中村俊輔のキックが楽しみな理由。一流が持つ独自の『感性』…育成指導者よ、教えすぎるな【宮澤ミシェルの独り言】

5月3日(木)10時0分 フットボールチャンネル

育成における“教えすぎない”指導の重要性

 日本代表選出経験も持つ元Jリーガーで、現役引退後は解説者として活躍中の宮澤ミシェル氏の連載企画。第4回は、選手育成について。指導者、選手たちには何が求められているのか。自身の考えを提示する。(語り手:宮澤ミシェル)

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 今回は育成について話したいと思う。前回、久保建英の話をしたけど、彼のプレーヤーとしてのポテンシャルは間違いない。自分で仕掛けられるし、(バイタルエリアの)どこで自分が余ったらいいか、というところが長けている。ギリギリのところでボールを渡されても、前を向きながら相手をかわせるし、ああいう選手はなかなかいない。バックパスも少なく、マークが来ていても斜め前に叩くとか。仕事人だよね。『隙あらば何かやってやろう』というプライドみたいなものを感じる。

 子どもたちを預かる指導者は、そういうのを教えてあげなきゃいけない。『あれやれ』『これやれ』というところから変わっていかないといけない。指導者としてはどうしても、近道というか答えを教えたくなるものなんだ。伝えてあげるのは絶対的にいいことなんだけど、それだけだと教わることばかりが多くなってしまう。

 選手自身がサッカーをもっと考えることが大事。自分はどういうプレーをするんだ、何が楽しいんだというのがないと、その子の感性が出てこない。僕はその選手の“サッカー感”が見たいんだよね。それは教えるだけという状況からはちょっと出にくい。教えるのは悪いことじゃないけど、ある程度のところまででいいと思う。あとは自由に、選手が自分で求めていくことをずっとやらせないと。教わることに慣れちゃうと、アイディアが出てこなくなっちゃう。自由度が大事なんだ。

 例えば、オーバーヘッドキック。僕は子どもの頃、土のグラウンドで思いきりジャンプして蹴りまくっていた。今の現場でもそういうことがどんどん行われて欲しいんだよね。遊びの中で、あれもできた、これもできたと成功体験が増えると、その子の“サッカー感”が変わってくるよね。

 僕は(フランツ・)ベッケンバウアーに憧れていたから、中学、高校と徹底的にアウトサイドキックを使っていた。子どもはそれでいいんだよ。小さい頃からやっていないと、ゲームで必要なことだけをやっていても応用が利かない。

 プロになってからもそう。最終ラインで相手のFWが近くにいても、左足のアウトで左サイドバックにパスを出していたからね。ボランチに預けて展開、という流れじゃなくてね。「あれは危ないから辞めろ」って言われたけど、「俺はプロだから大丈夫」と答えたんだ。こっちは楽しんでいるし、そういうプレーができないと面白くないじゃない。確かにアウトサイドのキックって難しいし、リスクもある。脛の上の筋肉が小さくて、しっかり乗っけて蹴らないといけない。「危ないからやめろ」って言われたけど、何試合も続けていたら「すごいよ」と認められたよ(笑)。

「こだわりを持った選手がどんどん出てきてほしい」

 小野伸二なんか、ゲームに必要のないことをいっぱいできるわけ。超人的に。オランダに行った時、飛んでくるボールを走りながらアウトサイドでピタッと止めただけで、スタジアムがすごく沸いた。乾(貴士)もそう。もちろんドリブルで抜いていくプレーも素晴らしいけど、サイドチェンジのボールをピタッと止める。あれにエイバルのファンは「こいつ上手いな」ってなる。そこからのドリブルだからね。

 自分で考えて試行錯誤する力を養わないと。もちろん、指導者にも感性がないといけない。それは日本サッカー界も気づいているし、もう少し選手に考えさせなきゃダメだなという指導法になってきている。

「コイツは本当にスルーパスが好きなんだな」とか、こちらとしては何か見たいよね。乾だって、あのトラップの技術や切り返し、そういう武器があるからこそスペインでやれている。他の日本人にできないことはないと思う。乾は野洲高校などで鍛えた技術がJリーグで通用して、ドイツでも上手くいって、スペインでもハマった。日本人にできないことを彼は一切やっていない。でも他の日本人があの領域に入っていけないのは、そういう環境がないからとも言える。

