ぜひ一度、ご覧あれ――J3で“絶好調”のアタッキングフットボール 栃木シティが提供する「娯楽性」
2025年4月27日(日)14時11分 ココカラネクスト

栃木シティの選手の質の高さはJ3屈指だ©︎TOCHIGI CITY
ロングボール、空中戦、マンツーマンプレス、セットプレー。
堅い試合が多く『パワートレンド』が継続中のJ1だが、驚くべきトピックスは、横浜F・マリノスが最下位に沈んでいることだ。今季は守備、決まり事、バランス重視でペースを落とした戦い方になったものの、結果は出ず、スティーブ・ホーランド監督は解任された。
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クラブ側は「アタッキングフットボールの進化」を掲げたが、現場でやったことは放棄に近く、まさに迷走中だ。昨年末の西野努SD就任会見では、メディアから「アタッキングフットボールとは何ですか?」と抽象的な概念について問われ、同様のギモンは昨今のSNSでもよく見かける。「そもそもアタッキングフットボールって何よ?」「なんだっけ?」「よくわからん!」と。
ただ、手堅くリスクオフのJ1で、その答えを探すのは大変ではなかろうか。むしろ反対側のチームばかり。
そんなあなたに——。
栃木シティはアタッキングフットボールって伝えなきゃ♫
えっほえっほえっほえっほ
まずは「サッカー用語モリモリの記事なんて読みたくない!」という人へ。今すぐこの記事を閉じ、DAZNでJ3・栃木シティの試合を見ることをオススメしたい。それが、アタッキングフットボールである。Q.E.D. 百聞は一見にしかず。
一方でもっと言葉を付け加えるならば、栃木シティが実践するアタッキングフットボールとは、インテンシティ上げ上げのハイプレス&前進サッカーである。今季はJFLからの昇格組ながら、10節を終えて2位につけ、得点数もトップタイの17ゴールを挙げた。超攻撃的パフォーマンスでJ3の台風の目になっている。
チームを指揮するのは今矢直城監督だ。横浜FMを「アタッキングフットボール」に覚醒させた張本人、アンジェ・ポステコグルーの下で、2018年に通訳を務めた人物である。原典を知る氏が、栃木シティのアタッキングフットボールを指揮し、関東リーグ、JFL、J3へと導いてきた。
採用するシステムは、攻守共に4−3−3だ。両ウイングの田中パウロ淳一、鈴木国友(鈴木隆雅)は守備時に高いポジションを保ち、3トップが外切りでハイプレスを仕掛ける。そして苦し紛れに出させた縦パスを、MF関野元弥、土佐陸翼、宇都木峻(岡庭裕貴)が奪い取ってショートカウンターへ。空中に蹴ってきたら、CBマテイ・ヨニッチ(カルロス・エドゥアルド)、佐藤喜生らが跳ね返し、こぼれ球を拾ってミドルカウンター。ボールを失ったら、すぐに高い位置で奪い返し、ショートカウンターへ。絶え間なくプレッシングを行い、絶え間なく相手ゴールへ向かう。相手の息を奪うほどアタッキングなサッカーだ。

田中パウロ淳一が攻撃にアクセントをつけている©︎TOCHIGI CITY
一般的な4−3−3の運用で言えば、守備時に中盤のスペースを埋めるために両ウイングを下げ、4−1−4−1や4−4−2に変形して守ることも多い。だが、栃木シティはそれをやらない。3トップをキープし、その裏をカバーするためにサイドバックの鈴木裕斗らも下がらず、敵陣でプレスと前進を繰り返す。前へ、前へ、えっほ、えっほ。
アタッキングフットボールって何ですか?
実はこの質問は昨年末、今矢監督本人に投げたことがある。答えは「小学生っぽく聞こえるかもしれないけど、やっぱりゴールを目指すこと」だった。「ポケットやワイドレーン、ボールの受け方など戦術はあるけど、それを勉強しすぎると目的がズレることがある。ゴールは真ん中から動かない。それを強烈なメッセージとして打ち出せるかが大切だと思う」と語ってくれた。
栃木シティのサッカーを見ると、その言葉に嘘も曇りもないことがわかる。守備は待たない。いつも前へ前へと敵陣でプレスに行く。ポゼッション時は横パスやバックパスを使うこともあるが、前方が空いているときに横や後ろを選ぶことはない。多少不確かでも、背後にスペースがあればどんどん放り込む。
栃木シティは技術に長けた選手が多いが、無駄にボールを回さないため、平均ポゼッション率は48.2%と若干低めだ。J3は対戦相手のレベルが上がったので、支配を許す時間帯もあり、その影響は無視できないが、それでも一貫して攻撃の手数は多い。とにかく多い。
もちろん、何でもかんでも前へ放り込むわけではなく、たとえば自陣ポゼッションはCB間に1枚入れて3枚に変化し、相手のプレスを避けることもある。ただし、その役割はDF化したGK相澤ピーターコアミに任せ、MFはできるだけ最終ラインに下がらない。
前へ、前へ、敵陣へ人数をかけていく。そこへGK相澤からのロングパスで背後をねらい、こぼれ球を拾って一気に攻め落とす。手数をかけないシンプルかつ技巧的な連続攻撃が、サポーターを、会場を沸かす。
常に前へ。ゴールを目指してプレーする。ポゼッション時に前へ、被ポゼッション時も前へ。「前」。アタッキングフットボールの説明は、実はたった1文字でいいのではないか。「前」にどこまでこだわるか。
たぶん、超ハイレベルになった小学生のサッカーが、アタッキングフットボール。見る人の気持ちを若返らせるスタイルだ。
栃木シティ、未見の方はぜひ一度、ご覧あれ。
サッカーは面白いって伝えなきゃ♫
えっほえっほえっほえっほ
[文:清水英斗]