【元横綱・稀勢の里コラム】力士にとって巡業は今も大事 体をつくり本場所へ
2025年5月7日(水)7時0分 スポーツニッポン
北陸や関東など25会場を回った4月の春巡業は盛況のうちに終了しました。私も4月17日の茨城県鉾田市巡業で「先発親方」を務めました。「先発親方」と言われてもピンとこない方もいらっしゃると思います。簡単に言えば巡業での準備、運営などのサポート役。各巡業に必ず1人は「先発親方」の担当者となって、早くから先乗りしてホテルや移動手段(バスなど)の手配、力士の当日の昼食の選定などを決めていきます。チケットの手売りなどもしますし、当日は責任者として運営に携わります。私も初めて単独での先発となりましたが、1週間前には現地に乗り込んで地元の関係者との打ち合わせなど準備に奔走しました。最初はチケットの売り上げが良くなかったのですが、最終的には大勢の人に集まってもらいました。
地方巡業は言うまでもなく相撲普及に欠かすことができない相撲協会の主要事業。今巡業では茨城県内で3カ所行われ、「相撲熱」を感じることができました。現在、茨城出身の関取は高安のみ。早く次の関取が誕生できることを願っています。私は8月に出身地、(同県)牛久市での巡業も担当します。現役時代は牛久巡業がなかっただけに、是が非でも大成功させたいと今から気合が入っています。
力士にとっても巡業は今も昔も大事なものです。私の思い出は17歳の時に初めて参加した時の苦い経験です。当時所属していた鳴戸部屋は稽古時間が長く、乗り込みの日も昼過ぎまで延々と稽古。何と東京駅からの出発時間に間に合わず、若の里関(現西岩親方)に新幹線代を出してもらったことを覚えています。
個人的には巡業は好きでしたね。ヤマ稽古もできたし、しっかりと体をつくって、その流れで本場所に入っていく「術(すべ)」を心得ていました。今思えば3月の春場所、7月の名古屋場所は成績が良くなかった。場所前の2月、6月に巡業がなかったことも影響しているのでしょう。
巡業での調整が得意だった私と違って、弟子の大の里は巡業からの入りがスムーズではありません。昨年秋も体調を崩し途中離脱。今場所も巡業から戻ってきたら体調不良で稽古を休むアクシデントに見舞われました。九州場所後に行われる12月の冬巡業は審判部員として同行する予定なので、大の里にも巡業での過ごし方、調整の仕方を直接指南しようかなとも思っています。 (元横綱・稀勢の里)