 久保にも、バルサの環境でやってきた経験がある。頭もいいし、どういう“サッカー感”で今後やっていくのか楽しみ。スピードを上げるための練習や、判断を磨くための練習はやってほしいけど、教えすぎる必要はないよ。

 歴代スーパースターはみんなそうだよ。ロナウジーニョや(リオネル・)メッシみたいな選手がすぐには日本に出てこない。(ズラタン・)イブラヒモビッチ、(ルイス・)スアレス、あいつら一体何なんだよと(笑)。でも、日本に点取り屋が増えないのもわかるよね。他とは違う特別な感覚が研ぎ澄まされないんだから。教わったことだけでは点は取れない。

 岡崎(慎司)はプロに入って最初の頃はチーム内の序列が低かった。でも、岡崎には他の選手に真似できないものが間違いなくある。自分を磨いてドイツに行って、プレミアでは優勝して。日本人が持っているマニュアル以外のものが彼にはあるから。ここを突っ込んで行くのかよ、というところで迷わず行く姿勢なんかがそうだよね。

 こだわりを持った選手がどんどん出てきてほしい。頑張るのは当たり前で、その上で何ができるか。それが“サッカー感”だし、教えられているだけで身につけるのは難しい。大人のゲームの中で最低限必要なものは間違いなくあるけど、みんな一緒じゃダメ。

試合結果よりも気になる中村俊輔のキック

 指導者としては、いいものだと思ったら子どもたちに教えたくなってしまう。その気持ちはとてもよくわかるけど、そこをぐっと我慢して、感性を育てるにはどうすればいいんだという視点を持っていないといけない。

 感性という点では、インタビューにもキャパシティがないように思う。一緒の受け答えで。それは、家にそういう環境がないからというのもあるんじゃないかな。例えば子どもの頃、映画を観た後の感想で「楽しかった」というのは僕の家では許されなかった。「何が楽しかったんだ?」と聞かれてしまう。大人のストーリーだったし、内容なんか全然覚えていない。どうしようって思って、「あの車が好きだ」みたいな返しをするわけ。すると、「そうか。黄色い方か赤い方か?」となる。そうやって話は膨らんでいくんだ。

 今の選手には、「スタジアムに来てください」だけじゃなくて「左足で魔球を蹴れるんで、観に来てください」とか、何か一つ言えるとこっちも興味が沸くよね。サッカーって、人間性でプレーするものだから。

(中村)俊輔みたいにキックにこだわって、あそこまでこだわると辿り着くんだよ。あのレベルに。俊輔を見ているとやっぱり楽しいよね。どんなボール蹴るんだろうってワクワクするし、人間性が滲み出ているなと思うよ。

 彼は(横浜F・)マリノスのユースに上がれなくて桐光学園高校に行ったけど、授業が終わったらグラウンドで遅くまで練習できる。その環境が良かったのかもしれない。俊輔にとってすごく嬉しいことだったと思うし、彼の感性はあそこで磨かれたんじゃないかな。今39歳だけど、全く関係ないね。僕は俊輔のキックを見たいし、試合の結果より俊輔が気になるというか。俊輔のキックだけを編集した映像が見たいもん。

 プロのゲームを観に行くってそういうことだと思う。キーパーだったらどんなセービングをしたのかが見たいよ。そういう選手にみんななりたいはずなのに、同じ感覚になってしまったらもったいない。

 指導者が色々なことを教えるのは大事だし、子どもたちもそこから吸収しないといけない。その上で自由さだったり、自分で考えこだわりを持って実践し続けてもらいたいね。

▽語り手:宮澤ミシェル
1963年7月14日、千葉県出身。Jリーグ黎明期をプレーヤーとして戦い、94年には日本代表に選出された経験を持つ。現役引退後は解説者の道を歩み、日本が出場した過去5大会のワールドカップを現地で解説している。様々なメディアで活躍。出演番組にはNHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』、WOWOW『スペインサッカー リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』などがある。

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