川崎F・奈良竜樹が放つ異彩。2度の負傷と五輪代表落選経て培った強靭なメンタリティー

4月11日(火)12時5分 フットボールチャンネル

自らのミスを取り返した劇的ゴール

 けが人が続出して、苦しい戦いを強いられている川崎フロンターレの最終ラインで奈良竜樹が異彩を放っている。左足腓骨を2度にわたって骨折し、シーズンの大半だけではなく、目標にすえてきたリオデジャネイロ五輪も棒に振った昨シーズンからの復活を期す23歳のセンターバックは、ミスをすぐに帳消しにする強靭なメンタリティーを武器に少しずつ、雄々しく成長を続けている。(取材・文・藤江直人)

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 どん底からはいあがってきた男は強い。ピッチにはいつくばり、絶望的な視線で自軍のゴールのなかに転がるボールを見つめてから3分とたたないうちに、両拳を握りしめながら雄叫びをあげる。

 リオデジャネイロ五輪代表候補だったDF奈良竜樹が自らの判断ミスで献上した失点を、J1では約4年4ヶ月ぶり、川崎フロンターレに移籍してからは2年目で初めてとなるゴールで帳消しにしてみせた。

 ヴァンフォーレ甲府をホームの等々力陸上競技場に迎えた8日のJ1第6節。ともに無得点のまま、7分間が表示された後半アディショナルタイムに突入した直後だった。

 左サイドのハーフウェイライン付近でボールを受けた相手FWドゥドゥを、DF谷口彰悟、プレスバックしてきたMF三好康児ではさみながら前を向かれ、スルリと抜け出されてしまう。

 次の瞬間、ドゥドゥはゴール前へアーリークロスを入れる。標的はFW河本明人。マークしていた奈良は自身の右側に河本がいることを把握したうえで、オフサイドトラップをかける。

「あれは僕の致命的なミス。オニさん(鬼木達監督)からも練習のときから『オフサイドトラップに逃げないように』と言われていたのに、あの場面ではとっさに出てしまった。普通に(河本に)ついていけば、おそらく僕は追いつけていたと思うので」

 右手をあげて副審にオフサイドをアピールするも、ドゥドゥからパスが出た瞬間、河本は奈良よりも体ひとつ以上も後方にいた。加速する河本と、プレーを止めかかった奈良。軍配はもちろん前者にあがる。

 前方を疾走する「13番」との距離をぐんぐん詰め、最後は後方からタックルを見舞う。それでも、必死に伸ばした右足はわずかに届かず、飛び出してきたGK新井章太と無情にも交錯してしまった。

 直後のピッチを「絶望」の二文字が支配する。すぐに試合を再開させるような行動は誰も取らない。キャプテンのFW小林悠も、大黒柱のMF中村憲剛も、どことなく虚ろな表情を浮かべている。

 精神的にも大きなダメージを与えたヴァンフォーレの先制点。それでも小雨が降り続くなか、約2万人が駆けつけたスタンドは何度も奇跡が演じられてきた「等々力劇場」の再現を願って声を振り絞る。

「僕のミスから失点してしまったので、取り返すのは当たり前」

 時計の針が後半48分に差しかかろうとしていたとき、奈良の縦パスを受けたMFハイネルが強烈な一撃を放つ。相手GK岡大生の必死のセーブでゴールラインを割った直後に、奈良は自らに言い聞かせていた。

「僕のミスから失点してしまったので、取り返すのは当たり前のことだ、と思っていた」

 中村が蹴った右コーナーキック。高い軌道を描いた放物線は敵味方が密集していたニアサイドを大きく越えて、大きなスペースが広がっていたファーサイドに落下してくる。

「もう時間もなかったので、憲剛さんもどこかを狙うというよりは、ニアサイドにいたストーンの相手選手に引っかからないように蹴ったんだと思う。僕としても速いボールよりは、ああいうフワッとしたボールのほうが合わせやすいので。僕としても『いいボールが来た』と思って」

 ファーサイドにフリーで侵入してきた奈良がジャンプ一番、頭をボールにヒットさせる。緩やかな軌道を描いた放物線は、必死に伸ばされた岡の右手をかすめてゴールの右側に吸い込まれていった。

 冒頭で記したように雄叫びをあげた奈良はポジションに戻りながらゴール裏へ向けて振り返り、逆転への雰囲気をもっと煽ってほしいとばかりに、両手を下から上へ動かすゼスチャーを取った。

「僕自身は攻撃でのヘディング練習はあまりしないんですけど、あの場面では来たボールをとにかく逆方向に打とうと思ったら、たまたまいいコースに飛んだだけなので。ただ僕はスコアラー、というか点を取る選手ではなく、ディフェンスの選手として失点しないことにこだわっているので。

 このスタジアムの雰囲気は僕たち選手を動かす力があると思うので、残り時間は少なかったですけど、逆転するために一体となったムードを作り出したかった。実際、あの大声援に後押しされてチャンスがいくつか生まれたけど、点を取られてから目を覚ますようでは、やっぱり勝ち点を落としてしまいますよね」

リオ五輪目前の悪夢。左足腓骨の骨折

 試合は1‐1のまま終わった。九死に一生を得たのか、あるいは勝ち点2を失ったのか。選手たちがどのような思いを抱いていたのかは、奈良の言葉が何よりも端的に物語っている。

「プラスマイナスでゼロじゃないですね。マイナスですね、今日に限れば」

 昨シーズンのちょうどいまごろは、心技体のすべてが完璧なハーモニーを奏でていた。新天地フロンターレで、開幕からセンターバックに君臨。強気なラインコントロールで、チームの快進撃を支えていた。

