【現地発】山本由伸はなぜ2年目で“無双”できているのか ド軍投手コーチが明かした名手の“変化”「ボールの違いに適応できている」
2025年5月2日(金)16時40分 ココカラネクスト

凄みを増す山本。サイ・ヤング賞も視野に入っている(C)Getty Images
ドジャース山本由伸が、メジャー2年目で飛躍のシーズンを迎えている。まだシーズン序盤だが、日本人選手で初のサイ・ヤング賞獲得も夢ではない。4月を終えて防御率1.06はリーグトップ。WHIP(1イニング当たりに与える平均の走者数)1.00は同8位タイ、被打率.190は同4位タイと上位につけている。
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山本は抜群の制球力が持ち味の1つだが、今季はここまでストライク率63%。昨季の67%に比べると低い数字となっている。一方で、フォーシームのゾーン分布が微妙に変化した。MLB公式のデータ分析サイト『ベースボール・サバント』によれば、昨年は両サイドに配球が広く分布していたが、今季は右打者の内角、左打者で言えば外角付近に集中。スプリットはそのゾーンからさらに低め、つまり右打者なら内角低めにシンカーのように落ち、左打者には逃げるように外に落ちていく軌道となり、魔球と化している。4月を終えた時点で被打率.111は、フィリーズのザック・ウィーラーに次いでナ・リーグの先発投手では2位。球質の高さと安定感が注目を浴びている。
投球フォームに大きな変化はない。もちろん、技術的な改善もあるはずだが、メカニクス(投球動作)の再現性にたけていることが、山本の特長の1つでもある。その安定感に大きく起因するのが、メジャーのシーズンを戦う上での慣れと適応だろう。コナー・マクギネス投手コーチ補佐は、こう証言する。
「新しいリーグに来た時というのは、相手選手のこともまったく分からない。今ではかなり慣れているし、捕手との連携、ボールの感覚、配球に関する話し合い、すべてにおいてとても感覚よく出来ている。(シーズン中の)遠征にもすっかり慣れて、そういうことが大きな違いを生み出す」
162試合の長丁場で大型連戦が多く、広大な米国の移動には時差も伴う。食生活のリズムが一変し、昨年は初めての連続だった。不定期なチーム休養日のタイミングと登板間隔を考慮し、身体のメンテナンスを安定させることは決して簡単なことではない。そのサイクルを理解したメジャー2年目、英語でのコミュニケーションを含め、同僚との距離も近くなり、居心地の良さもあるだろう。ベテラン野手のフレディ・フリーマンも、頼もしい投球を続ける山本を「強打者を相手にしっかり攻めて、ストライクゾーンで勝負できているように見える。メジャーリーグでの過ごし方、遠征など、(生活リズムが)どういう風になっていくのかを理解して、2年目でより心地よく出来ているのだと思う」と評価した。
こうした環境面の慣れに加えて、マクギネス投手コーチ補佐は山本の適応力の高さも指摘する。
「日本のボールとの違いにも適応できている。メジャー球で投げるスプリットに関して、時間はかかったが、今は非常に感覚が良くなっている」
今春キャンプで、山本自身も1年目との違いを明確に口にしていた。
「去年はいいボールを投げられても、いい球を投げられてるような、ちょっと『?』がつくような感じ。ダメな球を投げても自分のどこが悪いのか、ボールとかマウンドとかピッチクロックとか、いろんな状況の違いがあったので。(原因を)見つけるのが難しかった。今年はしっかり明確にダメな時はここがダメだったなって、すぐに、日本の時と近く(同じように)考えられてるので、それがいいところかなと思います」
メジャー2年目で開幕投手に抜てきされ、東京ドームで開催された開幕戦では期待に応える投球で今季初勝利を飾った。サイ・ヤング賞2度のブレイク・スネルやタイラー・グラスノーら実績のある投手が故障で離脱する状況だが、抜群の安定感で4月を乗り切り、18日にはレンジャーズの剛腕ジェイコブ・デグロムとの投げ合いも制した。登板を重ねる度に増していく信頼感。投手として日本人初の偉業達成へ、着実に近づいている。
[文:斎藤庸裕]
【著者プロフィール】
ロサンゼルス在住のスポーツライター。慶應義塾大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。プロ野球担当記者としてロッテ、巨人、楽天の3球団を取材した。退社後、単身で渡米し、17年にサンディエゴ州立大学で「スポーツMBAプログラム」の修士課程を修了してMBA取得。フリーランスの記者として2018年からMLBの取材を行う。著書に『大谷翔平語録』(宝島社)、『 大谷翔平〜偉業への軌跡〜【永久保存版】 歴史を動かした真の二刀流』(あさ出版)。