Jリーグにおける大都市有利のホームグロウン制度に意味はあるのか
2025年4月27日(日)18時0分 FOOTBALL TRIBE

Jリーグは、2025シーズンの各クラブにおけるホームグロウン(HG)選手人数を4月22日に発表した。ホームグロウン(HG)制度は、自前で育成された選手をトップチームに登録する制度で、Jリーグでは2019年から設けられている。現在J1の各クラブは4人、J2とJ3は2人以上の育成選手をトップチームに登録する必要がある。
今回公開された数は、第1登録ウインドー終了の3月26日時点のもので、最多はFC東京の15人。続いて鹿島アントラーズとサンフレッチェ広島が13人。柏レイソル12人、RB大宮アルディージャと川崎フロンターレが11人、東京ヴェルディと松本山雅が9人となっている。
一方で、規定人数未達は14クラブ(J1:ファジアーノ岡山、J2:いわきFC、水戸ホーリーホック、藤枝MYFC、J3:ヴァンラーレ八戸、福島ユナイテッド、栃木シティ、ザスパ群馬、SC相模原、
FC岐阜、FC大阪、奈良クラブ、高知ユナイテッド、テゲバジャーロ宮崎)にも達した。
HG選手登録が規定数に満たない場合は、翌年のプロA選手「25名枠」からHG選手の不足人数分を減ずるという罰則規定があるが、2026年2月からプロ契約のA・B・C区分が撤廃されるため今回は罰則がないようだ。
ここでは、JリーグにおけるHG制度の欠陥について、ひいてはその根拠となっているホームタウン制度の是非について考察する。

Jリーグにおけるホームグロウン制度はナンセンス?
HG選手の定義とは「12歳の誕生日を迎える年度から21歳の誕生日を迎える年度までの期間において、特定のJクラブの第1種、第2種、第3種または第4種チームに登録された育成期間の合計日数が990日(Jリーグの3シーズンに相当する期間)以上であること」と示されている。
この制度は、クラブが自前で育成した若手選手をトップチームに登録することを奨励する意味で導入されたが、元々はイングランドのプレミアリーグや米国メジャーリーグサッカー(MLS)、UEFA主催大会で用いられたルールを“輸入”したものだ。極端な話をしてしまえば、イングランドを除く欧州において、UEFA主催のカップ戦に出場しないクラブであれば、無視しても構わないルールなのだ。
このルールをそのままJリーグで採用された意味と考えられるのは、「ちゃんとユースとジュニアユースも強化しなさい」というメッセージが込められていると理解できる。しかし、イングランドでHG選手として認められるのが「イングランド内であれば地域は問われない」のに対し、Jリーグでは事実上「クラブに12歳から21歳までの間で990日間在籍した選手と下部組織出身選手」に限定されている。
このルールでは、大都市が有利となることは明々白々で、実際、JクラブのHG選手トップは前述の通りFC東京の15人。他で10人を超えているのは鹿島(13人)、柏(12人)、川崎(11人)、大宮(11人)。育成がクラブの生命線となっている広島(13人)以外はすべて関東圏のクラブだ。一方、いわき、藤枝、八戸、福島、栃木C、相模原、FC大阪、高知、宮崎に至っては「0人」である。
トップチーム強化だけで精一杯のクラブに対し、「スカウトしてきた若手選手、あるいは下部組織の選手を起用しなさい」と迫るのは厳しすぎやしないか。
ただでさえ少子化社会の中、有望なサッカー少年を下部組織に入団させるだけでもひと苦労だろう。才能ある少年がより高いレベルを求めて、県外の強豪私立高サッカー部に流出してしまうケースもある。分母(=少年サッカー人口)に圧倒的な差があるのだから、それを1つの物差しで比較し「ルール不遵守」と断じるのはナンセンスとは言えないか。

