アヤックスの快進撃がついにストップ。記憶に残る試合後の美しい拍手

5月10日(金)6時37分 Sportiva

 最近、オランダの田舎町の理髪店に行ったら、先客の子どもたちがドニー・ファン・デ・ベークの髪型のようにサイドを刈り、トップにワックスをタップリ塗って左から横に分けていた。もしかすると、その髪型は近所の子どもたちの間で流行っているのかもしれない。


終了の笛が鳴った瞬間、アヤックスの選手たちはピッチに倒れこんだ

 今シーズン開幕時、ファン・デ・ベークはベンチスタートが多く、移籍を仄(ほの)めかしていた。だが、アヤックス育成出身者であり、ハードワークを厭(いと)わず、しかも賢く効率的なプレーができるので、彼がピッチに立つとファンは熱狂的に歌い出す。

 ファンの支えによって成長を遂げたMF——それがファン・デ・ベークかもしれない。チャンピオンズリーグ(CL)準決勝・第2戦のトッテナム・ホットスパー戦でも、アヤックスの2ゴールすべてにファン・デ・ベークのオフ・ザ・ボールの動きが利いていた。

 フレンキー・デ・ヨングはゲームメーカーとして秀逸だが、守備面での貢献も光るオールラウンダーだ。彼はコメントでもオランダ人を熱狂させる。デ・ヨングはCL決勝トーナメント1回戦のレアル・マドリート戦、自陣に近い位置でボールをロストし、失点につながりそうな大ピンチを招いた。

 試合後、インタビュアーが「あの位置であんな危険なプレーをしてはいけないんじゃないか?」と、セオリーを交えて質問した。するとデ・ヨングは、笑顔を崩さす「あの場面では加速した瞬間に(足が)つっちゃってね。次はもっとうまくやるよ」と言い切ったのだ。

 失敗した後の「次はもっとうまくやるよ」のひと言を、人々は驚き、感心し、笑い転げてポジティブに捉えた。

 試合直後にチームを代表してインタビューを受けるのは、19歳のDFマタイス・デ・リフトだ。チームが勝っても負けても、チームの顔として責任を負う役目を、1年間ずっと続けてきた。いずれこの男が、オランダ代表のキャプテンマークを巻くことになるだろう。

 今季のアヤックスが、国内でアンチからもウケているのは、近所にいるような普通の青年が、ピッチ上ではビッグクラブを相手に一歩も引かない一方で、試合後は日頃の社交性が透けて見えるような振る舞いでインタビューに応じている姿にある。若き集団がレアル・マドリードやユベントスといったメガクラブを相手に攻めきって勝ってしまったことに、オランダ人は快哉を叫んだのである。

 1970年代と1990年代に黄金時代を築いた当時のアヤックスなら、どんな相手でも50・50(フィフティ・フィフティ)の立場で試合に挑めただろう。しかし、ボスマン判決と欧州サッカーバブルの影響もあって、メガクラブとアヤックスの資金力の差は開くばかりだ。今回のCLでベスト16に残ったチームのうち、予算が1億ユーロ(約122億円)に満たなかったのは、アヤックスだけである。

 オランダ国内では飛び抜けた財政力を誇るアヤックスでも、オランダ人は「今や欧州ではサブトップクラスに届くかどうかのクラブ」と冷静に見ている。

 そんなアヤックスの快進撃が、5月8日のCL準決勝でストップした。その負けっぷりは、14年前のPSV、AZと似通ったものがあった。

 2005年5月4日に行なわれたCL準決勝・第2戦、ミランをホームに招いたPSVは、朴智星(パク・チソン)とフィリップ・コクーのゴールで2−0とし、2試合合計を2−2とした。しかし後半アディショナルタイム、マッシモ・アンブロジーニがミランに貴重なアウェーゴールをもたらし、これが事実上の決勝ゴールとなった。その直後にコクーが鮮やかなボレーシュートを決めて3−1としたが、ファイナルの舞台に立つには不十分なスコアだった。

 その翌日、今度はAZがスポルティング・リスボンをホームに迎えて、UEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)準決勝・第2戦を行なった。AZは90分を2−1で終え、決着を延長戦に持ち込んだ。そして、延長9分にキュー・ヤリンスが待望のゴールを決め、決勝戦まであともう少しのところまで手が届く。ところが延長30分、コーナーキックから手痛いアウェーゴールを決められてしまった。

 話は戻って2019年5月8日、アヤックスは35分にMFハキム・ジエフのゴールで2−0とリードした。CLという世界最高峰の大会のベスト4相手にも、アヤックスは攻撃力を武器に倒そうとしていたのだ。しかも第1戦のアウェーゲーム、アヤックスは1−0で先勝していた。2試合合計3−0というスコアに、ファンが浮かれたのも仕方がない。「もうアヤックスのCL決勝進出は堅いだろう」と私も思った。

 だが、私の頭の片隅には、どうしても14年前のPSV、AZの選手たちに贈られた美しい拍手と、残念な気持ちが残っていた。その引きずる気持ちをトラウマと呼ぶのだろう。今季のアヤックスがアンチ・クライマックスを迎える可能性も、私は同時に覚悟していた。

 結局、アヤックスは2−2で迎えた後半アディショナルタイムの5分、FWフェルナンド・ジョレンテを目めがけたロングボールの攻撃を防ぎきれず、MFデレ・アリ、FWルーカス・モウラとつながれて決勝ゴールを許してしまった。

 シーンと静まり返ったスタジアムに、時おり「こんちくしょう!」という叫び声が聞こえる。それでも、あと数プレー、アヤックスには残っていた。

 だが、反撃らしい反撃をすることなく、タイムアップの笛が鳴った。その瞬間、逡巡することなく、5万3000人のファンが大きな拍手をし始めた。それは一生忘れることがないだろうと思わせる、美しい拍手だった。

 打ちひしがれた表情を隠せないが、デ・リフトはしっかり、試合直後のインタビューに答えた。

「負けた後も、サポーターが熱狂的に叫んでくれた。鳥肌が立った。だけどその鳥肌は、決勝戦に進んで立てたかった」

 実は、トッテナムに敗れた5月8日は、2002年にフェイエノールトがUEFAカップを制した日と同じである。「UEFAカップの優勝は、いずれ忘れられてしまうもの」と言われていたが、今もなお、フェイエノールトの優勝は快挙としてオランダ人の記憶に残っている。

「もう二度と、オランダのクラブが欧州カップ戦(CLとEL)で優勝することはないだろう」と、長らくオランダでは言われている。それだけに、今季のアヤックスに夢を託したオランダ人は多かった。

 いずれまたアヤックスがCLで快進撃を見せ、ベスト4に残った暁(あかつき)には、ファン・デ・ベーク、ジエフ、FWドゥシャン・タディッチ、DFノゼア・マズラウィらの美しい思い出とともに、トッテナムに敗れたことによって生じたトラウマが蘇ってくるだろう。

 それは、けっして消えるものではない。かといって、いつまでもつらいものでもない。2005年に経験した2度のアンチ・クライマックスが、いつまでも私にとって美しい思い出であり続けるように……。

Sportiva

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