この横浜に優るあらめや。F・マリノス、30分だけ完遂の攻撃サッカーでACL決勝へ

2024年4月27日(土)10時0分 FOOTBALL TRIBE

横浜F・マリノス 写真:Getty Images

4月24日に行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023/24の準決勝第2戦。横浜F・マリノスは本拠地(横浜国際総合競技場)に蔚山現代(韓国)を迎えた。3-2とホームチームが1点リードで後半終了のホイッスルが鳴り響いたものの、第1戦との合計スコアが3-3となったため、15分ハーフの延長戦へと突入。ここでも両チーム無得点に終わり、準決勝の決着はPK戦に委ねられた。


PK戦では後攻の横浜FM4人目キッカー、MF天野純まで両チームとも全員成功。キックを成功させた天野の咆哮により、横浜サポーターのボルテージも最高潮に達した。


大声援を受けたGKポープ・ウィリアムが、蔚山(先攻)の5人目キッカーMFキム・ミヌのシュートをストップ。横浜FMの5人目、DFエドゥアルドのシュートがゴールネットに突き刺さった瞬間、激闘に終止符が打たれている(PK戦スコア:5-4)。


第1戦を0-1で落としながら、横浜FMはいかに勝機を見出し、クラブ史上初のACL決勝進出を果たしたのか。ここでは準決勝第2戦を振り返るとともに、この点について検証・論評する。現地取材で得たハリー・キューウェル監督(横浜FM)の試合後コメントも、併せて紹介したい。




横浜F・マリノスvs蔚山現代、先発メンバー

蔚山のパス回しを封殺


お馴染みの基本布陣[4-1-2-3]でこの試合に臨んだ横浜FMは、キックオフ直後からFWアンデルソン・ロペスを起点とするハイプレスで試合を掌握する。同選手が蔚山(基本布陣[4-4-2])の2センターバック間のパスコースを塞ぎながらプレスをかけ、アウェイチームのパス回しを片方のサイドへ追い込むと、これに横浜FMのウイングFWやサイドバックも呼応。チーム全体としての連動性が感じられる守備で、蔚山のGKや最終ラインからのパス回し(ビルドアップ)を封じた。


試合序盤は蔚山の攻撃配置に工夫が見られず、2ボランチの一角が2センターバック間に降りることも、サイドバックが内側へ絞って外と中央両方のパスコースを確保することもなし。ビルドアップ時にサイドバックが自陣後方タッチライン際に立ったため、そこへパスを送っては横浜FMによるハイプレスに晒されていた。


横浜FMがハイプレスを仕掛けることは予想可能だったはずで、蔚山を率いるホン・ミョンボ監督の自軍のビルドアップ配置に関する準備が不足していた感が否めない。蔚山陣営が放ったハイプレス回避のためのロングパスも、前半途中までは横浜FMが回収している。キックオフ直後から前半30分くらいまでの約30分間で蔚山は窮地に陥り、逆に横浜FMにとっては持ち前のアタッキングフットボール(攻撃的サッカー)を披露できる時間帯となった。




アンデルソン・ロペス 写真:Getty Images

前半30分までに3得点


第1戦を1-0で物にした蔚山が[4-4-2]の布陣での撤退守備を選んだため、横浜FMの2センターバック(畠中槙之輔と上島拓巳の両DF)にプレスはかからず。ゆえにホームチームは2センターバックを起点に悠々と攻撃を組み立てた。


迎えた前半13分、横浜FMの右ウイングFWヤン・マテウスから小気味良いパスワークが始まり、ボールが蔚山の最終ライン背後にこぼれる。蔚山陣営がこのボールの処理にもたついている隙をホームチームFW植中朝日が突き、先制ゴールを挙げた。


遅攻のみならず、快足の左ウイングFWエウベルへシンプルにロングパスを送るなど、横浜FMは多彩な攻めを披露。前半21分にはエウベルにボールを預ける速攻が一度不発に終わるも、すかさず2次攻撃へ移る。エウベルやマテウスがパスワークに絡み、ロペスがペナルティアーク付近から左足でシュートを放つと、これがゴール右隅に突き刺さった。


