「スポーツ視聴は生観戦以上の臨場感」が常識に? 7つのバズワードで読み解く“コロナ後の劇的変化”

4月19日(日)19時0分 REAL SPORTS

新型コロナウイルスの脅威は世界中に拡大し、世界経済へのダメージは計り知れない。当然スポーツ界も多大な影響を受けている。この未曽有の危機に、これからのスポーツ界はどう変化していくことが予測されるだろうか? そして、日本のスポーツ界はその変化にどう対応し、好機としていくべきだろうか?
サッカー世界最高峰の舞台、UEFA チャンピオンズリーグに関わる初のアジア人、岡部恭英氏が、スポーツビジネスの最前線で闘い続けてきた視点から提言する。

(文=岡部恭英、写真=Getty Images、プロフィール撮影=野口学)

スポーツ界は、新型コロナとどう付き合っていくべきか

あっという間に世界を混乱に陥れたコロナショック。新型コロナウイルスのような感染症の流行は、5年前のTEDトークでビル・ゲイツも予言しており、歴史をひも解くと、戦争や自然災害と並ぶ人類への脅威であるのは明白だ。特に、人とモノの行き来が、世界規模かつ極めて簡単に実現されるグローバリゼーションが加速した今、コロナ“終息”はなく、あっても“収束”と見た方がいいかもしれない。コロナ収束後も、定期的にこういった感染症の類いが出てくると予測される。では、「Afterコロナ」はなく「Withコロナ」で、人々の暮らし方や働き方が変わるであろう今後、スポーツ界はどう対応していけばいいのか?

「Beforeコロナ」時にも、すでにスポーツ界を取り巻く激的な環境の変化と、その源になるものが議論されていた。例えば、①持つ者と持たざる者の格差拡大、②パラダイムシフト、③グローバリゼーション、④視聴習慣の変化、などである。

サッカー界を見ればわかりやすいだろう。

欧州の一部のビッグクラブは、豊富な資金力をバックに最高のプレーヤーを獲得し、好成績を残すことで、世界中の人気を集め、さらなる資金を得る。こうしてよりクラブ間の経済格差は広がっている(=①持つ者と持たざる者の格差拡大)。過去30年ぐらいにわたって欧州サッカーリーグの放映権は高騰を続けてきたが、世界で最も稼ぐイングランド・プレミアリーグ(EPL)の国内放映権料が、最近、15年ぶりに下がった。これは、高騰し続けてきた放映権の頭打ちなのか? それとも、携帯電話会社やインターネット会社などのニュープレーヤー参入による放映権のさらなる高騰の序章か? いずれにせよ転換期であるのは間違いない(=②パラダイムシフト)。また、グローバリゼーションが進んだことで、欧州クラブのオーナーも多極化している。マンチェスター・シティはアブダビ王族、チェルシーはロシアの富豪、パリ・サンジェルマンはカタールの政府系ファンド、インテルは中国企業。世界の政治・経済においてオールドリッチである欧州からニューリッチ(アジア、中東、ロシアなどの新興国)へのパワーシフトが起こったのと同様に、サッカー界においてもグローバリゼーションが加速している(=③グローバリゼーション)。そして、近年のスポーツビジネスの急拡大を支えてきたテレビ放映権も、インターネット、スマホ、SNS(ソーシャルメディア)の急速な普及とともに、消費者の視聴習慣が劇的に変わったことで、サッカー界もその変化に適応していくことが求められている(=④視聴習慣の変化)。

テクノロジーの進化による劇的な変化は、日本にとってもチャンス

しかし、「Withコロナ」時代、変革が急務なスポーツ界に大きな変化をもたらすのは、おそらく「テクノロジー」であろう。一言でいうと、進化するテクノロジーに支えられた「デジタルトランスフォーメーション/Digital Transformation(DX)」だ。
(編集注:デジタルトランスフォーメーションとは、新たなデジタル技術を活用することで、既存のビジネスモデルを抜本的に変革し、新たな価値を創出することで、競争力を強化して将来の成長につなげること)

