降格圏に沈む横浜FMにシティ・フットボール・グループはどう関わる?

2025年4月19日(土)14時30分 FOOTBALL TRIBE

横浜F・マリノス 写真:Getty Images

4月16日、明治安田J1リーグ第12節、日産スタジアムで開催された横浜F・マリノス対清水エスパルスの一戦は、横浜FMが後半6分まで2点リードしていたにも関わらず、そこから3失点を喫し2-3で敗れた。12日に行われたアビスパ福岡戦(ベスト電器スタジアム/1-2)に続く逆転負けとなり、横浜FMはこれでリーグ戦6戦勝ちなしで降格圏の19位に沈む。


清水戦では2枚、福岡戦でも3枚の交代カードしか切らなかったスティーブ・ホーランド監督に対し、横浜FMサポーターの怒りは爆発寸前。同日に開催されたルヴァン杯ファーストラウンド2回戦でPK戦の末、J2カターレ富山に敗れた名古屋グランパスの長谷川健太監督に対する批判も相まって、Xのトレンドには「監督解任」が上がった。


そして“無策”の烙印を押されたホーランド監督は、4月18日に電撃解任が発表された。後任にはヘッドコーチのパトリック・キスノーボ氏が昇格し、暫定的に指揮を執ることとなった。


万が一、このまま横浜FMにとって初のJ2降格が現実となればどうなってしまうのか。横浜FMもその一員に名を連ねているシティ・フットボール・グループ(CFG)との関わりに変化は生じてくるのか。CFGとの関わりという観点で、今後の横浜FMを占っていきたい。




横浜F・マリノス 写真:Getty Images

横浜FMの現在地


J1は稀に見る大混戦、ACLE準々決勝で風向きが変わる?


今2025シーズンからイングランド代表やチェルシーのヘッドコーチを務めたこともあるホーランド氏を新監督に迎えた横浜FMだが、相次ぐケガ人に悩まされ、特に主将のMF喜田拓也の離脱、DFリーダーとして期待されて入団したコロンビア人DFジェイソン・キニョーネスの負傷もあり、台所事情を苦しくしていた。


現時点で他チームよりも1試合消化が多い中、1勝しかできず19位に沈む横浜FMだが、救いがないわけではない。今季のJ1は稀に見る大混戦で、首位を走るアビスパ福岡との勝ち点差はまだ11だ。3連勝でもすれば一気に中位にジャンプアップできる。横浜FMの総得点は10だが、総得点9のファジアーノ岡山が4位にいることを考えれば、失点癖が改善できればチーム状態も上向くだろう。


さらに、20日に行われるJ1第11節浦和レッズ戦(埼玉スタジアム)後には、サウジアラビアでセントラル開催されるACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)準々決勝で27日、ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドや、セネガル代表FWサディオ・マネを擁するアル・ナスル(サウジアラビア)戦に向かう。


ここで勝利すれば、一気に風向きが変わる可能性もある。リーグ戦で四苦八苦するチームが天皇杯やルヴァン杯で快進撃を演じるケースは“Jリーグあるある”だが、ビッグネームを揃えた金満クラブを完全アウェイの状態で下すとなれば、息を吹き返す可能性も十分あるだろう。


しかし仮にACLエリートで優勝したとしても、当然ながらそれがJ1順位表に反映されるわけではない。それどころか酷暑の中での試合を強いられ、コンディションを悪くして帰国する可能性もある。優勝賞金はなんと1,000万ドル(約14億円)であり、準々決勝進出で既に700万ドル(約10億円)を手にしている横浜FMだが、その代償は少なくないのだ。




マンチェスター・シティ 写真:Getty Images

CFGは横浜FMの買収に動くのか


横浜FMとシティ・フットボール・グループ(CFG)の関わりは、2014年、オーナー企業の日産自動車との「グローバルサッカーパートナーシップ」を締結したことによる。株式比率は約20%。CFGの日本法人シティ・フットボール・ジャパンは当初、過半数の株式を取得し、買収する意思はないとしていたが、2020年、Jリーグ規約の改正で外資系企業によるJクラブの保有が解禁された。


昨2024年、当時J3の大宮アルディージャがオーストリアのエナジードリンクメーカー「レッドブル」に買収され、「RB大宮アルディージャ」に生まれ変わった。先立って外資系企業とのコネクションを持った横浜FMも、状況が変わったことでこれに続く可能性は否定できないだろう。


