【三浦愛の突撃ドライビング取材/第1回】坪井翔選手に聞く、動じないメンタルとオンボード映像の活用

2021年4月20日(火)16時0分 AUTOSPORT web

 2021年もスーパーフォーミュラのピットリポーターを務めるほか、レーシングドライバーとしてスーパー耐久をはじめとしたさまざまなカテゴリーに参戦中の三浦愛さん。このたびオートスポーツwebでは、三浦さんの目線で気になるスーパーフォーミュラドライバーに突撃取材を敢行し、同じドライバー目線で気になることを質問していく企画を始動します。


 記念すべき第1回目の突撃取材のターゲットはP.MU/CERUMO・INGINGの坪井翔選手。昨年唯一シーズン2勝を挙げる活躍を見せた坪井選手は今シーズンの開幕戦こそ悔しい結果に終わったものの、チャンピオン争いの候補にもなり得るだろうとライバルからも警戒されているドライバーのひとりです。


そんな坪井に今回、三浦さんが聞いてみたいこととは?


「昨年のスーパーフォーミュラでチャンピオン経験者以外で誰が活躍したのか? という視点で見た時に唯一、シーズン中に2勝したのが坪井選手でした。その優勝した2つのレースを見ると、後ろから追われて苦しそうな感じだったんですよね。でも、それを守り切って彼は2勝しました」


「自分がドライバーの立場だったら、あの状況ではすごいプレッシャーだと思います。そこでトップを守り切るだけの精神力があるから勝てたと思うのですが、それ以上に、きっと何かテクニックや抑えるポイントがあるんだろうなと思って、そこを聞いてみようと思います!」


 さて、三浦さんと坪井翔選手のドライバーズトークをお楽しみください。

坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)


【昨年スーパーフォーミュラ2勝の裏にあった坪井翔の“反省点”】


三浦:あの、いきなりなんですけど……。


坪井:え、そんな入り方?(笑)


三浦:昨年、2勝しましたけど、どっちのレースもトップを守り切った感じのレースだったと思います。あれは、自分の中で作戦とか、チームとして何か戦略的なものがあったんですか?


坪井:いや、ないです。本当はぶっちぎりたかったんですよね。だけど、ああいうレースしかできなかったというところが、レースを終わってからの反省点ですね。勝てたのは良かったけど、それで満足していてはいけないと思っています。なぜ引き離せなかったかということを考えると……自分のレースペースが遅いということ。追いつかれているということは、前に出られたらそのまま引き離されてしまうと思います。ダウフォースが抜けて近づくことができなくなるなか、ああいう接戦になったということは僕のペースが遅いということです。あの苦しい中で2戦とも勝てて良かったなと思いますが、改善しないといけない点はまだまだあるあるなと感じています


三浦:そこで後ろから追われていて、抜け出た速さがない状況の中、どんな心境で走っていたのですか?


坪井:早くレースが終わってほしい、1周でも早く終わって!という感じです(笑)。自分が追いかけている立場だと、どれだけレースが長くても辛くはないですけど、追いかけられて、自分でも結構苦しいと分かっているレースほど、1周1周が長く感じます。だから、キツいですね。


三浦:ということは、精神的にかなり鍛えられた感じですか?


坪井:そうですね。ぶっちぎって勝てるレースって、そんなに多くはないです。前を走っている時は、そういう精神状態に追い込まれるケースが多いです。そこで耐えられたというのは大きかったですね。抜かれるのと抜かれないのでは大きな違いです。あの2レースとも、最後は抜かれる寸前のところまでいきましたけど、そこをちゃんと抑えられたというのは自分にとっても自信になったのかなと思います。


三浦:相手を押さえている時ってプレッシャーとかもあるじゃないですか。でも、坪井選手のレースって、あまり大きなミスはない気がするのですけど、その辺については?


坪井:ミスをしないことは、常に心がけていますね。コンマ1秒早く走るために、コンマ2〜3秒をロスするくらいだったらコンマ1秒落としてもいいから、毎周そのタイムで帰ってくるくらいのイメージを持って走っています。ある程度、自分の中でかたまった走りができている時は、そんなに大きなミスをせずに、どんな順位でも走れているのかなと思います。


三浦:そういう走りというか、『これだ!』とハマる状況というのは、いつもじゃないと思いますけど、(その状況に持っていくための)訓練みたいなものはありますか?


坪井:訓練はないけど……やはり練習走行でロングランをやる時に、心がけています。速く走る時と、ちょっと抑えてでも絶対にミスをしないようなロングランのペースというのを、自分の中で切り分けてテストはしています。『ここまで我慢すれば、絶対にミスしない』というのは、自分の中で分かって走っています。ちょっとプッシュしたい時は予選並みに行かないといけないなとか、そこをうまく切り分ける練習をテストや練習走行の時からしています。それが決勝で役立つ時があるのかな、と思います。


三浦:やっぱりシミュレーター(の練習)は効いているのですか?


坪井:シミュレーターも今は無視できないですよ。むしろ、シミュレーターの方が体感で伝わってくるものが少ないからミスをしやすいです。そこでミスをしないように訓練するという部分では、シミュレーターは役立つと思っています。


三浦:シミュレーターは、どのくらいの頻度でやっているのですか?


