別な日であり、単純に平日の昼間に休みを取ってしまったため、翌日に試合を振り替えられても観戦に行けないという声もあるかもしれない。

 ともあれ、どんな環境下でも試合を楽しみにしてくれるファンがいる。運営の安全面、選手たちにとっても安全な環境でプレーさせることを大切にしながら、試合が雨で遅れて中断してもファンが残ってくれる理由を作り続ける仕掛けは、今後も進化が求められるだろう。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

新川諒●文

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