苦闘続きだった助っ人ケイはなぜNPBで良化? 「激情左腕」から防御率1.03の「無双左腕」になった軌跡【DeNA】

2025年5月9日(金)6時0分 ココカラネクスト

いまや強力DeNA先発投手陣の柱ともなっているケイ。(C)産経新聞社

昨年途中から“急激な良化”。左腕に一体何が?

 今シーズンのDeNAは、開幕投手を努めた東克樹を筆頭に、2年ぶりに復帰したトレバー・バウアーとアンドレ・ジャクソン、そしてアンソニー・ケイと先発の4本柱がしっかりと確立されている。

 その強力先発陣にあって、3勝、33奪三振、防御率1.03とトップの成績を収めているのが、ケイである。昨季も24試合に先発して136と2/3イニングを投げ、6勝(9敗)、防御率3.42と活躍。特にポストシーズンでは、2勝無敗、防御率0.55、16と1/3イニングで奪三振16と圧巻のピッチングを披露。実績は十分に残していた。

【動画】巨人打線を翻弄したDeNAケイの圧巻投球をチェック

 もっとも、DeNA入団当初のケイはアメリカでプレーしていた際に中継ぎのポジションを任されていた背景から、ブルペン強化で起用するプランもあった。だが、チーム事情と適性、本人の意向もあり先発に転向した。しかし、「先発としてのルーティンが確立されるまでは大変でした」と苦戦。実際、初登板からの6試合は1勝(4敗)、防御率4.24と数字を残せなかった。

 しかし、徐々にペースを掴んだ5月は4試合で防御率2.00、6月は3試合で同1.00を記録。ケイは先発としてV字回復していった。

 そして迎えた日本での2年目。「去年経験したことでしっかりとシーズンに入れる」と目論んだ通り、開幕からエンジン全開でマウンドを支配している。そこには経験だけではない“進化”もあった。

 大原慎司チーフ投手コーチは、制球を乱すときなど苛つくケイに寄り添っていた。アンガーマネジメントも取り入れた上で「発散させるのにグローブを噛ませたり、叫びたくなったらグローブの中で隠させたりしましたね」とメンタルの安定に手を尽くした。

 それが今年は違う。アンガーマネジメントは「していないですよ」という大原投手コーチは、「成績もいいので、過度のコミュニケーションは彼のストレスになる可能性もありますしね。すごくいい状態ですよ」と“大人”になった助っ人に安心感を覚える。

 無論、先発投手としての“良化”には技術面も寄与している。「キャンプで1回目のブルペンで、身体をうまく使うフォームになったなと一発目に思いましたね」とメカニカルの変化を見抜いた。

「昨年は身体を横に振るような動作が入っていたのですが、今年はシンプルにホームベース方向に向かっていけています。ゾーンで勝負しようとの取り組みとマッチしてきていますね」

 昨オフにケイは母国で新フォームの開発に取り組んだ。徹底してメカニックを改良したことで、無駄のない体重移動から球威あるボールを投げられるようになった。

 そして、ケイは「調子がいいときは物理的に攻略することは難しいのでは」と150キロに迫るカットボールにフォーカス。大原投手コーチは「チームには独自の指標があるんですけど、それがNPBの左腕でトップクラスなんですよ。すごいクオリティです」と舌を巻いた。

苦しみながら生まれた“軸”

 カッターを軸にする——。その境地にたどり着いたのは、昨季序盤、安定していなかったコントロール是正の取り組みに着手したタイミングだった。

 当時のケイについて「まずゾーン内に強いボールを投げ込んでいこうからスタートしました」と明かす小杉陽太一軍投手コーチは、ほぼゼロベースから着手した。

「ただコントロールがアバウトすぎると、いくら速くてもプロの打者は前に弾いてくる。また広島みたいなチームだと、質のいい打球ではなくてもコースヒットとかも増える。ではどうしたらいいかとなったときに、いいボールだったカットボールになりました」

 本人ともコミュニケーションを図りながら試行錯誤を重ねた。その中で“最適解”は見出された。

「スイーパーもすごくいい変化をするんですけれども、変化量が大きい分ボールになってしまいカウントアップできずに苦しくなってしまうケースがあったので、ストレートに近い球速帯で、少し変化するカットボールを軸にして投げた結果、いいボールになりましたね。球速も去年より上がっています。今年一番バットを折っているボールだと思いますよ」

 いまや右左関係なく効果的な武器に昇華した。小杉一軍投手コーチは「ゾーンの中に投げるのがコントロール。構えたところに投げるのがコマンド能力。とりあえずコントロールを良くしようって言っていましたが、行き先はコマンド能力の向上でした」と成功を掴んだ秘訣を説く。

「いまは甘いところに構えたターゲットから、しっかりと変化してくれる。ロケーションがすごくよくなりましたね」

 さらにケイは速球にも違いが生まれている。最速は昨年と変わらぬ158キロだが、「フォーシームのホップ成分も上がっていて質も良くなっているんです」とやや横手気味のアングルから伸び上がるストレートも良化。「昨年のチェンジアップは速すぎて、あまり縦の変化量がなかったんですね。なので30メートルぐらいの距離でチェンジアップを投げて軌道を確認して、握りも少しだけ変えたりしながら抜け感を得られるようにしました。それで
奥行きも使えるようになりましたね。そこもすごく大きいですよ」と落ち球も改良。結果的にスピードに加え、「緩急」という武器も加わった。

 幾多の課題を潰し、日本球界で進化を遂げたアンソニー・ケイ。規定投球回数をクリアし、最優秀防御率のタイトルをゲットする本人の目標も、叶えてしまう勢いを感じている。

[取材・文/萩原孝弘]

ココカラネクスト

「DeNA」をもっと詳しく

「DeNA」のニュース

「DeNA」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