苦しみとプレッシャーに『ふたりで・真摯に』向き合い見つけた新型BRZの“正解”【GT300予選あと読み】
2021年5月4日(火)9時30分 AUTOSPORT web
スーパーGT第2戦、GT300クラスの予選でポールポジションを獲得したのは、今年新型マシンへと生まれ変わったSUBARU BRZ R&D SPORTだった。
第1戦岡山では公式練習でトップタイムをマークしながらも、まさかのQ1落ち。決勝でも、苦手とする集団内での走行となったこともあり、新型BRZのデビュー戦をノーポイントで終えていた。
Q1落ちについては硬めのタイヤを選択したことも大きかったが、「自分も乗れていなかった」と井口卓人は開幕戦を振り返る。
「どんなクルマでも、うまく乗らなければいけない」。そう考えていた井口は、「山ちゃん(山内英輝)が一発いいタイムを出せているし、そのクルマを自分も乗りこなせれば、圧倒的に速いと思っていた」。だが、それができなかった。
もともと、ふたりのセットアップの好みはやや異なっている。シンプルに表現すれば、よく曲がる方向のクルマを好む山内に対し、井口の好みは「リヤがある」方向。昨年までも山内のセットアップに対し、井口が予選アタックをするときはリヤ車高を下げるなどといった調整をすることはあった。
だが、今年新型へと生まれ変わったBRZは、先鋭化する空力などの影響もあってかスイートスポットが少し狭くなっているようで、それが井口の望む範疇からはやや外れていた面もあるようだ。また、岡山ではQ1で硬めのタイヤを履いたことで、よりピーキーな方向に向かってしまったのだという。
開幕戦後、井口と山内は解決策を徹底的に話し合った。ふたりでドライビングシミュレーターにも行き、解決策を探ったという。そこで「僕のスタイルと山ちゃんのスタイル、そのなかである程度の答えが出た」(井口)ため、それをチームへと伝え、今回の富士へとクルマを持ち込んできた。
山内によれば「(クルマに対する)コメントとしてはふたりともおなじだったんですが、井口選手の方がよりシビアに感じてしまう部分があったので、彼が乗るときはそこをよりケアしたセットアップにすれば……という話です。僕が極端に彼に合わせるとか、妥協するといったことではないんです」という。
迎えた富士の公式練習では、山内が早々にトップタイムをマークする。ここまでは岡山と同じ流れだ。2戦連続でQ1失敗はできないという大きなプレッシャーがかかる井口は、午前中の公式練習中にニュータイヤでのアタック練習を敢行する。だがなんと、そのタイミングFCY(フルコースイエロー)が導入されてしまいアタックは中断。
完全な形での1周のアタックができなかった井口だったが、「セクターのデータなどを見て、なんとなくいけるかな」という感触をつかむことができ、不安は少しだけ和らいだ。
それでもまだプレッシャーがのしかかる予選で、井口は公式練習時のタイムを縮める1分35秒963でQ1 A組のトップを奪う。
「もう、ホッとしたという、その一言につきます。何位でもいいから、絶対にQ2につながなければいけないというプレッシャーだったので……」
山内もQ2のアタックではトラフィックに悩まされつつも、最後はうまくスリップストリームも使い、見事にポールポジションを奪取。開幕戦で直面した課題に、ドライバーふたりで、そしてチームとともに真摯に向き合った結果、SUBARU BRZ R&D SPORTは予選日最速の栄誉を得た。
また、岡山ではややコンサバな方向に行ったというタイヤ選択に関しても、今回は「攻めている」という。よりグリップ感の得られる、柔らかい方向のスペックを選ぶことができているようだ。
そのタイヤで長丁場の決勝を“攻め切る”ことができれば、ポールポジションからの逃げ切りも視野に入る。ロングランにはある程度自信もあるようで、すべてをうまく運べば投入2戦目での新型BRZ初優勝も現実味を帯びてきそうだ。
■ダンロップ勢vsブリヂストン勢、決勝への展望
決勝に向けては、GT300クラスの上位グリッドはさながら“ダンロップvsブリヂストン”の様相を呈している。
ポールポジションのBRZと同じくダンロップを履く予選3番手のSYNTIUM LMcorsa GR Supra GTは、「公式練習での状況に対して変えたい部分をいろいろとセットアップしていったら、すべてがいい方向にいき、自分でもびっくりするようなタイムが出た」とQ1 B組でトップタイムの河野駿佑。タイヤについてもBRZと似たものをチョイスしていると見られ、決勝では上位争いを演じてくれそうな存在だ。
また、SYNTIUM LMcorsa GR Supra GTのQ1での最高速は、同じGRスープラ勢である埼玉トヨペットGB GR Supra GT、たかのこの湯 GR Supra GTに比べると3〜4km/h程度劣っているが、これはコーナリングを重視しダウンフォースを付け気味で走っているからだという。ただ、「GT3勢はもちろん、BRZも意外と直線が速い」(河野)ということで、決勝に向けてはどれだけダウンフォースを削ってくるかもひとつの焦点となりそうだ。
2番手、4番手、5番手にはブリヂストン勢がつけているが、「僕らは決勝のレースペースも考えてタイヤ選択していますので」と4番手につける埼玉トヨペットGB GR Supra GTの川合孝汰が語るように、2回のピットストップのうち1回をタイヤ無交換で乗り切るという戦略を視野に入れている陣営もあるようだ。
今回のレースはドライバー交代を伴う2回のピットインが義務付けられているものの、タイヤ交換は義務ではない。このため、比較的高気温となる第1、第2スティントをタイヤ無交換で走り、気温の下がる第3スティントに向けて、2回目のピットでのみタイヤを交換するという戦略も成り立つ可能性がある。ブリヂストン勢に限らず、ヨコハマ勢からもその可能性を示唆する声が聞かれた。
タイヤ交換が義務化されていないことで、戦略面でどんな幅が出てくるのか。タイヤメーカーによって、ウォームアップ性能やロングラン性能はどう変わるのか。予選日も富士スピードウェイ周辺は16時をすぎると急激に冷え込んできており、昼と夕方の寒暖差が比較的大きい。このあたりも、長丁場となる決勝の行方を左右するかもしれない。