元福岡DF輪湖直樹「サッカーが教えてくれた全て」独占インタビュー

2023年4月29日(土)12時0分 FOOTBALL TRIBE

輪湖直樹氏(当時アビスパ福岡)写真:Getty Images

昨2022シーズンをもって、15年のプロ生活を終えた元アビスパ福岡DF輪湖直樹。2008年ヴァンフォーレ甲府でプロデビューした後、徳島ヴォルティス、水戸ホーリーホック、柏レイソル、福岡と計5つのクラブに所属。柏ではAFCチャンピオンズリーグ(ACL)にも出場し、福岡ではJ1昇格に貢献するなどの活躍を見せた。


ここではそんな輪湖氏に、独占インタビュー。常に全力。妥協なく身体を張り続け、プレーの波が少ないサイドバックとして15年間戦い抜いたプロ生活や、引退理由について、また現在実施しているパーソナルトレーニングや今後の方針などについて伺っていく。




インタビュー中の輪湖直樹氏 写真:Football Tribe

福岡のクラブ史に名を刻んだ実感


ー2020年、アビスパ福岡のJ1昇格に大きく貢献なさいました。当時の気持ちを教えてください。


輪湖:それまでのサッカー人生で「成し遂げた」と感じる経験はそれほどありませんでした。J1昇格は自分にとって「大きな何かを成し遂げた」最初で最後の経験になり、すごく嬉しかったです。ただ、その瞬間はあまり実感がなくて、時間の経過と共に「クラブの歴史に名を刻めたんだなぁ」と、成し遂げたことの大きさを徐々に実感できました。


ー2020年のチームはとても仲が良い印象でしたが、どう感じていましたか?


輪湖:もちろん仲も良かったですし、チーム全体にすごく自信がありました。あのシーズン(2020シーズン)は新型コロナウイルスの影響がすごくあって過密な日程だったんですけど、その中で出場した選手みんながしっかり活躍できていました。(主力として)出ている11人の選手だけじゃなく、誰が出ても活躍できるというチーム全体の自信と強さが感じられた1年でした。


ーベスト電器スタジアム(アビスパ福岡ホーム)の雰囲気はいかがでしたか?


輪湖:ホームの後押しを感じられる素晴らしいスタジアムだと思います。実際に今年は試合終盤の得点が多くあります。それはサポーターの後押しあってこそです。選手としてプレーしていても、サポーターの熱意を感じていました。特にここ最近はとても良いサポーターが増えているように思います。前向きに選手のことを応援してくれて、本当にチームの一員のような「サポーターとともに戦っているんだ」という印象をすごく受けましたね。




輪湖直樹氏(当時柏レイソル)写真:Getty Images

J1とJ2の僅かで大きな差


ーJ2のヴァンフォーレ甲府でプロデビューした後、柏レイソルやアビスパ福岡時代はJ1でもプレーされました。J1とJ2には違いを感じましたか。


輪湖:簡単に言えば、やはり選手個人の質が違います。もちろんJ2の中にもJ1レベルの選手はいますが、全体的な個々のレベルはJ1とJ2で違いがあるかなと感じました。


J1選手のほうが力の出しどころを認識していますね。最後のクロスの質だったり、ゴール前だったら最後のシュートを決めきる質だったり、そこが1番大事だというのを認識しながらプレーしています。小さい差に感じますけど、その僅かな差が実際にはとても大きな差を生んでいますね。「どこで力を発揮するべきなのかを見極める力」というのは、やはりJ1の選手の方が長けていると感じますね。


ー現役時代、サポーターから「輪湖ちゃん」と呼ばれる機会が多くありました。どのように感じていましたか?


輪湖:チーム内でそう呼ばれることがなかったこともあって、そこに対してはあんまり何とも思わなかったというか…。でも、親しみを込めて呼んでくれるのは選手としてすごく嬉しいことですし、嫌な感じは全くなかったです。親しみやすくて良かったんじゃないかなと思います。


ー今季(2023年)のアビスパ福岡は開幕から好調ですね。シーズンを通して上位に居続けるためには何が必要だと思いますか?


