2枚刃から4枚刃。3メーカーのフリックボックスを間近でチェック【GT500開発最新事情とアプローチ/第1戦岡山】

2022年4月15日(金)20時14分 AUTOSPORT web

 2014年から採用されている現行GT500の空力規定は、フラットボトムを起点にした高さ275mmまでの範囲と、前後のホイールハウスを囲むエリアを“デザインライン”として定め、トヨタ、ホンダ、ニッサンの参戦3社合意のもと、空力開発の自由度を維持するべく外観から視認可能な部分のみ開発を許可する方針を採用している。


 具体的にはフロントバンパーコーナーの『フリックボックス』と、ボディサイドのドア下部に口を開ける『ラテラルダクト』の排出口(エレファントフット)の開発を登録制で容認するかたちだ(なお、将来的にはリヤフェンダー下端の高さ400mmまでのエリア『シューボックス』の開発も解禁される可能性有り)。


 逆に言えばそれ以外のエリア、フロントのフロア面に位置するスプリッターやリヤディフューザー、リヤウイングなどは2019年を最後に“開発禁止”に。スプリッターでの整流をつかさどるストレーキや、ホイールハウス内のフィン類といったダウンフォース獲得デバイスの装着は不可となった。


 さらにそれ以前、規定導入から3年を経た2017年には約25%のダウンフォース削減を掲げて細部が変更され、フロントスプリッターを975から925mmへと50mm短縮しリヤディフューザー高は206mmから105mmへと大きく削減。その容積をほぼ半減させている。


 そうした厳しい開発制限の流れを踏まえつつ、シーズンを追うごとにダウンフォース獲得のアイデアを模索し続けてきたGT500だったが、2022年シーズン開幕を前にひさびさの開発凍結の一部解禁を受け『フリックボックス』と『ラテラルダクト』の新規登録が許された。


 これは今季からの新規車種となるニッサンZ GT500の導入に伴い、上屋のスケーリング見直しが3社共通で許可されたことに伴うもの。デザインライン下の開発凍結を一部解除して認めるだけに留まらず、モデル最終限定車となる『NSXタイプS』を投入したホンダ陣営のように、ベース車の形状による性能差を補正する前後方向のXスケーリングと、横方向のYスケーリングを最適用することに。つまり外板に関しては“希望すれば全体をやり直して良い”ことを意味した。


 ただし車種変更を伴った2社はともかく、ベース車不変のトヨタはGRスープラのスケーリング見直しを実施せず、実質的に今季の空力開発の焦点は当初の規定理念どおり『フリックボックス』と『ラテラルダクト』の新規登録、そしてセットアップによる車両姿勢の運用に絞られた。


 そのなかでも今回取り上げる『フリックボックス』は、単に空力感度の高いエリアというに留まらず車体前半部に位置するだけに車両全域の空力性能に大きな影響を及ぼすパートとなる。路面と床下の負圧(グラウンドエフェクト)を活用するレースカーではフロア面の気流とウイング背面を利用してダウンフォースを得る考え方が一般的だが、正圧でカウルを押さえ、さらにその背後の気流を制御することでダウンフォース量やドラッグに大きく関与する部位にもなる。


 それだけに各車(各社)の狙いは、フリックボックスのボディ側ベース形状とカナード類で、車体のサイドに向けどのような気流の流れを作るか……が最初のポイントになる。とくにカナード類の端部で発生した渦流は強いエネルギーを後方へと維持し、ホイールハウス内のエア引き抜きを助ける効果も生む。


 結果、回転するタイヤの乱流をシールし制御するとともに、ハウス内を負圧にして前方スプリッター類のエア引き抜きをサポート。その流れを助けることでラテラルダクトへの流入効率も上がり、上面だけでなく床下とサイドに向かう気流でダウンフォースを稼ぎ、全体のエアロダイナミクス効率を向上させたい。


 その面で苦心したのが2020〜2021年までのニッサンGT-RニスモGT500で、ニッサンの松村基宏総監督は当時からベース車となるR35型GT-Rの形状を引き合いに「ライバルに比べてエリア的な自由度が低い」ことに言及していた。


 生産車のデザイン時点でドラッグ減を狙い、バンパーコーナーからヘッドライト下部までを張り出す、エッジを立てたデザインのR35型GT-Rでは、GT500規定のスケーリング適用時にデザインライン上部に位置するヘッドライト脇からサイドに向けてのスラントや後退角も取りにくい。ゆえにフリックボックスから上面部分の受圧面積を相対的に広く取ることも出来ず、ライバルに比べて「エリア的な自由度が低い」としていた。


 対してホンダNSX-GTや2020年登場のトヨタGRスープラは、絞り込まれたノーズ形状により中央のノーズ先端からフェンダーにかけてある程度の後退角を持つことで「フェンダーの受圧面積を稼ぎやすい」という見立てだった。


 そうした視点を踏まえて2022年のGT500車両を眺めてみると、新型ニッサンZ GT500はノーズからシャープに後退させられていくスポーツカー然としたノーズ形状により、中央のエンブレム下部を集合点にフロア面を釣る“ステー”が左右ボディ面より前方に飛び出すような位置関係に。その上で、ライバル同等のフリックボックス受圧面積を獲得したのに加えて、繊細な気流制御を狙い正圧を受けるボディ面自体にも微妙な曲面を持つ3D的な造形とした。


 これによりR35型GT-Rの“恐竜の背ビレ”のように乱立させていたラテラルダクト出口の造形をドラッグ覚悟で継続する必要もなくなり、従来からの“フェンダー受圧面とフリックボックスの面積を上手く使うと、ダウンフォースが出せるレギュレーションだ”という解析を見事に具現化した形状となった。


 一方のホンダはNSX-GTのタイプS化に伴い、デザインライン下部で市販モデルのグリル形状を残していた2021年型に対し、ロワグリル開口面積の最適化(最大面積規定有り)を果たしつつ、2枚のカナードサイズや位置関係はほぼ継承。その上で、こちらもフリックボックスのボディ受圧面形状を変化させ前方に伸びていたコブ状の突起を廃止している。


 そしてGRスープラは、2019年型のレクサスLC500から継承するフリックボックス上部のフェンダーエッジに装着された2枚のカナードと、メインプレーンに小型フィン1枚という計4枚の翼面構成を踏襲。ボディ面自体はライン下部が壁のように落ち込んでいた形状から、前方に向け緩やかな傾斜をつけて延長することで、サイドへの気流供給と後方への流速確保を狙うような改良が加えられた。


 このGRスープラのデビュー時には「小顔だと中に通すダクトの取り回しに苦労する場合もある」との声も聞かれたが、前傾姿勢でダウンフォースを確保し車体形状の持つ素性を活かした“ロードラッグ”コンセプトと合わせ、この2年間はストレートエンドの最高速で無類の強さを発揮してきた。


 ご存知のとおり、速さのみならず決勝レースでのタイヤマネジメント面でも優位性獲得に繋がるダウンフォースは、背反でドラッグを生み出す要素にもなる。ダウンフォースが“足りなかった”陣営は追い求め、その逆に“多すぎて”苦しんだ陣営は削り取る。そのバランスを最も上手く取ったのはどの陣営か。オフの答え合わせは、ドライコンディションと予想される第1戦岡山で間もなく明らかになる。

リアライズコーポレーション ADVAN Zのフリックボックス
Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTのフリックボックス
au TOM’S GR Supraのフリックボックス

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