 身体能力の高さと対人の強さは、北海道コンサドーレ札幌のルーキーだった2011シーズンから際立っていた。ロンドン五輪代表候補に「飛び級」で招集されるほど、大きな期待を浴びていた。

 2015シーズンには、高いレベルを求めてFC東京へ期限付き移籍。森重真人、丸山祐市の両日本代表の壁は厚く、J1での出場機会はゼロに終わったが、それでもフロンターレから完全移籍のオファーが届いた。

「成長している、という実感はあまりないというか、何が充実していたかということを含めて、そういうものはシーズンの最後に感じるものだと思うので。僕はその瞬間に自分がもっている最高のパワーを出すことを、ずっと積み重ねてきました。1日1日、1試合1試合を必死に戦いながらもがいています」

 目前に迫っていたリオデジャネイロ五輪へ。植田直通(鹿島アントラーズ)、岩波拓也(ヴィッセル神戸)とのレギュラー争いに割って入ろうか、というほどの急成長ぶりは、当時のコメントからも伝わってくる。

 しかし、好事魔多し、とはこのことを言うのだろう。5月14日のヴィッセル戦で悪夢に見舞われる。左足腓骨の骨折。全治まで約4ヶ月と診断されたが、奈良はリオデジャネイロ行きをあきらめなかった。

 退院した同28日に、その足で川崎市内のクラブハウスへ直行してトレーニングを再開させた。酸素カプセルや超音波治療を含めて、奇跡への可能性を追い求めてあらゆる努力を積み重ねた。

昨秋に練習復帰も、再び同箇所を骨折

 しかし、代表の大枠となる35人のなかに名前が入っていないことを、6月の中旬になって日本サッカー協会から伝えられる。辛かったが、ここまでの軌跡は必ず将来の糧になると自らに言い聞かせた。

「オリンピックに出られず、世界を感じるチャンスを逃してしまった分、早くA代表に選ばれたい。僕にはもうそこしかないですし、リオデジャネイロ世代からもすでに何人かが選ばれているので、もうそんなに遠い目標じゃない。そのためにも、フロンターレで結果を残し続けないといけない」

 目標をシーズン中の復帰と、ハリルジャパン入りに切り替えた。9月下旬にはベンチ入りを果たし、ピッチへの帰還まで秒読み体勢に入った直後の10月上旬に、またもや悪夢に襲われる。

 練習中の接触プレーで、同じ個所を骨折した。結局、5月のヴィッセル戦が最後の出場となったまま、奈良の2016シーズンは終わりを告げた。選手生命にもかかわってくるだけに、焦らず完治をめざした。

 実戦に必要な体力と勘が、まだ戻り切っていなかったからか。大宮アルディージャとの開幕戦、サガン鳥栖との第2節で、奈良はともに試合終了間際からの途中出場に終わっている。

 しかし、柏レイソルとの第3節からは先発に復帰。けが人が続出し、野戦病院とまで揶揄されるほどの厳しいチームの最終ラインを、谷口とともにフル出場しながら懸命に支えてきた。

 FC東京のホーム、味の素スタジアムに乗り込んだ第4節の「多摩川クラシコ」では、残り15分を切ってから喫した3失点すべてに絡み、「すべては自分の責任」と唇をかんだ。

 それでも、プレーできる状態をキープできれば、必ず取り返せるチャンスが訪れる。左足の痛みと戦い続けた昨シーズンの5月以降に比べれば、落ち込むのは一瞬で、すぐに奈良は顔をあげてきた。

「対応の部分というのは、自分のなかでも少しずつ感覚を取り戻しつつあると思っている。ただ、けがをする前の状態に戻ることが僕のゴールではない。求めるのならば、いま現在の自分に何ができるのかをもっともっと意識して、プレーのすべてを高めていきたい」

ACL広州恒大戦を経て、古巣・コンサドーレとの一戦へ

 広州恒大(中国)をホームに迎える12日のACLグループステージ第4節をへて、16日のJ1第7節では古巣コンサドーレと対戦する。札幌ドームで敵チームの一員としてプレーするのは初めてとなる。

 ユースから育て上げてくれたコンサドーレには、いまも感謝の思いを忘れていない。古巣が5シーズンぶりにJ1復帰を果たしたからこそ、実現するカード。運命に導かれた何かが、奈良を高ぶらせる。

「僕がプロのキャリアをスタートさせたチームでもあるので、いろいろな思いがありますけど。その意味でもゼロに抑えて勝って、自分の成長した姿を見せたい。その前に広州恒大戦がある。ACLもひとつも落とせない。出る選手は強い気持ちと自覚をもって、チームに勝利をもたせないといけない」

 まだ23歳ながら、波瀾万丈に富んだサッカー人生を送ってきた。どんなに強烈な逆風にさらされても、乗り越えた先に「成長」の二文字があると信じて、奈良は少しずつ前進を続けてきた。

 ヴァンフォーレ戦の判断ミスも然り。しかし、すぐに取り返そう、絶対に取り返せると自らを奮い立たせられる、強靭な精神力が180センチ、77キロのボディには力強く脈打っている。

「試合終了の笛が鳴り終わるまで、集中力を保たないといけない。どんなに抑えていても、肝心なところで失点したら、ディフェンダーとして仕事をしたとは言えない。ただ、ああいう厳しい状況で追いつくメンタリティーを見せられたのは、チームとして次につながると思う」

 あれだけのどん底を味わえば、もうはいあがっていくしかない。過去は振り返らない。ヴァンフォーレ戦も成長への通過点のひとつになると自らに言い聞かせながら、不屈のセンターバックは前だけを見すえる。

(取材・文:藤江直人)

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