輪湖:必要な事はたくさんあると思いますが、1つ挙げるとしたら「チームの波をなくす」こと。連敗しないことや、悪い流れを断ち切ることなど、悪い試合を継続しないことが大切です。悪い流れのまま進まないことは上位にいるためにすごく必要です。負けた試合でも、次戦でもう1回良い試合に持っていく、そういうメンタリティは上位にいるために必要不可欠だと思います。




輪湖直樹氏(当時アビスパ福岡)写真:Getty Images

引退セレモニーに至るまで


ー引退決断に至るまでの経緯を教えてください。


輪湖:(2023年)1月末まで、自分が望むレベルのチームからのオファーを待っていました。でも、それが叶わなかったので引退を決断しました。その決断に対して後ろ髪を引っ張られるような、そういうネガティブな感情はなかったですね。


「やり切ったな」という思いはありましたし、それはそれで運命というか「次のステップに進む時なんだな」と自分の中で感じられたので。必要としてくれるチームがなければ辞めなきゃいけません。もちろんまだプレーはできたと思いますけど、どうしてもそこ(現役続行)を、という感じはなかったですね。


ー15年間のプロサッカー人生で、特に印象に残っている出来事を教えてください。


輪湖:いろんな出来事がありましたが、1番と言われたらやっぱり水戸から柏に移籍する時ですかね。(柏レイソルの)下部組織で9年間ずっと育ったので、柏からオファーが来た時のことは1番印象に残っています。


もちろん、実際にピッチでプレーできるか、オファーが来た時には分からないんですけど、でも「やっとスタートラインに立てたな」という気持ちでしたね。それまでもプロとして6年間過ごしていましたけど「頑張っていれば報われるんだな」とすごく実感できた瞬間でした。


ー今年3月4日には、その柏レイソル戦で引退セレモニーを経験されました。どのような思いでしたか?


輪湖:「ここまで頑張ってきて良かった」とすごく感じた時間でした。あのタイミングでアビスパとレイソルの試合がなければ実現しませんでしたし、サッカーの神様からのご褒美なんじゃないかなと思えた瞬間でしたね。レイソルでも長くプレーしましたし、アビスパでも長くプレーしたので、その両方のサポーターの前で引退セレモニーができたことはサッカー選手としてすごく嬉しいことです。本当に幸せ者だなと感じました。


インタビュー中の輪湖直樹氏 写真:Football Tribe

現在はパーソナルトレーナーとして


ー現在は主にSNSなどで募集し、パーソナルトレーニングを実施していますね。具体的にどれくらいの料金でできるのですか?


輪湖:60分で8,800円プラス交通費です。対象は福岡県内と決めている訳ではないんですが、県外だと交通費が高額なので現実的じゃないと思っています。指導する場所は公園で行うのが8割ぐらいですね。60分の中でも最初と最後では感覚が変わってきますし、おそらく練習に取り組む際の意識が変わるので、自分で言うのもなんですが、すごく良いと思っています。


ーSNS上でアビスパ福岡の川森社長と「一緒にお仕事しましょう」というやり取りをされていましたが、何か進展はありましたか?


輪湖:社長自身と直接はお話できていませんが、スクール関係の方とは話しました。ただ、ちょっと難しい側面があって、今のところまだ実際に形になったものはありません。パーソナルレッスンのアビスパ版というのはまだできていないです。


ー4月10日には、指導者としてアビスパ福岡の練習に参加されていました。現役の頃と比べてどのような違いを感じましたか?


輪湖:視点が変わりましたね。選手の時は、コーチングスタッフがどこまで考えているのかというのはわからない部分でした。けれど(4月10日に)スタッフルームに入っていろんな話をしている中で、選手たちが思っている以上に、スタッフは個別に選手たちのことを考えているんだなというのがすごくよく分かりました。


ーこれから進む道について、どんなイメージをお持ちですか?