「テクノロジーを制する者が、スポーツを制する」時代の到来、と言っても大げさではないと思う。

なぜDXが、上記に挙げた欧州スポーツビジネスに関わる4つの変化よりも、今後のインパクトが大きく、スポーツ界にとってのチャンスでもあるのか? それは、前述の4つの変化のいずれも、「テクノロジーの進化」に多大なる影響を受けるからだ。スポーツは世界共通言語であり「グローバル」なビジネスゆえ、世界のスポーツ界がDXで変われば、日本のスポーツ界も当然ながら影響を受ける。これは、日本スポーツ界にとってもチャンス到来となる。

DXがもたらすスポーツの変革において、キーとなるのは、最近ビジネス系メディアをにぎわせている下記のようなバズワードと変わりはない。
・5G(第5世代移動通信システム)
・VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実/VRとARを組み合わせたような技術で、現実世界に仮想世界を密接に融合させるだけでなく、実際に確認・操作することも可能)
・ビッグデータ
・IoT(モノのインターネット)
・AI(人工知能)
・自動運転
・ロボティクス

これからのスポーツ視聴体験は、「スタジアム観戦以上」になる?

5Gは、現行の4Gに比べて、通信速度100倍、容量 1000倍といわれている。若年層は、テレビやPCを持っていない人も多く、スポーツやエンタメコンテンツのスマホ視聴が、既にかなり進んでいる。5Gになれば、スマホ視聴の質が飛躍的に上がるため、若年層だけでなく、それ以外の世代にもスポーツのスマホ視聴は加速するであろう。

さらに、5Gがもたらす恩恵としていわれているのが、「空間伝送」。映像や音声だけでなく、三次元の空間を丸ごと伝送することで臨場感まで再現し、他人と共有することができる。スポーツにおいては三次元のリアルタイム中継が当たり前になり、現在開発が進むVR、AR、MR体験が飛躍的に改善することになるだろう。グーグルやアップルなどのIT企業による開発が進むVR、AR、MRゴーグル(眼鏡)の品質が上がれば、スマホに代わる主要デバイスになる可能性もある。開発速度が上がり、高度な品質が実現すれば、いずれは今の重くてやぼったいゴーグル形状ではなく、軽くて薄いコンタクトレンズ型デバイスが可能になるだろう。コンタクトレンズを着けたことがない方には抵抗があるかもしれない。しかし、若年層は、目が悪くなくても、おしゃれでカラーコンタクトレンズを使用した経験も多い世代だ。コンタクトレンズを着用して、VR、AR、MRスポーツ観戦体験するのも、問題ないであろう。

上記をもっと具体的にいうと、スタジアムに行かず、家や外にいても、あたかもスタジアムで生観戦しているかのような、もしくはそれ以上の経験が、上記のゴーグルやコンタクトレンズ着用で簡単にできるようになる。今ですら、最新の高品質音響システムを備えたシアタールームのような場所で、8K画像を大スクリーンで見るのは、下手すると、スタジアムでの生観戦より迫力がある。選手はもちろん、スタジアムで観戦する観客のしわまでくっきり見えるくらい全てがクリアに見える。クリスティアーノ・ロナウドがフリーキックの時にボールを蹴る音なども爆撃音くらいに迫力満点だ。2018年FIFAワールドカップ・ロシアで、スタジアムから離れたモスクワのど真ん中に、VIP用ホスピタリティーが設置されていたのだが、まさにこのような世界だった。ビジネス顧客、家族、友人と、シャンパンやキャビアなど高級でおいしい食事を楽しみ談笑しながら、都心にいつつもスタジアムで見る以上の迫力でサッカー観戦体験ができたのだ。

また、今のテレビ視聴は「マス消費」であるが、今後は、パーソナライズ(カスタマイズ)された「コンテンツ消費」になる。リオネル・メッシやロナウドなど特定の選手や監督の目線、審判目線のカメラ映像などで、自分の好きなモノを好きな時に好きなように自由自在に見られるのだ。スタジアムもスマートスタジアム、家もスマートホームと、全てがIoT化されて、視聴や観戦の嗜好・習慣などのビッグデータが蓄積されていくので、AIによって個人に最適化した視聴(観戦)体験を楽しめるのだ。さらには、常に友人とつながっていたい若年層にとっては、上記のような試合視聴(観戦と言うべきか?)中も、三次元でコミュニケーションを取れるようになるゆえ、新たな「コミュニケーション消費」の形ともいえるかもしれない。

