なぜリバプールで活躍できるのか? 名スカウトを唸らせた遠藤航、独時代の転機「ワタルにどれほどの価値あるか」【現地発】

2024年4月28日(日)11時0分 ココカラネクスト

ステップアップを図ったシュツットガルト時代の遠藤。しかし、移籍当初はチャンスを与えられない日々を過ごした。(C)Getty Images

腐ることなく自分にベクトルを向け、成長と向き合う

 プレミアリーグの名門リバプールでプレーする遠藤航はなぜ活躍できているのか。

 様々な要因があるだろう。ボール奪取能力の高さ、当たり負けしないフィジカルの強さとしなやかさ、身体をぶつけるタイミングと事前のポジショニング、相手の動きを細かに把握するスキャン能力、ボールを確実に収めるスクリーンスキル、状況に応じた危機管理能力……。数え上げるときりがない。

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 では、遠藤はどのように世界最高峰の舞台でも屈指のパフォーマンスを出せる選手へと成長したのか。その秘密を探るために、少し時計の針を戻してみよう。

 ここで取り上げるのは、2019-20シーズンの遠藤だ。

 当時26歳だった遠藤は、ベルギーリーグのシント=トロイデンから、2部リーグに甘んじていたドイツの古豪シュツットガルトへと移籍。だが、ティム・ワルター監督の構想に入れず、出場機会のない日々が続いていた。

 しかし、突然、転機は訪れる。カールスルーエとのダービーマッチで初スタメンを飾ると、この試合で攻守に大活躍。一気にスタメンの座を射止めたのである。この時の変化を遠藤は、後日こう振り返っている。

「出られない時期もしっかり練習からやっていくしかないと思ってやっていました。実際に出場できるタイミングがきて、たまたまダービーでしたけど、自分の中では『いつもどおりやる』っていうことだけを心がけてやりました。ああいう風にチャンスがくるのを掴む準備をずっと出られない時間にやっていたからこそ掴めたと思います」

 腐ることなく自分にベクトルを向け、成長と向き合う大切さがそこにはあった。

 いまやアンカーとしてのイメージが定着している遠藤。その役割における評価が高いのは周知の事実だ。一方で彼は様々なポジションでプレーできるユーティリティ性も極めて高い。シュツットガルト時代も当初はCBで起用される試合も少なくなかった。

 ドイツ人敏腕スカウトとして名を馳せるスベン・ミスリンタートSD(当時)が、「センターバックでのプレーにも私は強烈な印象を受けているんだよ。それこそ日本代表での彼のポジションは『そこが適任なのでは?』と思うほど良かった。ワタルがどれほど価値のある選手かはもはや考えるまでもない」と称賛するほどのクオリティだった。

 遠藤は試合展開や相手に応じて、3バックや4バックのCB、試合途中からボランチやアンカーと多種多様なタスクを担っていた。その仕事ぶりを本人もポジティブに捉えていた。

「僕はありがたいことにいろんな監督からいろんなポジションで使ってもらっている経験があるし、いろんなポジションで使ってくれることによって、僕のプレーの幅も広がる。監督にオプションとしていろいろと持ってもらえればいいと思う」

いまやリバプールのレギュラー格へと成長を遂げた遠藤。飛躍の背景には本人の飽くなき向上心があった。(C)Getty Images

まだまだ夢の世界だったプレミアリーグ

 遠藤は様々な計算を自分で整理して、プラスの方向に積み重ねていける選手だ。全てが別々なのではなく、しっかりと消化、そして吸収ができる。そしていつでも将来的に自分へ必要になる課題に対するチャレンジを怠らない。

 CBからボランチでのプレー機会が増え始めた頃、「意識して取り組んでいるプレー」について明かしてくれたことがある。

「海外にきて自分の中で意識しているのは、シンプルにワンタッチでプレーすることも必要ですけど、相手のプレッシャーをはがして縦につけるようなプレー。もっとレベルが上がってくると中盤の選手にはそういったプレーが求められると思うので。

 相手のプレッシャーがきてもビビらずに前に運んだりというプレーは自分の中で意識している。すごく楽しんでプレーできているし、こういうプレッシャーがあるなかで、球際でバチバチ戦うっていう試合を求めてここにきた。成長になると思う」

 今でこそプレミアリーグでもボール奪取後に鋭い縦パスを味方につけたり、相手のプレスをかいくぐって次の局面に展開するシーンは当たり前のように見られる。遠藤はそうなるための取り組みをずっと以前からしていたのだ。

 着実に成長していく遠藤。そんな日本代表のキャプテンについて、ミスリンタートSDが次のように話していたことを思い出す。

「ワタルは我々の試合運びにおける重要なファクター。チームに安定感をもたらしてくれる選手だ。他の選手がどのように守備をすべきかをオーガナイズし、1対1の競り合いでものすごくインテリジェンスに対応する。ボールを奪い取ると、素晴らしい技術で素早い切り替えに貢献してくれる。我々のリーダーだ。心臓部の一つ。コミュニケーションとは、ただピッチで叫びあってればいいわけではない」

 どんな選手にも得意不得意がある。苦手だからといって改善に取り組まなければ、いつまでたっても何も変わらない。課題を明確に把握し、スキルアップの道を模索して、勇気をもって実践していく。

「やっぱりドイツはひとつの球際の強さも強いなって思うし、これがブンデスリーガ(1部)だったらもっとレベルは上がるのかなとか、スピード感が上がるのかなって感じながらプレーしています」

 ドイツでの2部時代をそう語っていた当時の遠藤にとって、ブンデスリーガも、プレミアリーグもまだまだ夢の世界だったかもしれない。

 だが、そこからわずか数年で、遠藤はブンデスリーガで戦うチームのキャプテンを務め、苦境から救い出すような活躍を何度も見せ、昨夏にはリバプールへと羽ばたいた。そして、プレミアリーグで出場機会を得るだけではなく、コンスタントにスタメンに名を連ねている。これは驚くべきステップアップと言える。

 誰でもいきなり完璧なプレーはできない。しかし、そうした状況でミスを恐れれば、成長にはつながらない。遠藤の歩みを振り返ってみると、挑戦の大切さに改めて気づかされる。

[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]

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