「いい意味で考えなくなった」満員の国立で今季2点目…川崎F撃破の立役者・鹿島FW田川亨介が示した進化
2025年5月12日(月)12時57分 サッカーキング
鹿島FW田川亨介 [写真]=J.LEAGUE
ご存じの通り、川崎Fは直近のAFCチャンピオンズリーグエリートのファイナリスト。5月3日(日本時間4日)のアル・アハリ・サウジ戦には敗れたが、クリスティアーノ・ロナウドを擁したアル・ナスルを破る健闘を見せており、チームとしても新たなスタートに燃えていた。しかも、相手は鬼木達監督を率いる鹿島。かつての指揮官を敵に回して初めての公式戦ということで、多くの選手が特別な思いを抱いてピッチに立ったはずだ。
因縁の相手を倒してこそ、ガッチリと首位を固められる。新国立競技場最多となる5万9574人の大観衆の前で、鹿島は“常勝軍団復活”を印象付けられるようなゲームをする必要があった。ところが、開始早々の7分にいきなりCKから失点。佐々木旭にニアに飛び込まれ、瞬く間に1点のリードを許してしまったのだ。その後も川崎Fのカウンターを立て続けに食らい、前半だけでCKを10本以上与える苦しい展開。それを何とか耐え忍び、前半終了間際に舩橋佑が同点弾をゲット。1−1で折り返すことに成功した。
「前半からサイドをチャッキー(チャヴリッチ)がピン止めしている中、ボランチ裏が結構空いてるなと感じていた。ディフェンスラインの背後に走り出してくれないかと正直思っていたけど、レオ(・セアラ)はそれ得意とする選手じゃない。そこで(田川)享介に『そこで前向けるし、相手のディデンスラインはあんまりスピードがないから、走ってくれたら出すから』と言っていました」と鈴木優磨はハーフタイムの“密談”を明かす。
そのプレーをイメージしつつ、背番号11は出番を待っていたに違いない。それが訪れたのが、後半17分。レオ・セアラに代わってピッチに立った快足FWが異彩を放ったのは、出場から3分後。右サイドでチャヴリッチ、知念慶、鈴木優磨とパスがつながった瞬間を見逃さず、丸山祐市と高井幸大の間を突破。GK山口瑠伊の位置を見極めて左足を一閃。値千金の決勝弾を叩き出したのである。「体が勝手に動いてくれました。優磨くんもいいボールを送ってくれて、狙い通りだった。ちょうどいい角度に来たので、落ち着いて決められました」と本人もしてやったりの一撃だったことを明かす。
5月3日のFC町田ゼルビア戦に続く、今季2点目は国立初ゴールだった。年代別代表やFC東京時代に大舞台を経験しているかと思いきや、意外にも初めて。「FC東京時代にルヴァンカップ決勝前日にケガをしてしまってベンチに入れなかったので、縁がなかったんです」という聖地での得点で、田川は点取り屋としての自信を深めた様子だ。
「心の余裕もできましたし、迷いもなくなってきている。(昨夏に)鹿島に来て、今季に入ってからも『うまくやろう』と考えすぎていたところがあったけど、それは自分の性に合っていなかった。考えることは大事ですけど、考えすぎると自分はうまくいかない。いい意味で考えなくなったというか、感覚的というか、体が自然に動くようになったのは大きいかなと思います」と背番号11は心境の変化を明かす。
確かに鬼木体制発足当初は田川の立ち位置が難しいところがあった。レオ・セアラと鈴木優磨という絶対的な得点源がいたため、開幕前は左サイドで使われることが多かった。ただ、サイドにはチャヴリッチ、松村優太や師岡柊生のような推進力あるタイプもいて、自分が何をすべきか定まらない印象も少なからずあった。その後、最前線でも出るようになったが、今度はボールを収めたり、起点となる役割にトライしなければいけない。もちろん田川はそういう仕事もできるが、あまり得意ではないのも確か。「自分のストロングで勝負したい」という思いが日に日に強くなっていったのだろう。鬼木監督も彼の個性を生かす使い方を意識するようになった印象で、お互いの思惑が合致したと言っていい。
「ここ最近は何も考えずに自分のスピードや裏抜けを出せている。それがゴールにつながっていると思います。オニさんのサッカーを今は理解できているという手応えもありますし、いい方向に行っているという気がしますね」と本人も充実感をのぞかせた。
もともと田川の爆発的なスピードと得点力は高く評価されていた。だからこそ、日本代表の森保一監督も2019年のE-1選手権に招集し、中国・香港戦に起用。彼もその期待に応えるように香港戦でゴールも奪っている。その後、サンタクララやハーツでの海外挑戦が必ずしも順調にいかなかったことで、代表から遠ざかっているが、それだけのポテンシャルはある選手。鬼木監督の下で復活途上にある今のタイミングで一気にゴールを量産していけば、7月のE-1選手権参戦もないとは言い切れないのだ。田川享介は鹿島の新得点源になれるのか否か。そこに注目しつつ、今後の動向を見極めたいものである。
取材・文=元川悦子