6時間レースはフェラーリの“弱点”?/左右異なるタイヤスペック/プールにドボンetc.【WECポルティマオ決勝日Topics】

2023年4月19日(水)12時17分 AUTOSPORT web

 4月16日、2023年のWEC世界耐久選手権はポルトガル南部のアルガルベ国際サーキットで第2戦の6時間レースが行われ、トヨタGAZOO Racingの8号車GR010ハイブリッドが今季初優勝を果たした。


 ハイパーカークラスではトヨタ7号車をはじめいくつかのトラブルが発生するなか、LMP2、LMGTEアマクラスでは僅差のバトルが繰り広げられた。レースを終えた日曜日のパドックから、各種トピックスをお届けする。


■「アグレッシブさが足りなかった」とブエミ


 トヨタGAZOO Racingの平川亮、セバスチャン・ブエミとともにポルティマオ6時間レースで優勝したブレンドン・ハートレーは、WECにおいて2番目に勝利数の多いドライバーとなった。


 ポルシェLMP1、その後トヨタで活躍しているハートレーは、2012年以降のWECのレース数の実に4分の1となる20勝をあげ、23勝をあげたブエミに次ぐポジションを得た。


 ブエミは、レース開始時にチームメイトのマイク・コンウェイとフェラーリのジェームス・カラドに抜かれ、リードを奪われたことを自責している。


「僕のミスだと思う。アグレッシブさが足りなかったんだと思う」と長らく8号車のスタートドライバーを務めているブエミ。


「チームメイトとともにターン1へと入っていくレースは、いつも難しい。接触は避けたいものだ。もしまた同じことが起きたら、次のレースでは少しアプローチを変える必要があるかもしれないね」


 ハイパーカー・ドライバーズ世界耐久選手権のランキングでは、ハートレー/ブエミ/平川がトヨタのチームメイトであるホセ・マリア・ロペス/小林可夢偉/マイク・コンウェイを抜いて首位となった。7号車トヨタの3人は、フェラーリのミゲル・モリーナ/アントニオ・フォコ/ニクラス・ニールセンに続くランキング3位に後退している。

ポルティマオのスタートでは、トヨタ7号車、フェラーリ51号車が、ポールポジションスタートのだった8号車ブエミを先行した


■プジョー9X8に“新しいトラブル”


 決勝でピットスタートを強いられることになった93号車プジョー9X8のパワーステアリングの問題は、テクニカルディレクターのオリビエ・ジャンソニーによると、チームがこれまでに見舞われたことのない、新しいトラブルだったという。


「我々は、グリッドへの走行が始まる10〜15分前に、これらのことを心配していた」


「そのラップ中にうまくいく可能性は少しあったのだが、うまくいかなかったので、修理してピットレーンからスタートすることを選択した」


 このスタート時の後退にもかかわらず、93号車プジョーはレースの残りをクリーンにこなし、7位でフィニッシュした。昨年モンツァのデビュー以来、過去4回のレースでは信頼性に大きな問題があったプジョーだが、今回のポルティマオは現在のLMHプログラムにおけるもっとも力強いレースとなったようだ。

プジョー・トタルエナジーズの93号車プジョー9X8 2023年WEC第2戦ポルティマオ6時間レース


■ポルシェ963にもパワステの不具合


 ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツは、5時間目にミカエル・クリステンセンがピットインした後、5号車ポルシェ963のパワーステアリングに関する複数の部品を交換した。


 ファクトリーLMDhのディレクター、ウルス・クラトレは次のように説明している。


「ポンプを交換し、ポンプに電気を供給するパワーユニットを交換した。レースの熱の中で、根本的な原因が何であったかを検出することができなかったかので、両方を変えたのだ」


 なお、ロジャー・ペンスキーは、このレースウイークをポルティマオで過ごし、LMDhファクトリーチームがハイパーカー初の表彰台を獲得したとき、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのピットにいた。


 ペンスキーは、チームがIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権とNTTインディカーシリーズに参戦していた『アキュラ・グランプリ・オブ・ロングビーチ』よりも、WECのイベントに参加することを選択していたのだ。なお、そのロングビーチではIMSAのトップカテゴリーで戦う6号車ポルシェ963がIMSAデビュー3戦目で初優勝を飾っている。

IMSA、インディカーと同開催の週末にもかかわらず、ペンスキー総帥のロジャー・ペンスキーもポルティマオに姿を見せた


■ポルティマオ伝統の儀式


 ユナイテッド・オートスポーツのジョシュ・ピアソン/ギド・バン・デル・ガルデ/オリバー・ジャービスは、LMP2クラスで優勝した後、パドックにあるプールに飛び込んで勝利を祝うという、ポルティマオにおける伝統的な“儀式”を行った。

ポルティマオのプールへダイブするLMP2ウイナーの3名


 また、ユナイテッドの姉妹車で2位フィニッシュした22号車のベン・ハンリーが、ダブルスティントで最速を記録したLMP2ドライバーに贈られる『グッドイヤー・ウイングフット賞』を受賞した。第1戦セブリングでは、ハーツ・チーム・JOTAのウィル・スティーブンスがこの賞を獲得していた。


