F1新規参戦のキャデラック、迫るタイムリミットとシャシー製造の壁/F1コラム

2025年4月27日(日)7時35分 AUTOSPORT web


 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、2026年からF1に参戦する予定のキャデラックF1チームのシャシーパートナーに関して考察する。


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 2026年のF1シーズンは、あと約10カ月で開幕する。技術規則が大きく変更されるため、11のチームは、3月の開幕戦オーストラリアGPの前に、テストを十分行う必要がある。そのために、最初のプレシーズンテストは、1月末にもバルセロナ・カタロニア・サーキットで実施される見通しだ。


 2025年の世界選手権に参加している10チームは、現シーズンを戦いつつ、新しいマシンの設計と製造を行っている。非常に異なるふたつのプロジェクトを同時に完成させなければならない設計および製造部門には、大きな負担がかかっている。



2025年F1第5戦サウジアラビアGP スタート

 一方で、2025年にはリソースを費やす必要のない新しいキャデラック・チームは、理論上は、ライバルたちよりも楽に作業を進められるはずである。


 だがそれは、あくまで「理論上」の話にすぎない。キャデラックは経験豊富な設計者や技術者を多数雇用しているが、図面を完成したシャシーという“ハードウェア”に変換する能力はまだ備えていない。そのため、実際には、新しいキャデラックの組織は、既存チーム以上に大きなプレッシャーを受けているかもしれない。


 主にカーボンファイバーで作られているF1シャシーを製造するには、大規模なインフラが必要だ。これは、人間の専門家と高価な装置の両方を必要とする複雑な工程である。その装置には、個々の部品を熱と圧力で硬化させるための大型オートクレーブが含まれる。


 シャシーは「サバイバルセル」としても機能するモノコック構造として作られ、強度と安全性に関する厳格な要件を満たさなければならない。しかし同時に、過度に重くなってはならない。なぜなら、わずか1キロの重量でもラップタイムに影響を及ぼすからである。


 F1の規則では、チームは自分たちのマシンを設計してそれを自ら製造するか、あるいは独占契約のパートナーに製造させなければならない。現在のチームのうち9チームは自社内でマシンを製造している。


 キャデラックが新しいF1マシンのシャシーを自社で製造できる可能性は低いと思われる。そのため、この仕事を担う独占パートナーを探すことになるだろう。


 イタリアのレーシングカー製造会社ダラーラは、すでに世界耐久選手権(WEC)でキャデラック・ハイパーカーのシャシーを供給している。そのため、キャデラックにとっては、F1でもダラーラと組むことができれば都合がよかったかもしれない。しかしダラーラは、ハースF1チームが2016年にデビューして以来の独占的パートナーを務めている。



2025年F1第4戦バーレーンGP エステバン・オコン(ハース)

 ハースは昨年、ケルンのモータースポーツ本部に施設を有するトヨタと提携契約を結んだ。しかし当面の間、ハースはダラーラとの提携を維持するため、ダラーラはキャデラックのためにシャシーを製造することができない。


 ポルシェとアルピーヌは、それぞれのWECハイパーカーのシャシーをマルチマチックとオレカに製造させている。キャデラックはこの2社をF1におけるパートナー候補と考えることもできるが、現実には、いずれもF1の基準で競争できる能力を持っているとは考えられていない。


 キャデラックは、自らの初のF1カーを製造するために、アメリカのコンポジット・リソーシズ(CORE)との関係を築こうとしていると思われる。COREは航空宇宙および防衛産業に関与しており、F1シャシーを製造するために必要な施設を備えている。しかしながら、同社はモータースポーツに関する現在の経験を一切有しておらず、本社はサウスカロライナ州シャーロットの南40キロに位置するロックヒルにある。


 スイス・ヒンウィルを拠点とするザウバーは、イギリスやイタリアから熟練したF1技術者を引き寄せるのに常に苦労してきた。COREがサウスカロライナに人材を呼び込むのは、さらに難しくなる可能性がある。


 いずれにせよ、キャデラックF1チームに対する時間的なプレッシャーは、週を追うごとに高まっている。



キャデラックのロゴ

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