武藤のチェルシー移籍は成立するのか? 過去の日本人プレミア移籍の“成功”と“失敗”から考える

4月12日(日)11時0分 フットボールチャンネル

11人の日本人、成功例はごくわずか

 今月6日、FC東京に所属する日本代表FW武藤嘉紀にチェルシー移籍の可能性が浮上した。8日にはクラブがオファーの存在を認め、日本の次世代を担うスターのビッグクラブ加入が現実味を帯びている。

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 2001年にイングランドへ渡った稲本潤一と西澤明訓を皮切りに、15年間で11人の日本人選手がイングランドリーグに挑戦した。2003年に清水エスパルスからトッテナムへと移籍した戸田和幸、同年横浜F・マリノスからポーツマスへ移籍した川口能活に加え、中田英寿は現役最後となった2005-06シーズンをボルトンで過ごした。

 最近では宮市亮や李忠成香川真司がプレミアリーグでプレーし、阿部勇樹はチャンピオンシップ(2部)のレスターで1年半を過ごした。吉田麻也は現在も挑戦を続けている。

 しかし、11人の中で成功した例は数少ない。理由はイングランドリーグに存在する厳しい労働許可証の取得条件だ。これに阻まれ、正式オファーを受けて移籍が内定してもやむなく挑戦を断念した日本人選手が多くいる。

 まず、イングランドにおける外国籍選手の移籍ルールを確認すると、一般的に設定される外国人枠のようなものはなく、登録人数に制限はない。また、EUおよびEFTA(欧州自由貿易連合)加盟国の国籍を持つ選手は労働許可証取得の必要がない。

 それ以外の国(アメリカ大陸やアジア、アフリカ)の国籍選手は労働許可証取得の必要があり、これには厳しい条件が存在する。

 1つ目は移籍直前の2年間で代表Aマッチ(親善試合を除く公式戦)の75%以上に出場していること。2つ目は過去2年間のFIFAランキングの平均順位が70位以上であることだ。日本は過去70位以下に落ちたことはないため、2つ目の条件を考慮する必要はない。

 問題は1つ目の条件だ。満たせていなくても特例が認められて労働許可証を取得できる場合が存在する。だが、これに移籍を阻止された例も少なくない。今回は日本人の成功と失敗から武藤のチェルシー移籍について考察する。

ロンドン五輪で飛躍のきっかけをつかんだサムライ

 現在もサウサンプトンでプレーしている吉田麻也の移籍は一度破談しかけていたと言われている。ロンドン五輪で名を上げた日本代表DFは、大会終盤にコンディションを崩して大きなミスを繰り返し、所属クラブだったオランダのVVVへ帰っても不本意な出来に終始していた。

 それでもCBを欲しがっていたサウサンプトンと吉田の売り時を逃したくなかったVVV、両者の思惑が一致し、移籍市場閉幕間近になって正式に移籍が発表された。

 吉田がイギリスの労働許可証をすんなり取得できたのには理由がある。2010年に日本代表デビューを果たし、翌年のアジアカップから主力として定着してコンスタントにプレーしていたこと、そしてロンドン五輪でベスト4に入ったという実績だ。

 一方で全く実績がない状態でイングランド移籍のチャンスをつかみ取った例もある。2011年、当時中京大中京高校に在籍した宮市亮が名門アーセナルの門を叩いた。

1年目はさすがに労働許可証を取得できなかったため、オランダのフェイエノールトに貸し出されたが、そこで12試合出場3得点というセンセーショナルな活躍を披露し、2011-12シーズン開幕とともにアーセナルへ復帰した。

 宮市の場合、日本代表デビューは期限付き移籍でボルトンに在籍していた2012年で、アーセナル復帰時は招集経験すらなかった。

 しかし、労働許可証を取得するための審査会でアーセン・ヴェンゲル監督が宮市の才能とクラブへの必要性を熱弁し、特例として取得を認めさせたと言われている。

 このように、日本代表としての経験が浅くとも将来性を評価されて労働許可証が発給される場合があり、22歳の武藤にも十分可能性はある。ジョゼ・モウリーニョ監督がそれだけのアピールをすればだが。

成功の裏には失敗も。宮本や三都主はイングランド挑戦を断念

 吉田や宮市といった成功例もあれば失敗もある。かつて日本代表の主力としてW杯にも出場した宮本恒靖と三都主アレサンドロはともにプレミアリーグ挑戦を目の前にして挫折を味わった。

 ガンバ大阪でキャプテンを務めていた宮本は2001年、ウェストハム移籍に迫った。しかし、労働許可証が取得できずに結局は残留を選択している。

 のちに日本代表のキャプテンも担う宮本だが、当時は代表デビューを果たしたばかりで、実績面で不足があったと見られる。2002年の日韓W杯直後にチャールトンからオファーを受けた三都主も同じ理由で移籍を断念した。

 また、プレミアリーグ以外でも移籍を諦めなければならなかった例がある。2012年1月、当時2部を戦っていたウェストハムの練習に参加し、メディカルチェックを受けて移籍間近と言われていた前田遼一がその最たる例だ。

 2009年から2年連続でJ1得点王に輝き、2011年のアジアカップをはじめ日本代表のエースストライカーとして活躍していたにも関わらず、労働許可証の取得がネックとなって獲得が見送られた。ここでも問題になったのは日本代表での出場試合数である。

前田は2007年に代表デビューを果たして以降、2010年まで通算7試合しか出場しておらず、2011年も負傷離脱していた期間があって日本代表としてプレーする機会が十分でなかった。