■6時間レースと8時間レースの違い


 2号車キャデラックVシリーズ.Rを駆るアレックス・リンは、ポルティマオでのタイヤ割り当てが、キャデラックをフェラーリに近づけるのに役立ったことを示唆した。


 ハイパーカークラスの各車は、6時間レースの予選と決勝で18本のミシュランタイヤを使用できるが、8時間レース(開幕戦の1000マイルレース含む)では26本のタイヤが割り当てられる。


「彼ら(フェラーリ)はニュータイヤでラップタイムを爆発的に向上させることができ、一方僕らはダブルスティントで非常に優れている」とリンは言う。


「6時間レースでは、8時間レースとタイヤの割り当てが異なるので、その面で僕らを(フェラーリに)近づけてくれる」

2位に入ったフェラーリAFコルセの50号車フェラーリ499P


 なお、フェラーリ499Pは、現在から6月のル・マン24時間レースまでの間に、イタリアのモンツァでもう1度、テストを行う予定だという。


 ここまでヨーロッパでのテストをしてこなかったチップ・ガナッシ・レーシングは、5月上旬にポルティマオでキャデラックVシリーズ.Rの3日間の耐久テストを行う予定だ。

WEC第2戦で4位となったチップ・ガナッシ・レーシング(キャデラック・レーシング)の2号車キャデラックVシリーズ.R


 また、ベクター・スポーツとイソッタ・フラスキーニは、先週の初回テストに続き、5月上旬にティーポ6 LMHコンペティツィオーネの次のテストを行う予定だ。


■2連勝コルベットが「さらに速くなる」?


 ベン・キーティングは、33号車シボレーコルベットC8.Rのステアリングを握る2回目のスティントで、トラックリミットのペナルティを受けそうになったため、無理をして走ったことを明らかにした。


「最初のスティントの後半に4回のコースリミットの警告を受けてしまった。それでもあと1スティント、フルに走らなければならないのは分かっていた。レーサーにとってそれは難しいことだが、僕は安定したラップを刻むことができたよ」とキーティング。


 レース後の記者会見では、コルベット・レーシングがポルティマオでメインメカニックをひとり欠いていたことが、ニッキー・キャッツバーグから明かされた。


「彼は卓球をしていて、鎖骨を折ったんだ」とオランダ人は言った。


「このことは言っておきたかったんだ。彼はスパで復帰するから、僕らはさらに速くなるだろうね」

開幕戦セブリングからの連勝を飾った33号車シボレー・コルベットC8.R


■ほとんどトラブルフリーだったグリッケンハウス


 ヴァンウォール・バンダーベル680は、ブレーキ故障によってリタイアする前、トルク伝達の制限を2回超えたとして5秒間のストップ&ゴー・ペナルティを科せられた。また、50号車フェラーリ499Pも同様にトルク伝達の限界を超えたが、1回の違反で戒告処分にとどまった。

ブレーキトラブルからリタイアしたヴァンウォール・バンダーベル680


 一方、708号車グリッケンハウス007はトラブルなく走行した。昨年のル・マンで表彰台を獲得して以来、モンツァとセブリングではリタイアを喫していたが、ル・マンに次いでもっとも信頼性を証明する結果を残したことになる。


 チーム代表のルカ・チャンセッティは次のように語っている。


「もちろん、競争力を高めるためにはもっとペースを上げなければならない。だが、セブリングの時よりはずっと良かった。正しい方向に進んでいると思う。次のサーキットがもっと我々のクルマに合うといいんだけどね」


 グリッケンハウスの唯一の問題は、レース中盤にリヤブレーキの冷却ダクトにマーブルが溜まり、温度が急上昇してしまったため、それを取り除くためにスティントを短くしたことだったと、チャンセッティは付け加えた。

ほぼトラブルフリーで6時間レースを走破したグリッケンハウス007LMHは8位でフィニッシュ




■左右で異なるタイヤスペック選択も


 ミシュランは、ポルティマオでハイパーカー・メーカーが異なる戦略をとっていることを確認した。


「いくつかのチームは、左側にミディアム、右側にソフトというように、異なるコンパウンドで走行することに躊躇しなかった」とピエール・アルベスは語った。


「あるチームは、右側のタイヤをダブルスティントにして、給油のたびに左側のタイヤを交換し、また他のチームはミディアムコンパウンドのみを使用して、2回のピットストップごとにタイヤを交換していた」


 完走したトップ2メーカーであるトヨタとフェラーリは、レースを通してミシュランの硬めの『ミディアム』コンパウンドを使用したが、トヨタの技術チーフであるパスカル・バセロンは、彼のチームはソフトも使用できたが使用しないことを選択したと述べた。


 ミシュランは今シーズン後半にWECのタイヤコンパウンドの呼称を変更する可能性があるものと、Sportscar365は理解している。


 彼らは現在、コンパウンドを『ソフトコールド』『ソフトホット』『ミディアム』と名付けている。しかし、ミシュランはこの名称を変更し、ソフト仕様の温度による区別をなくすことを検討していることが知られている。

ミシュランはハイパーカーとLMGTEアマにタイヤを供給している


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 次戦、WEC第3戦のスパ・フランコルシャン6時間レースは、ベルギーのスパ・フランコルシャンにて、4月29日(土)に開催される。

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