CFGが株式の過半数を保有する実質上のオーナーとなっているクラブは以下の通り。



  • マンチェスター・シティ(プレミアリーグ)2008年買収

  • ニューヨーク・シティ(MLS)2013年買収

  • メルボルン・シティ(Aリーグ・メン)2014年買収

  • ジローナ(ラ・リーガ)2017年買収

  • モンテビデオ・シティ・トルケ(ウルグアイ2部)2017年買収

  • ムンバイ・シティ(インディアン・スーパーリーグ)2019年買収

  • 深圳新鵬城(当時四川九牛)(中国スーパーリーグ)2019年買収

  • ロンメル(ベルギー2部)2020年買収

  • トロワ(フランス2部)2020年買収

  • クルブ・ボリバル(ボリビア1部)2021年買収

  • パレルモ(セリエB)2022年買収

  • ECバイーア(ブラジル・カンピオナート・ブラジレイロ・セリエA)2022年買収


CFGが買収したクラブに共通して言えることは「強いクラブを買収して、さらに強くする」「弱小だったクラブを買収し、人的かつ金銭的リソースを掛け強化する」ことだ。前者の代表がマンチェスター・シティで、後者の代表がジローナといったところか。


18日に横浜FMの暫定監督に就いたキスノーボ氏も、メルボルン・シティ(2020-2022)、トロワ(2022-2023)で監督を歴任したCFG人脈の1人だ。


日産自動車の業績不振も相まって、CFGが横浜FMの買収(株式比率を上げ過半数とする)に動くのかもだが、そもそもCFGが横浜FM買収にメリットを見出しているのかも気掛かりな部分だ。


ジローナFC 写真:Getty Images

2部降格を経験したジローナの道とトロワの道


気になるデータもある。CFGがオーナーとなっている世界12クラブの中で、2部降格を経験したクラブが2クラブあることだ。1つは前述のジローナ、もう1つがトロワである(MLSとインディアン・スーパーリーグには現状、降格制度はない)。


ジローナは2018/19シーズン、ラ・リーガ1部18位で2部に降格、3シーズンの2部暮らしを経て、2022/23から1部に復帰。2023/24シーズンには3位となり、今2024/25シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)にも出場した(1勝5敗でリーグフェーズ敗退)。夢のようなV字回復をした。


もう1つのトロワは、CFGによる買収当時は2部にいたものの、2021/22シーズンにリーグ・アン昇格。しかし2シーズンで再降格し、今2024/25シーズンは昇格どころか3部降格の危機にある。


ここから何が見えるか。CFGは伸びしろのあるクラブを軌道に乗せることには長けているが、落ち目のクラブを立て直した実績に欠ける点だ。


唯一の成功例といえるジローナの場合、元U-19スペイン代表MFサムエル・サイス(現エユプスポル)や、元U-23アルゼンチン代表FWナウエル・ブストス(現タジェレス)といった、2部としては“反則級”のメンバーを揃えていた。


ジローナのホームスタジアムは収容人数約14,000人のエスタディ・モンティリビだが、街はバルセロナから車で約1時間、鉄道なら約40分で、バルセロナのベッドタウンとして人口が増え続けている。CFGが買収するクラブを選ぶ際、クラブそのものに加え、本拠地の都市の将来性も勘案していることが分かる。横浜FMとの業務提携も、横浜の街に魅力を感じたからだろう。


反面、トロワの街はかつて繊維業で栄えたが、中国製品が台頭したことで打撃を受け、その人口も6万人を切ろうとしている。投資対象としては魅力を感じないであろうと察しが付く。




横浜F・マリノス サポーター 写真:Getty Images

外資系企業によって新たなフェーズへ


サポーターは考えたくもないだろうが、仮に横浜FMがJ2に降格したとして、ジローナの道を行くかトロワの道を行くかは、筆頭株主である日産自動車に掛かっているといっても過言ではない。経営不振が伝えられる中、その金庫からさらなる補強資金を捻出することは可能なのか。それが不可能であれば、“J2沼”にハマり込んでしまう可能性もあるだろう。


しかし一方で、日産自動車が横浜FMの経営を負担に感じているのであれば、CFGへの“売り時”と考えることもできる。全株式を売却する必要はなく、株式比率を逆転させればいいだけの話だ。


胸スポンサーにもスタジアム名にも「日産」の名を残せば、1972年創部の日産自動車サッカー部の歴史を紡ぐことは可能で、実際、RB大宮もユニフォームスポンサーとしてNTT東日本の名を残している。さらに言えば、CFGはレッドブルと比べ、サッカークラブ経営のノウハウの面で圧倒的に優位性がある。


何しろ横浜FMは、日本最多の7万2,327万人の収容人数を誇る巨大スタジアムをホームとするビッグクラブだ。その事実は、例えJ2に降格したとしても変わりようがない。J随一の名門クラブが、UAEはじめ中国や米国の投資家たちが出資する外資系企業によって生まれ変わる姿を見てみたいという思いもある。


それが実現した時、Jリーグは新たなフェーズに入ったといえるのではないだろうか。

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