自動運転が日常的に運行されるようになれば、上記が、移動中の自分の車の中でも可能になる。家にいる必要もないのだ。よく欧米スポーツ&メディア業界で、今の視聴習慣の特徴を、「Anytime, Anywhere, Any device(いつでも、どこでも、どんなデバイスでも)」と表現するが、まさにその世界である。ロボティクスの発達とともに、スタジアム内外にかかわらず、飲食も自ら動いて買いに行ったり取りに行ったりする必要もなく、ロボットに任せればいい。

3密がタブーになる時代、スタジアム観戦は変わらざるを得ない

ではなぜ、上記のようなDXがスポーツ界にとって肝要で、今後のチャンスでもあるのか? 「Withコロナ」時代には、日本でいう3密(密閉、密集、密接)がタブーだからだ。スタジアムは、密閉ではないものの、まさに密集&密接の場である。ゆえに、ウイルスや伝染病のリスクを下げながら生きる術を探っていく「Withコロナ」時代、スポーツやコンサートの生観戦経験は、残念ながら変わらざるを得ない。今の密集&密接のメッカのようなスポーツ試合時のスタジアムが、今後難しいとなると、マッチデー収入(試合時のチケット、飲食、物販の売り上げ)は、当然下がる。J1平均や欧州の人気サッカークラブのマッチデー収入は、大体、総収入の20%弱。5分の1を占める収入が減少する場合、上記のようなテクノロジーを駆使して、今まで以上の観戦体験をファンに提供して稼ぐしかない。

「いや、そんなのまだ先の先でしょ?」と言う人もいるかもしれない。しかし、歴史上、伝染病は、常に人類への脅威であるし、グローバリゼーションが加速した今、伝染病が流行する頻度も上がると予測されるので、「Withコロナ」時代はSFの世界ではなくリアルだ。これまでに挙げたもののいくつかは、すでにテクノロジー的に可能になっている。しかも、今のテクノロジーの進化の速度は驚愕的である。下記を参照してほしいが、新しいテクノロジーが「5000万ユーザー獲得にかかった年数」を示したグラフである。

近年、その速度は加速している。上述したスポーツ視聴・観戦体験は、コロナ前にもすでに未来像として議論されており、「Withコロナ」の今後はMustとなると考えられるので、近い将来、実現されるだろう。まさに、スポーツの“The Whole New World”だ! スポーツどころか、人々の生活にテクノロジーが密接に結びつく今後の「Withコロナ」時代。

「テクノロジーを制する者が、スポーツビジネスを制する」であろう。

「Withコロナ」時代に、日本スポーツ界がすべきは?

「Withコロナ」時代に向けて、日本スポーツ界が今すべきことは、前述してきたように、2つに要約される。
「DX」と「テクノロジーの積極活用」を進めることだ。

日本人の「真面目で勤勉」な性質は、ビジネス面で良い面も多々あるが、悪い面もある。特に、もう一つの性質である「安全、安心、安定を好み変化を嫌う」と混ぜ合わさると、どうしてもイノベーションが進まず、停滞を招く。“失われた30年”も、日本人の働き方改革が進まないのも、労働生産性がOECD(経済協力開発機構)加盟国で際立って低いのも、それが理由だ。

コロナショックは、そんな保守的な日本人や組織ですら、変わらざるを得ないと思うであろう千載一遇の変革のチャンスである。まさに、ダーウィンの進化論の世界。時代の変化に適応して、日本とスポーツを、さらに盛り上げていきましょう!

It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent, but the one most adaptable to change.
生き残る種とは、最も強い種でも、最も知的な種でもなく、変化に最も適応できる種である。
(チャールズ・ダーウィン)

<了>

PROFILE
岡部恭英(おかべ・やすひで)
1972年生まれ。サッカー世界最高峰のUEFAチャンピオンズリーグに関わる初のアジア人。UEFA(欧州サッカー連盟)専属マーケティング代理店「TEAMマーケティング」のテレビ放映権/スポンサーシップ営業 アジア・パシフィック地域統括責任者。慶應義塾体育会ソッカー部出身。ケンブリッジ大学MBA取得。スイス在住。夢は「日本でワールドカップを再開催して、日本代表が優勝!」。

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