“トルシエ・ベトナム”の展望は?…「東南アジアの五輪」とも言われる「SEA Games」が開幕

2023年4月28日(金)18時49分 サッカーキング

前回大会で連覇を果たすと、国民は熱狂した [写真]=Getty Images

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半世紀以上の歴史を誇る「Sea Games」
 2年に1度の東南アジアスポーツの祭典「東南アジア競技大会」(SEA Games)がカンボジアで5月に開催される。東南アジアは6億を超える人口を持ち、各国民が注目する同大会は域内最大の競技大会として知られ、最近では東南アジアに進出する日系企業も大会に協賛するようになっている。

 1959年にタイで第1回大会が開催されたSEA Gamesには、すでに半世紀以上の歴史がある。今大会で32回目を迎えるが、ポル・ポト政権下の大虐殺を経験したカンボジアでの開催は史上初。東南アジアの友好、理解、平和の実現を目的としており、カンボジアにとっては国際社会に対し、平和で発展を遂げた自国をアピールする絶好の機会と言える。別名「東南アジアの五輪」と呼ばれるだけあって、陸上や水泳を筆頭に様々な競技で争われるが、毎回最高の盛り上がりを見せるのがサッカーだ。

 男子サッカー競技では、ブルネイを除く東南アジア10か国(ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ミャンマー、シンガポール、カンボジア、ラオス、東ティモール)の22歳以下の代表チームが参加し、大会の開幕に先立ち4月29日からグループリーグの試合がスタートする。

 今大会にディフェンディングチャンピオンとして出場するのが、元日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏率いるU−22ベトナム代表だ。ベトナムは前任者のパク・ハンソ監督時代に、2019年大会と2021年大会(※新型コロナウイルスの影響で1年延期)を連覇しており、3大会連続の金メダル獲得に期待がかかっている。

 トルシエ氏は、2018年にベトナムのプロサッカー選手養成アカデミー「PVF」のテクニカルダイレクターに就任。2019年9月〜2021年5月はU−19ベトナム代表監督も務めた。ベトナムはこの間に開催されたAFC U−19選手権2020予選で、日本に次ぐグループ2位で本大会出場を決めたが、新型コロナウイルスの影響で大会は中止。その後、トルシエ氏は契約満了となり、帰国していた。

 昨年末、5年にわたってベトナム代表を指揮したパク監督が勇退の意向を表明したことを受け、ベトナムサッカー連盟(VFF)が次期監督として白羽の矢を立てたのがトルシエ氏だった。日韓ワールドカップでのベスト16、アジアカップ優勝、ワールドユース準優勝といった日本時代の実績や、過去のベトナムでの指導経験が買われ、2023年2月末にベトナム代表監督(U−22代表兼任)に就任した。

 ベトナムサッカーを躍進させたパク監督の後任ということで、プレッシャーがかかる中での就任となったが、VFFは2026年のW杯初出場を目指すベトナムにとって、ベストな人選と判断した。

 トルシエ監督就任後、U−22ベトナム代表は国際親善大会「ドーハカップ」を含めて計6試合を行っており、ここまで1勝5敗と大きく負け越している。ファンからは監督の手腕を疑問視する声も聞かれるが、今はチームの土台を築いている段階だ。課題も徐々に浮き彫りとなったため、本番までに修正してくれることを期待したい。

トルシエ監督が目指すサッカー
 トルシエ監督はU−22ベトナム代表で3−4−3の基本システムを採用している。システムはパク監督時代と変わらないが、目指すスタイルは真逆だ。これまでの堅守速攻からポゼッションサッカーへの転換を進めており、以前よりビルドアップを重視している。先日のドーハカップでは、たとえ2点、3点リードされた場面であっても簡単にボールを前線に放り込まず、つないで崩そうとする姿勢が見て取れた。

 まだ結果こそ出ていないが、トルシエ監督が目指す改革は、多くのサッカー関係者から支持を集めている。これが実を結ぶまでには時間と忍耐が必要になるが、この時間はベトナムが「東南アジアの強豪」の枠を超えて、アジアと世界の舞台で飛躍するための生みの苦しみと捉えられている。

 ベトナムは今大会のグループBで、ラオス(4/30)、シンガポール(5/3)、マレーシア(5/8)、タイ(5/11)と対戦する。優勝候補のタイとは最後に当たるため、早めにグループリーグ突破を決めてしまいたいところ。いずれにせよ、メダル獲得がノルマのベトナムにとって、グループリーグ突破は通過点でしかない。

 そして、今大会で注目すべきもう一つのチームが、GMとして実質的な監督を務める本田圭佑氏が率いる開催国カンボジアだ。本田GMは今大会を最後に退任することが決まっており、SEA Gamesがカンボジアでの挑戦の集大成となる。カンボジアはSEA Gamesの自国開催が決まった10年以上も前から、若手育成に注力して大会に備えてきた。経済もスポーツも、隣国のタイやベトナムに大きく後れを取っているカンボジアにとって、SEA Gamesでのメダル獲得は悲願だ。もしカンボジアがグループAを突破できたなら、準決勝以降でトルシエ監督率いるベトナムとの対戦が実現するかもしれない。

文=宇佐美 淳

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