2戦合計スコア2-1で形勢逆転のこのゴール直後、横浜市歌をモチーフとしたホームチームのチャント『この横浜に優るあらめや』(※)がスタジアムに響き渡り、横浜FMがさらに勢いづく。迎えた前半29分、ロペスが相手DFファン・ソッコ(センターバック)に寄せて苦し紛れの縦パスを蹴らせ、これをDF畠中がカット。ここから横浜FMの速攻が始まると、植中がペナルティアーク後方からミドルシュートを放ち、リードを広げるゴールを挙げた(得点は前半30分)。


(※)この横浜より優れた港があるだろうか、いや無いだろうの意。


ハリー・キューウェル監督 写真:Getty Images

「良いプレスが大事」


キューウェル監督は試合後の会見で、筆者の質問に回答。チーム全体としての連動した守備が、前半の3ゴールに繋がったことを強調している。


ー前半、アンデルソン・ロペス選手を起点に相手のパスワークを片方のサイドへ追いやることができていたと思います。この点について監督の評価をお伺いしたいです。また、第1戦と比べてチーム全体のハイプレスの強度や連動性が高かったからこそ、今回の3ゴールに繋がったと私は感じています。いかがでしょうか。


「アウェイでの第1戦でもプレスは良かったと思っています。やはり良いプレスを続けることが大事ですし、プレスはロペス個人でできるものではなく、一人ひとりに役割があるなかで、チーム一丸となってやっていくものです。今日の試合のなかでも、そうした部分(チーム全体としての連動した守備)をしっかり出せていたと思います」




ホン・ミョンボ監督 写真:Getty Images

ホン・ミョンボ監督の采配に対応できず


2戦合計スコア1-3と劣勢に陥った蔚山のホン・ミョンボ監督は、前半34分にMFダリヤン・ボヤニッチを投入し、基本布陣を[4-4-2]から[4-1-2-3]へ変更。このフォーメーションチェンジに対応できず、ハイプレスを緩めてしまった横浜FMは蔚山の自陣後方からの配球を許し、前半35分にサイド攻撃を浴びる。この1分後に行われた蔚山MFイ・ドンギョンのコーナーキックをMFマテウス・サレスに物にされ、ホームチームは2戦合計スコアで1点差に詰め寄られた。


前半39分には敵陣でのボールロストからボヤニッチにボールを運ばれ、攻め上がっていたDF永戸勝也(左サイドバック)の背後へパスを通されてしまう。横浜FMのセンターバック上島が自陣ペナルティエリアでスライディングを仕掛け、蔚山FWオム・ウォンサンのドリブルを止めようとしたものの、ボールが無情にも上島の腕に当たる。上島による決定的な得点機会の阻止で蔚山にPKが与えられたうえ、同選手にはレッドカードが提示された。


ボヤニッチのPKは成功。横浜FMは2戦合計スコアを3-3の同点にされたうえ、3月13日のACL準々決勝第2戦(山東泰山戦)と同じく10人での戦いを余儀なくされた。




加藤蓮 写真:Getty Images

横浜FMが瀬戸際で発揮した柔軟性


10人という難局を乗り越えるべく、キューウェル監督は後半開始前にDFエドゥアルドとMF山根陸を投入。布陣を[4-3-2]に組み直したが、最前線から中盤に降りてくるFWチョ・ミンギュや、逆に中盤から最前線へ飛び出すMFイ・ドンギョンを捕まえきれない。豊富な運動量で広範囲をカバーでき、先述の山東泰山戦でも守備面で気を吐いた喜田拓也と渡辺皓太の両MFを欠いたことで、最終ラインと中盤の間にボールや人を通され続けた。


3セントラルMFの外側もボヤニッチに使われ始め、[4-3-2]の横浜FMの守備ブロックは崩壊寸前だったが、キューウェル監督がMF水沼宏太とDF加藤蓮を投入し、彼らに3セントラルMFの左右を担当させたことで守備の出足や強度を維持。後半終了間際に[4-4-1]、延長戦では5バックを敷くなど、ピッチ上の選手たちの助けとなる手は全て打てていた。キューウェル監督の当意即妙な布陣変更、それに応えた選手たちの柔軟性が物を言った一戦だった。


横浜FMらしいアタッキングフットボールを披露できた時間は短く、むしろ受難の時間帯が長かったが、見方を変えればハイプレスを基調とする攻撃的サッカーを完遂した前半の30分間で3ゴールを奪えたことが、今回の決勝進出に繋がったとも言える。まさにアタッキングフットボールの勝利。「この横浜に優るあらめや」と誇りたくなるようなビッグマッチだった。

FOOTBALL TRIBE

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