新スタ建設へ追い風?DBJがファジアーノ岡山の経済効果を評価した意味

2025年4月16日(水)18時0分 FOOTBALL TRIBE

ファジアーノ岡山 写真:Getty Images

今2025シーズンJ1リーグに初参入し、望外の大健闘を見せているファジアーノ岡山。第10節終了時点で5勝2分け3敗の4位と快進撃を続けている。特にホームで強く、今季はこれまで4勝2分けと負けなし。J2時代の2010シーズン以来のサンフレッチェ広島との中国ダービー(4月12日/エディオンピースウイング広島)でも1-0で勝利を収め、その勢いが本物であることを印象付けた。


そんな中3月26日付で、日本政策投資銀行(DBJ)岡山事務所が「ファジアーノ岡山のJ1昇格に伴う経済波及効果」というレポートを発行。岡山が地元にもたらす経済効果が年間54億円で、J2時代と比べると23億円の増加と試算された。


しかし、DBJは「収益機会を逸している」とも指摘し、その理由としてスタジアムの収容人員の不足を挙げた。また、雇用の創出効果は402人で約1.8倍となっており、特に宿泊などの県内消費が期待できるアウェイ客の来場による寄与が大きいと分析している。


ここではDBJレポートの詳細とその意味を読みとく。




ファジアーノ岡山 写真:Getty Images

観客の消費は昨年の2倍以上


DBJのレポートによる経済効果の内訳は、観客による消費が27億2,000万円(J2時代13億円)、クラブ運営費が26億8,000万円(同17億7,000万円)。観客の消費はスタジアム内外での飲食や物販、アウェイサポーターの移動費や宿泊費などで、クラブ運営費は選手やスタッフへの人件費などだ。


最も経済波及効果を押し上げた要因は「観客の増加」が挙げられている。J2だった昨年のホームの平均観客数は約9,100人だったのに対し、J1を戦う今2025シーズンは毎試合チケットは完売し、平均約1万4,000人が観戦。「収益機会を逸している」理由は「スタジアムの収容力不足」と結論付けられた。


岡山はホームゲームの度に盛り上がり、スタジアム外の飲食ブース「ファジフーズ」はアウェイサポーターからも好評だ。昨年の平均売り上げは約430万円だったが、今シーズンの平均は660万円。4月6日のFC東京戦では、場内売店も含め820万円と過去最高の売上を記録した。


ホームであるJFE晴れの国スタジアムのキャパシティは1万5,500人。現地ではチケットがプラチナ化し、争奪戦が繰り広げられているだけではなく、アウェイ席も販売開始数分で売り切れるフィーバーぶりだ。昨シーズンのJ1クラブの平均観客数約2万300人で試算すると、経済効果はさらに約7億円増加するという試算を示した上で、DBJは「経済効果の観点からは、新スタジアムの建設を援護する立場だ」とした。


加えて「ファジアーノ岡山は経済効果だけでなく、地域の一体感やスポーツ文化の振興、岡山のイメージアップなどの社会的価値も大きい」と評価されている。


JFE晴れの国スタジアム 写真:Getty Images

J1基準を満たす岡山新スタ建設の可能性


日本政策投資銀行(DBJ)は、政府が100%出資する政策金融機関で、「インフラや産業振興など、経済・社会の発展に必要な分野に対し、長期的な資金を提供」「都市開発に関わる大規模プロジェクトの資金調達のサポート」「地方創生や中小企業の成長を促進する融資・コンサルティングを通じた地域活性化」などを主に担っている。民間金融機関が対応しにくいリスクの高い分野や社会的意義の大きい事業に重点を置き、収益性と公共性を両立させるのが特徴だ。


DBJがこのようなレポートを発した意味は大きい。これは民間のコンサルティング会社やマーケティング会社が出したバイアスの掛かった数字ではなく、いわば国からの“お墨付き”を得たことを裏付けるからだ。


現状、JFE晴れの国スタジアムは、Jリーグが定めたJ1ライセンスのスタジアム基準を満たしていない。観客席の3分の1以上が屋根で覆われていないためだ。スタジアム基準の是非はともかく、この事実こそが、岡山サポーターが新スタジアム建設を熱望する根拠となっている。


また、今シーズンのJ1クラブのホームスタジアムの平均収容人数は3万人を超えており、1試合平均の入場者数も2万人を超えていることから、岡山は2万5,000人規模の新スタジアム建設を自治体に要請している。


これに対し、伊原木隆太岡山県知事と大森雅夫岡山市長はともに、シーズン前は静観の姿勢を取っていたが、このフィーバーぶりとDBJによるレポートによって、大きな山が動く可能性が出てきたと言えるだろう。


岡山市は人口約70万人を誇る政令指定都市。観光地となると岡山城とその川向かいにある後楽園が思い浮かぶも、観光都市としては東に隣接する倉敷市にその座を譲っている印象がある。今回のDBJによる試算では、岡山市内を観光して消費するといった波及効果は含まれていないが、アウェイサポーターが試合の前後で岡山城や後楽園などにも人が流れていけば更なる経済効果が期待できる。その意味でも、新スタジアムを建設し、収容人数を増やすことは即、観光振興にも資するといえるだろう。




ファジアーノ岡山 写真:Getty Images

DBJが新スタ擁護の立場を示した意味


DBJが岡山の新スタジアム建設を擁護する立場を表明したことには、以下のような重要な意味がある。


ますは経済効果の裏付けだ。DBJは財務省が所管する政策金融機関として、経済分析や地域振興の観点からプロジェクトを評価する。新スタジアム建設を擁護することは、雇用創出、観光振興といった地域経済への波及効果が期待できると判断したことを示している。


また、新スタジアム建設が単なる民間プロジェクトではなく、地域社会や公共インフラの価値として認められたことを意味する。これにより、岡山県や岡山市など地方自治体が予算や計画を検討する際に、信頼性の高い第三者機関の支持を得た形で議論が進む可能性が高まる。


岡山のJ1昇格に伴い新スタジアムへの関心が高まる中、岡山県民や市民、地元経済界からの機運をさらに高める後押しとなるだろう。過去に練習場である政田サッカー場の建設において署名活動が成功したように、岡山県民の支持を集める上でDBJの発言は大きな後ろ盾となるだろう。


さらに、将来的に民間企業が融資やアドバイザリー業務を通じてプロジェクトを支援する可能性も考えられる。建設資金の調達などにおいて大きく背中を押すサポートとなり、プロジェクトの現実性を高める。これが政策金融機関が弾き出した数字の威力というものだ。




ただ、現時点では「立場表明」に留まり、具体的な資金提供や計画の確定を意味するものではない。これを機に自治体側も新スタジアムに前向きとなる可能性もあるが、予算や立地、県と市の役割分担など、まだまだ多くの課題が残されている。


また、サッカー専用スタジアム建設計画が立ち上がると、一部で“税リーグ”などとの揶揄や「税金の無駄遣い」とする反対意見が噴出することもまた事実だ。納税者全体を納得させ、合意形成が求められる点も留意が必要だろう。


今回のDBJの表明は、新スタジアム建設が単なるスポーツ施設の整備を超え、地域経済や社会に貢献するプロジェクトとして、国がその努力を認めたことを意味するポジティブなものだ。新スタジアム建設を目指す他のJクラブも岡山の例に続こうと、まずは集客に力を入れ、現在のスタジアムを満員にする努力をする相乗効果を期待したい。


岡山の例が新スタジアム建設へ向けて具体的な進展につながるかは、クラブと自治体の連携に加え、岡山県民の支持にかかっているといえるだろう。

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