“打撃のチーム”がなぜ打てない? 数多の強打者を育てたハマの名伯楽が指摘した苦境の原因「一人でできないのが野球」【DeNA】
2025年4月26日(土)6時0分 ココカラネクスト

打線が活発化せず、苦しい戦いが続いているDeNAナイン。その状況を首脳陣はどう見ているのか。(C)産経新聞社
揃って不振の「役者たち」
昨季のDeNA打線は、セ・リーグ屈指の破壊力を誇った。打率.256はリーグトップ、ホームラン101本もリーグ2位で、26年ぶりの日本一の原動力になっていた。
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しかし、今季(※4月25日時点)はここまで、打率.231の4位。7本塁打は3位ながら、その下に控える6本の広島、中日、ヤクルトとわずか1本差。OPSも昨年の.687から.601とダウンしているのが現状となっている。
無論、昨季のセ・リーグ首位打者で、OPSも.983を叩き出したタイラー・オースティンと、日本シリーズでMVPとなった桑原将志の離脱はやはり小さくないダメージだ。しかし、他の主軸のバットが湿ってしまっているのも大きな誤算と言える。
打線のコアを担うスラッガーたちの不振は悩みの種だ。まず、佐野恵太は、昨季打率.273、OPS.705から、それぞれ.271、.630とダウン。さらに宮﨑敏郎は.283、.815から.238、.544と大幅悪化。いわゆる「打てるキャッチャー」へと飛躍した山本祐大も同じく.291、.723から.208、.535と苦戦し、日本球界復帰2年目となる筒香嘉智も、.188、683から.136、.436と、やはり寂しい数字を並べる。
昨季からの継続で言えば、牧秀悟が打率.286、OPS.794と期待通りに活躍。さらに新加入の三森大貴と昨季にブレイクした梶原昂希の奮闘は目立つが、脇を固める役者陣が機能しないことには、得点を挙げるのは難しくなる。
実際、5連敗中の総得点はわずか8点止まり。待望の先取点を奪いながらも手痛い逆転負けを喫した24日の阪神戦後には、三浦大輔監督も「しばらく長打が出ていないので、つないでいくしかないというところでやっているんですけれども、結局初回だけでしたからね……」とポツリ。苦しい現状を憂いでいた。
攻撃面の責任を任されているコーチたちも、現状打破に向けて頭をフル回転させている。
巨人のコーチ時代にリーグ優勝経験を持つ村田修一野手コーチは「143試合の長いシーズンを戦って優勝するためには、勢いだけでは無理がある」と、リーグ3位から一気に駆け上がった短期決戦とペナントレースは別物と指摘。その上で自身の考える“理想像”を口にする。
「みんなで同じ方向を向くことがすごく大事になってきます。目の前の試合を取るために、今日はチームとしてこういう戦い方をする。打つ方なら打線を線にしなくてはいけないですね。『あいつが打てなかったら俺がなんとかする』とか、カバーし合えるいい循環にしていかないと」
まさに“ワンチーム”。そんな理想とは裏腹な現状に村田コーチは「シンプルにバットを振る準備をしっかりできているのかを問いかけないとですね」と渋い顔。23日の阪神戦で、2死から三森が食らいついて作ったチャンスで、1球もバットを振らずに見逃し三振に終わった京田陽太を例に上げ、「途中まではいい形だったのに、あそこで出せないというのはもう技術じゃないですよ」とキッパリ。打席内での“基礎”の重要性を説いた。
「真っ直ぐでも、変化球でも、あそこで手が出なかったのは、吹っ切れていないから」
では、苦しい現状を変えていくためには何が必要なのか。
現役時代にチームの四番も務めた名手は、「まずは1点づつ早い段階で得点したいですね。上手く回っていないときこそ、1点目がプラスにもマイナスにも働く」と“先制点”にフォーカス。その上で「出塁するのか、進塁させるのか、打点を挙げるのか。この3つしかないんです」と、個々がケースに応じての役割を認識する働きを重視した。
悪いときこそ、もう一段上のメンタル改善を
また、シチュエーションと選手の特性にもよると前置きしたうえで村田コーチは、「しっかり狙い球を絞って、空振りを怖がらずに思い切ってやっていってほしいですね」と指摘。選手たちに相手を威圧する姿勢を求めた。
「当てに行っているわけではないのに当たってしまって凡打になるのは、割り切れていないはずなんで。もう変化球は空振りOK、真っ直ぐど真ん中を見逃しOKとか。その代わり肩口のスライダー来たら許さないよとか。思い切ったことをやる選手がいてもいいんですよ」
さらに、その村田コーチをはじめ、内川聖一や多村仁志、筒香など数多の強打者を育て上げた田代富雄野手コーチも「一人ではできないのが野球だからね。うまくいかない時にお互いがお互いをカバーし合うことが大事だよね」と強調。現状を「うまく噛み合っていないよね。結果を気にしにしすぎているからかな。迷っていたらバットは振れないから」と分析した上で、日本一にまで駆け上がったチームの成長に期待を寄せた。
「でも、去年も苦しいときがありながらもAクラスには食い込めたし。だからそういう意味じゃみんな精神的にタフになっているし、成長も感じているんだ。バッティングは波がある。だから、気持ちの持ち方とアタマの整理。俺も現役の時に経験あるけど、そういうときのセルフコントロールをやっていけないと、なかなかこの世界じゃ長いシーズン乗り切れないよ」
悪いときこそ、もう一段上のメンタル改善を——。その考えを要求する名伯楽は、「とにかく打席に入って振れるような雰囲気づくり、そういう方向に持っていくのが俺たちの仕事」とあらゆる経験を培った自身の指導にも矢印を向ける。
「色々考えて、どうやって割り切らすのか。保険をかけたような言い方したら割り切れないし、本当にコミニュケーションを取りながらやっていくしかないよ」
指導の信条に「考えないやつはダメ」を持つ田代コーチだが、「打席に入ったらいろんなことを考えると思うけど、打つことのチェックポイントは1つか2つにしろよって言ってるね」と強調。最後はシンプルにやるべきことを整理すべきという考えも示している。
かつて横浜を沸かせた2人のスラッガーの率直な指摘。彼らがもがき苦しむ後輩たちを上昇気流に乗せ、早期に反撃体制を整えられるか。その手腕は実に興味深い。
[取材・文/萩原孝弘]
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