大坂なおみを苦しめた世界1位の魔力「ゴチャゴチャ考えてしまった」

5月11日(土)7時17分 Sportiva

 掴みかけていた勝利は、握りしめようとした瞬間に、サラサラと指の間からこぼれ落ちた。

 勝てばベスト4進出が決まる、マドリード・オープンのベリンダ・ベンチッチ(スイス)戦。第1セットを力強く奪い、第2セットはブレーク合戦の末に失うも、再び強烈なサーブを軸に試合を支配していた終盤——。第3セットでゲームカウント5−4とリードし、あとは自身のサービスゲームをキープすれば勝利、というところまで迫っていた。


大事な局面でミスを犯して空を仰ぎ見る大坂なおみ

 だが、このゲームでの彼女はサーブに苦しみ、ベンチッチのリターンの餌食になる。

 ブレークを許し追いつかれると、それまでライン際を捕らえていたフォアの強打は糸の切れた凧のようにコースを外れ、相手コートをえぐったバックはことごとくネットを叩いた。最後は、突如の崩壊を象徴するように、強打したボールがネットにかかる。試合終盤の3ゲームで大坂なおみが取ったのは、わずかに2ポイントだった。

 この結果だけを見れば、敗戦へと転がり落ちるターニングポイントは、5−4からのサービスゲームだと思われる。だが実際には、崩壊の引き金はその前のゲームにあったのだと、のちに大坂は明かした。

「(ゲームカウント)5−3でのバックハンドのミスが、心にひっかかってしまって……。相手が打った浅いボールを、私はバカみたいに全力でネットのど真ん中に打ちつけてしまった。あれを決めていれば、マッチポイントだったから」

 打った瞬間に悲鳴をあげたその1本を、彼女は試合後1時間以上経った会見時にも、まだ「悔いている」とうなだれる。

「いい時の私は、ミスをしてもその過ちから何かを学び、すぐ次へと気持ちを切り替えている。それなのに今日は、ミスがどれだけ試合に影響するかを考えすぎてしまった」

 その混乱状況を彼女は、「頭の中で、多くの『ドラマ』が起きていた」との言い回しで表現した。

 「なぜ、こんなにゴチャゴチャ考えすぎてしまったのかな……?」

 大坂が自分自身にも質したこの問いの答えは、彼女が会見時に明かした”本音”にある。

 この敗戦の最大のターニングポイントは前述した1本のミスにあるが、より根本的な負の因子は大会が始まる前、すでに彼女の心に差し込んでいた。

「この大会で準決勝以上に勝ち進めば、世界1位を確保できると知ったので、そのことばかりを考えすぎてしまって……」

 彼女がベスト4を過剰に意識した理由は、ここにあった。ひとつのミスに心をとらわれ、ゲーム間にベンチでタオルを頭から被り肩を震わせた理由も、ここにある。今大会中、大坂は世界1位の立場について問われる度に「気にしていない」と繰り返してきたが、それは当然ながら、真意ではない。

「1回戦の前に『1位にいる条件』について耳に入り、それからずっとランキングのことを気にしていた。会見では『ランキングは全然気にしてない』と言っていたけれど、本当はフレンチオープンを1位で迎えたくて仕方なかった。まだ、グランドスラムで第1シードの経験がなかったから……」

 勝利への渇望が、目の前のポイントへの意識を上回ってしまった時、彼女はプレーが乱れることを過去の経験から知っていた。

 それでも、自分を制することができないほどに、この日の彼女は「どうしても勝ちたい」と思いすぎてしまったという。世界1位の地位がかかっていたことに加え、同期のベンチッチには2カ月前にも敗れていたことも、自制心を失うほどに勝利を欲した理由だった。

 大坂は、世界1位としてここ数大会を過ごすなかで、「1位と2位とでは、大きな違いがあると感じた」と明言する。大会の顔としての務めや、女子テニス界のリーダーとして求められることも、そして周囲から向けられる視線やファンが自らに重ねる願いも、彼女は肌身で感得してきた。1位として敗れることの痛みも、いやというほど味わってきたのだろう。

 涙の跡を残しながらも、胸のつかえを吐き出すように本音を語る彼女の姿は、ここ数カ月間がどれほど濃密で、まだ表情にあどけなさを残す21歳をいかに苛(さいな)んできたかも物語る。

 ただそれらは、世界1位にならなければ、けっして見ることのなかった景色。そのなかで胸に刻んだ経験は、彼女がここから進むべき道を指し示す、心の羅針盤となるはずだ。

Sportiva

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