ホームグロウン制度の欠陥
例えば、今や清水エスパルスで不動のボランチとしてレギュラーを張っているMF宇野禅斗は、福島県福島市出身だ。福島ユナイテッド傘下のU-12チームでサッカーを始めたが、中学から青森山田に進学し、高校まで6年間を過ごしたため、万が一、福島ユナイテッドでプレーしたとしてもHG選手とはならない。
宇野がHG選手としてプレーできるクラブは、前所属(2022-2024)の町田ゼルビアだけとなる(町田から清水に育成型期限付き移籍していた2024シーズンも、町田の「育成期間」に含まれるため)。このようなキャリアを経たJリーガーは数知れず、規定と実情がマッチしていないのだ。
HG制度の罰則規定が復活する2027シーズン、このままルール運用されたとすれば、大都市クラブと地方クラブの差は広がる一方となるだろう。HG選手の数によってはA契約選手の数が削られるのだから、当然の帰結だ。
今年のHG選手カウント基準日となった第1登録期間最終日(3月26日)、町田は4人のHG選手が所属し、かろうじてルールを遵守した形となったが、その直後、GKバーンズ・アントンをロアッソ熊本へ育成型期限付き移籍させた。
町田は同じ手法で、昨2024シーズンも基準日直後にHG選手だったDF奈良坂巧をJ3カマタマーレ讃岐へ、MF樋口堅をJFL沖縄SVへ、それぞれ育成型期限付き移籍させている。HG選手人数をクリアするために一旦在籍させておいて、カウントが済んだタイミングを見計らって移籍させるという意図があったことは明らかだろう。
町田のフロントがルールの穴を突き、違反にならないギリギリのことをしつつ、かつ露骨であるため、「モラルを守らないチーム」という悪印象がさらに強まった一方、HG制度自体の欠陥を浮き彫りにしているとは言えないだろうか。

ホームタウン制の是非から考察
HG制度の根拠となっているホームタウン制度(Jリーグにおいて各クラブが本拠地と定めた地域)にも不公平感がある。
県にJクラブが1つの場合、ホームタウンを「全県」とするケースが一般的だが、2つのJクラブを有する福島県(福島ユナイテッド、いわきFC)、栃木県(栃木SC、栃木シティ)、千葉県(柏レイソル、ジェフユナイテッド市原・千葉)、埼玉県(浦和レッズ、RB大宮アルディージャ)、長野県(松本山雅、AC長野パルセイロ)、愛媛県(愛媛FC、FC今治)、福岡県(アビスパ福岡、ギラヴァンツ北九州)では、限られたパイの奪い合いとなり、それは地元出身の有望若手選手の獲得のみならず、スポンサー集めにまで影響する。
神奈川県には現在、5つのJクラブがあるが、中でも湘南ベルマーレはホームタウンを拡大し続け、現在、県西部の9市11町を指定している。チーム名が「bellmare(ラテン語で「美しい海」)」にも関わらず、山あいの温泉街である箱根町までホームタウンにしている。ここまで来ると、まるで“国盗り合戦”だ。
また、町田はホームタウンを「東京都町田市」と限定しているのに対し、FC東京と東京ヴェルディは「東京都」としている。先行してJリーグ入りした特権といえばそれまでだが、大阪府でガンバ大阪が「吹田市など7市」、セレッソ大阪が「大阪市、堺市」、FC大阪が「東大阪市」と棲み分けがなされているのとは対照的だ。
これではFC東京と東京VにHG選手が多くなるのも当然だろう。人口1,400万人を超える東京という世界的大都市をたった2つのクラブで分け合っているのだから、HG選手数の面で有利に働くのは当たり前だ。
ちなみにFC大阪のホームタウン、東大阪市の人口は約48万人。栃木シティのホームタウンは栃木市、足利市、壬生町の2市1町だが、その人口を合算しても約33万人。こうした状況を無視し、“同じ土俵で勝負しなさい”というのは、あまりにも酷な要求とは言えるだろう。
HG制度は、クラブが若手選手を育成することに投資することを促し、若手選手の成長を支援することで、クラブの未来を明るくするために重要な役割を果たしている。しかし、その「ホームタウン」の概念にまで立ち返らなければ、HG制度そのものの不公平感は残り、特に地方クラブの弱体化に繋がる危険性もあるのだ。