高卒当時から「自分の世界観」を持っていた山本由伸がもたらすイノベーション

2023年5月8日(月)16時52分 ココカラネクスト

進化を止めない山本。彼が起こすイノベーションは球界に大きなうねりをもたらしている(C)Getty Images

 今から5年前、オリックスのエースとしてチームを率いてきた金子千尋がこんなことを言っていたのを思い出した。

「大貴さん、なかなか面白い子が投手陣にいます。確か…まだ高卒2年目ですが、調整法や投球のメカニズムがユニークです。自分の世界観を持っている。はまれば大成すると思いますよ」

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 金子千尋は怪我の影響もあり、二軍で調整を行う中で若手投手らを見た際に彼の印象に残ったのが当時の山本由伸だった。

 投手としての調整方法が独特であり、投球メカニズムがユニークであるというキーワードが非常に気になり、一軍だけでなく二軍施設にも取材に行かせてもらった。そこで山本由伸はというと、外野の芝の上でプラスティック製だろうか槍のようなものを使ってピッチングフォームの調整を行っていた。これまでアメリカンフットボールのボールやバドミントンのラケットなどを投手練習に持ち込んでいるのは見たことがあったが槍投げの槍というのは私自身初めてで印象的だったことを覚えている。

「身体を横に使うというイメージはほとんどありません。前ですね。キャッチャーのミットに向かって自分の左足、左膝、左肩、左肘、左手の中指…これが全て投げる方向に一直線になることをイメージしています。ボールを持つ右腕も後ろにまっすぐ上げるイメージですかね。槍投げの投法をヒントにしました。あれだけの長さのあるものを遠くに強く投げられる原理を参考にしました」

 当時、話を聞かせてもらった時が20歳から21歳になる頃。”身体を縦に使う、まっすぐ前に、身体を直線的に使う“。若き山本由伸は独特の理論と世界観を持っていた。

「前足はテコの原理だと思っています。前足が地面に着いた時、伸びているからこそ、その反動で身体が前に押し出される感覚です。キャッチャー方向への推進力がつきます。まさにテコの原理です」

 これまでの投球理論であれば投手の前足は突っ張らない、突っ張てはいけないが普通だった。山本由伸はその逆を取り入れていた。逆に前足が突っ張ることによって、テコの原理でより強いパワーが生み出されると考え、投球フォームに取り入れていた。柔和な表情の中にも投球フォームへの強いこだわりと投球フォームに関するメカニズムへのあくなき探求心を感じた。

 そして、手にした最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振、沢村賞、MVPの称号。あの取材から数年後には彼はオリックスの大エースとなり、日本を代表する投手として東京五輪で金メダル、WBCで世界一に輝くこととなった。

 現在、新たに取り入れている「超クイック投法」。10代の時に生み出した、やり投げ投法からの進化系と言っていいだろう。ワインドアップの状態で前足の左足をほぼ上げることなく、そのままキャッチャー方向に踏み出す投球フォームは長い日本球界の歴史において誰もいなかったのではないだろうか。間違いなく日本を代表するピッチャーとなった投手ではいないと思われる。

 体重移動をよりスムーズに行い、そして投球方向への縦のラインをイメージし、キャッチャーのミットへ目掛けより強い推進力を生み出す…これを考えた結果、辿り着いた超クイック投法。オリックス厚沢投手コーチも「山本が考えて、分析して、辿り着いた投法」と話す。山本由伸は「感覚的な部分を上手く合わせていきたい」という言葉を何度も口にする今季。身体の動きと頭の中でのイメージが完璧に一致した時、新たな山本由伸と強烈なインパクトを残す結果を見せてくれるに違いない。

 プロ野球界の若手投手だけでなく、アマチュア球界でも山本由伸投法を取り入れている選手が増えてきた。今までになかったものを生み出す、そしてトレンドにする…オリックス山本由伸がもたらすイノベーションにこれからも注目したい。

[文:田中大貴]

田中 大貴 (たなか・だいき)

1980年4月28日、兵庫県小野市生まれ。小野高では2年から4番で打線の主軸を担った。巨人・高橋由伸監督にあこがれて慶應義塾大学へ。4年春に3本塁打でタイトルを獲得。フジテレビ入社後は主に報道・情報番組とスポーツを担当。「とくダネ!」「すぽると!」ではバンクーバー五輪、第2回WBC、北京五輪野球アジア予選、リオ五輪キャスターなど様々なスポーツイベントを現地からリポートした。

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