輪湖:今後、指導者になるかどうか分からないですけど、すごく興味のある分野ではありますね。パーソナルトレーニングでは小学生、中学生、高校生、大学生、1番上は自分より年上の方まで様々な年代の方に教える機会があるので、それぞれが自分の学びにもなります。いろんな方への指導を短い時間で経験できるので、今後例えばどこかのチームに所属して、ある年代を受け持つ時にも活かせる経験ができていると思います。




輪湖直樹氏(当時アビスパ福岡)写真:Getty Images

SNSで解説やアドバイスも積極的に発信


ーTwitterではプレーの解説もされていますが、解説者への興味はありますか?


輪湖:もちろん興味はありますけど、試合の解説者をしているとプレーがどんどん流れていっちゃいます。Twitterだとプレーを何回も観れるのでちょうど良いんです。今はプロを目指している選手たちに向けて、考え方やプレーのヒントになればと思ってやっています。


ー現役の頃は積極的に発信するイメージはありませんでしたが、引退後はSNSで発信する機会が増えていますね。ご自身の中で、なにか変化があったのでしょうか。


輪湖:選手の時はあまり発信していなかったんですけど、現役の時にも自分が考えていたことを書き留めていました。それは、選手の時の気持ちを忘れないため。学生からプロになる時、徐々にではなく一気にステップアップしなければならないんです。学生選手がプロの練習に参加すると、だいたいはスムーズにプレーできていません。ちょっと違った考え方をしているように感じたことがありました。そういう、自分自身がプロを経験したからこそ分かることもあったので、そのときの感覚を忘れないために書いていました。


現役の時はプレーすることが仕事ですし、そういうことを発信するのが難しい面もあって意図的に控えていました。でも今はできるので、しています。当時は学生に教えるとは思って書いていなかったんですけど、いつか学生を教える機会があったら活かせるのではと思います。


ー輪湖さんは試合前、自分なりのストレッチで気持ちを高めていたそうですね。日本のクラブには欧州のようなメンタルコーチはいませんが、この職種に興味はありますか?


輪湖:興味はあるかもしれないです。サッカーに限らず、アスリートは「心技体」全部が揃っていないといけません。まず「心技体」のうちの「技」(技術)が高くなければプロになれません。でも、その中で「心」メンタルの部分が備わっていないと、プロの舞台で活躍することができませんし、長く居続けることができないというのは、プロを長年経験してきて強く思ったことの1つです。


メンタルの部分は、自分の中で今一番大事なんじゃないかと感じています。学生の頃からメンタルを備えていくのは難しいと思いますが、すごく重要だと思っています。noteやSNS、いろんなとこで発信していく中で、皆さんに伝えたい部分でもあります。ただメンタルコーチへの興味はありますが、現時点日本のクラブでどれほど需要があるのかには少し疑問を感じます。




プレー中の輪湖直樹氏(右)写真:Getty Images

楽しめる選手はどんどん伸びる


ー長年左サイドバックでプレーされました。近年、サイドバックの重要性が増しているように感じますが。


輪湖:例えば内側でプレーしたり、近年サイドバックに求められることが増えてきています。それを難しいなと思うんじゃなくて「自分がゲームをコントロールできるんだ」と思える選手は、楽しめて上にいく選手だと思いますし、そういう選手が今のサイドバックに求められています。楽しめる選手はどんどん伸びていきますし、求められているサイドバック像にどんどん近づいていくと思います。


ー輪湖さんにとって、サッカーとはどのような存在ですか?


輪湖:小学1年生からここまでずっとサッカーをやってきたので、本当に人生そのものです。喜びも感動も、悔しさ、苦痛、仲間の大切さ、成し遂げること、試行錯誤して壁を乗り越えることなど、何もかもサッカーから学んできました。良いことをしていれば神様は見ているし報いてくれる「必ず報われるんだ」ということもサッカーから学びました。


ーありがとうございました。

FOOTBALL TRIBE

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