 2009年には日本企業が株式の一部を保有している2部(当時)のプリマス・アーガイルが日本人選手の獲得を試みた。浦和レッズの鈴木啓太やジュビロ磐田のカレン・ロバート(当時)、大分トリニータの家長昭博(当時)にオファーしたと日本で報じられたが、いずれも移籍成立には至っていない。

 結局、入団テストを経て流通経済大からGKの林彰洋を獲得したが、このケースでも労働許可証の取得にはルーキーであることや、将来性を評価されて特例が適用されたと見られる。

 ここまで紹介してきた失敗例はいずれも労働許可証を取得するプロセスにおいて、実績不足からくるリスクの回避や、アピール不足が原因となっている。

 武藤は移籍を検討していた当時の彼らよりも日本代表での出場数は多いが、昨季がプロ1年目だった点や、代表デビューから約半年しか経っていない点を「実績不足」と指摘される可能性がある。

もう1つの障害…外国籍選手移籍ルールの改正

 ここまで武藤のチェルシー移籍に関して2つの可能性を提示してきたが、最もネックになる労働許可証の取得に関するルールが改正され、EUおよびEFTA圏外国籍選手の移籍のハードルが高くなる可能性がある。

 イングランドサッカー協会(FA)は昨年9月、同国内における非EU圏内国籍選手の割合を現在の半分以下に減らすためのルール改正案を明かした。

 これはプレミアリーグで自国籍選手の割合が年々減っていることなど、いくつかの要因で代表の強化に支障が出るという判断に基づくものだ。

 ブラジル人や他のEU圏外国籍選手の多いチェルシーに限っては例外だが、イングランド人選手から出場機会を奪っている多くはEU圏内の国籍を持つ選手たちで、リーグ全体を見れば日本人や韓国人といったEU圏外国籍選手の影響は小さい。いわば批判を回避するための“その場しのぎ”に過ぎないのだ。

 これまでのルールは、(1) 移籍直前の2年間で代表Aマッチ(親善試合を除く公式戦)の75%以上に出場していること、(2) 過去2年間のFIFAランキングの平均順位が70位以上であること、という2点が主だった。

 これが新ルールでは、(1)FIFAランキング30位以内の国の選手は過去2年間の自国代表での公式戦出場率30%以上、(2) FIFAランキング70位以上を50位以上に上方修正、となり、条件はかなり厳しくなる。

 また、(3) FIFAランキングや代表出場歴に関係なく、移籍金(市場価値)1000万ポンド(約18億円)もしくは1500万ポンド(約26億5000万円)以上の優秀な選手、という新たな項目が加わる。

 FAが来季からの施行を目指す3つのルールによってEU圏外国籍選手の獲得に厳しい制限を設けることになるが、これが武藤の移籍において最も大きな障害になりかねない。

 一部報道では武藤の移籍金は400万ポンド(約7億円)と伝えられており、ルール改正後の条件には当てはまっておらず、日本代表での出場試合数も足りていない。

 仮に来季からの導入は難しくとも、冬の移籍市場や次のシーズンに何が起こるかはわからない。ルール改正で武藤に高い移籍金を払わなくてはならないとなれば、チェルシーをはじめとしたプレミアリーグのクラブは手を引いてしまうかもしれない。

日本人には厳しすぎるイングランド移籍

 さらに武藤の移籍に障害となりそうなルール改正がある。

(4)イギリスの労働許可証発給は、プレミアリーグのクラブでプレーする選手に限る
(5)他クラブへ貸し出された選手が労働許可証の発給を受けてイギリスへ戻ることの防止
(6)異議申し立ては手続きの不備で取得できなかった場合に限る

 この3項目が実際に適用された場合、多くの選手を期限付き移籍で他クラブに貸し出しているチェルシーは大打撃を受ける。

 現在チェルシーは国内外に27人もの選手を貸し出しており、中にはボスニア・ヘルツェゴビナ、オランダ、ポルトガル、スペイン、ベルギー、ドイツ、イタリア、チリといった国外でプレーする選手も多くいる。

 仮に武藤がチェルシーで出場機会を得られず、プレミアリーグ以外のリーグでの武者修行を希望しても、そこから元通り復帰することは叶わなくなってしまうのだ。

これまでにイングランドでプレーした阿部や李、林のように2部からのステップアップを狙ったり、宮市のように国内外へのレンタルを繰り返したりもできない。

 チェルシーからの移籍、すなわちイングランドでのキャリアの終わりとなってしまうのならば、あまりにリスクの高い挑戦だ。

実際にチェルシーで出場機会を得られなかったベルギー代表MFケビン・デ・ブルイネやドイツ代表FWアンドレ・シュールレは移籍を選択したが、彼らのようにヨーロッパのトップレベルで活躍できる選手でさえ居場所を作るのが難しいチームで、武藤がコンスタントにプレーできる保証はないに等しい。

 モウリーニョ監督は10日の記者会見で「我々が優れたプレーヤーと信じられなければ、その選手を買うことはない。これは紛れもない事実だ」と語っており、門の隙間は限りなく狭い。

 2年前まで大学サッカー界のスターだった学生がプロになり、日本代表へ駆け上がり、いつの間にか世界へ飛び出そうとしている。まるで漫画のようなサクセスストーリーだ。

 イングランドは大いにチャレンジする可能性のある環境だが、同時に高いハードルとリスクが待ち構えている。武藤はチェルシーでの挑戦を選ぶのか、それともFC東京でタイトル獲得に全力を尽くすのか、他の選択肢を取るのか。12日と言われるチェルシーへの回答期限が迫っている。

フットボールチャンネル

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