坪井:シーズンが始まってしまうと、実車に乗っている時間の方が長いのですけど、シーズンオフになるとシミュレーターを有効活用しています。やっぱり、乗っている時間に比例すると思うので、練習は必要だと思います。


三浦:乗っている時間は多いけど、乗るカテゴリーはいつも違うじゃないですか。そういう時の気持ちと、あとは頭の切り替えは?


坪井:特に切り替えというか、特別何かをしているわけではないです。そのクルマに合わせたタイヤの限界を使うだけで、そのスピード領域が300km/hになるか180km/hになるかだけです。あまり『このクルマだから、こうする』というのはないです。けっこうシンプルです。


三浦:感じるままに……ということ?


坪井:感じるままにですね。結局はタイヤのグリップを100%引き出すのがドライバーの仕事なので、そこ次第ですね。スーパーフォーミュラだって、冬の時期は(富士を)1分20秒台で走れるけど、夏の時期になると1分22秒台になります。そこでも平気で2秒とか変わっちゃうと、同じクルマに乗っていても別のカテゴリーに感じるくらい、走る時期によって違います。そこで、あまり『このクルマだから、こうする』という執着は持っていないです。その時、その時で臨機応変に対応できるように意識しています。

同じドライバーとして、気になるポイントをぐいぐい突っ込む三浦愛さん


【オンボード映像は何十回もチェック!】


三浦:ちなみにレースの映像とかは、見直したりする方ですか?


坪井:絶対に見ますね。特にオンボードは。正直、他のクルマのオンボード映像も、もっと載せてくれるといいなと思うくらいです。自分のは載せてほしくないですけど、他の人のは見たいです(笑)。同じスーパーフォーミュラでも、走らせ方が全然違います。同じタイムでも、『あぁ、そういうふうに走るんだ』とか、今はそういう映像があるから、良い時代だなと思います。自分の速いところ、遅いところを全部知ることができます。他人のオンボードはめっちゃ見ますね。


三浦:レース映像よりは、オンボード映像なんですね。


坪井:オンボードですね。外からの映像は『このレースはこの(作戦の)パターンが良かったんだ』というのを選手ごとに見て振り返ります。オンボードは自分の技術に直結する話なんですけど、外からの映像はその人のクセというのがあるので、そこを外から見てチェックしています。


三浦:でも、その研究って相当時間がかかるじゃないですか?


坪井:相当かかりますね。でも基本、他に趣味もないし、引きこもっているタイプなので、そういう(映像を見直す)時間はあります。それこそ、寝っ転がりながら見ているだけでも違います。オンボードとかは特に、何回も見るんですよ。10回〜20回見ていると、それまで気づかなかった部分も見えてきます。オンボード映像だったら、1周1分何秒で帰ってくるので、それを何回も繰り返してみても、そこまで長い時間はかからないですね。


三浦:そんなに何回も見て……迷走しない?


坪井:迷走しない! まぁ……悩んだりはするけど、とりあえずやってみる。やって見てダメだったら、戻ればいいだけなんでね。セットアップは迷走しますけど、走り方においては、迷走はしないですね。引き出しにするだけですね。


三浦:坪井選手には師匠みたいな人はいますか?


坪井:やはり石浦(宏明)さんですね。ミドルフォーミュラの頃からお世話になっていましたし、昨年までチームメイトという環境でした。ある意味、師匠というか、ずっと近くでいろいろとサポートしてくれたのは石浦さんだったので、石浦さんを見て育ってきました。石浦さんは走るエンジニアじゃないですけど、やっぱり頭で考えて、セットアップのことも全部知った上でコメントしています。その辺の頭の良さを見習わなきゃいけないかなと思っています。クルマのメカニズムのところでも、すごく引き出しを多く持っています。僕もああいう風になりたいなと思います。


三浦:そういう意味で、石浦さんが今年はアドバイザーとしてチームでいるというのは大きいですか?


坪井:大きいですね。ドライバーの時はライバルでもあったので、聞けないこともありました。石浦さんは昨年までSF19に乗っていたので、そういう意味でも石浦さんの助言というかアドバイスは大きいと思いますし、チーム全体を客観的にみて、いろいろ言ってくれます。それはすごく大きな材料になるかなと思います。


【インタビューを終えて/三浦愛さんの感想】


「考えすぎていないんだな思いました。特に『車両が変わったから、あれをしなきゃ、これをしなきゃ』ではなくて、常にクルマのポテンシャルを100%出して走るということを意識して走っているだけなんだなと思いました。意外とシンプルに考えているんだなということが、印象的でしたね」


「迷走しないんですか? という質問に対して『迷走しない!』と即答していたので、自分の中に確立したものがあって、それをどう生かしていくかという、答え探しを常にやっているのかなと思いました。私自身すごく勉強になりました。ありがとうございました!」


 次回もスーパーフォーミュラに参戦するトップドライバーに、突撃インタビューを予定。今度は誰に、どんな質問をするのか……お楽しみに!


【プロフィール】
三浦愛(みうら あい)

1989年生まれ。カートで実績を重ね、フォーミュラチャレンジ、全日本F3などに参戦。2014年には全日本F3Nクラスで日本人女性初優勝を飾った。2021年はスーパー耐久に参戦しつつ、スーパーフォーミュラではテレビ中継の現場解説を務める。
三浦愛 公式HP

三浦愛さんの突撃取材、第2回もお楽しみに!

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