1イニング先発は吉と出るか。菊池雄星の起用法を田中将大も後押し

5月12日(日)7時17分 Sportiva

 堂々のニューヨーク・デビューだった。

 現地時間5月8日、ヤンキースタジアムでのニューヨーク・ヤンキース戦で先発したシアトル・マリナーズの左腕、菊池雄星の投球はあまりにも見事だった。故障者が続出しながら、この日まで21勝14敗の好成績を残していたヤンキースの打線を、6回ワンアウトまで無安打に封じる快投。結局はメジャー自己最長となる7回2/3を3安打1失点に抑え、2勝目をマークした。

「ここを中心として野球の歴史が作られていったという雰囲気を感じました。そこでいい勝ち方ができましたし、ヤンキースに投げるのをすごく楽しみにしていたので、本当にいい試合になったと思います」


8日のヤンキース戦で今季2勝目を挙げた菊池

 高校時代から憧れていたというニューヨークのマウンドだが、菊池本人の言葉からも伝わってくる通り、必要以上の気負いや力みは感じられなかった。初回の先頭打者こそ四球で歩かせたものの、その後は16打者連続で凡退。スライダー、カーブを効果的に使い、伝統あるチームの打者たちを手玉にとっていった。

 試合後は、ヤンキースのクラブハウスもほとんど”あきらめムード”だった。アーロン・ブーン監督が「今夜は彼に打ち負かされてしまった」と完敗を認めれば、ベテランのキャメロン・メイビンも「時に脱帽し、相手投手をほめなければいけないときがある」とあっさり。ゲーム途中に降って湧いた”松ヤニ使用疑惑”に一部のファンは騒いだが、滑り止めの使用はメジャーではよくあることで、当のヤンキース選手たちは気にもしていなかった。

 必然的に注目度も高くなるヤンキース戦で、いきなりこれだけの投球で魅せたことの意味は大きい。アメリカ人にも発音しやすい”ユーセイ”のブロードウェイ初登場は、間違いなく大成功だったと言っていいだろう。

 この日の菊池のピッチングに感心したのは、ニューヨークのスポーツファン、ヤンキースの選手たちだけではない。メジャー某チームのスカウトに感想を尋ねても、背番号18の力量は事前のレポート以上だったという。

「真っ直ぐには聞いていた以上に力があり、事前の想定を上回っていた。この威力を今後も保てれば面白くなるね。カーブは打者の肩口から落ちてくる感じで、スライダーも鋭い。ボールを上手に隠す投球フォームも武器になる。今後も(ヤンキース戦のように)速球に力があればという条件つきだが、先発ローテのトップ(1、2番手)が任せられる投手かもしれない」

 試合後に菊池本人が語ったところによると、この日の真っ直ぐには満足していなかったという。実際に、前回の登板(3日のクリーブランド・インディアンス戦)では速球の最速が97マイル(約157km)だったのに対し、ヤンキース戦での最速は94マイル(約151km)。それでもメジャーのスカウトを感嘆させたのだから、余計に楽しみだ。

 菊池が1年目から「悪くない成績を残す」と考えていた関係者は少なくなかった。「左中間が深い」「内野の天然芝が長めで打球が失速しやすい」など、打者には不利なT−モバイル・パーク(旧セーフコ・フィールド)を本拠地としていることに加えて、希少価値のあるサウスポー。持ち球には一部の関係者の予想を上回る力があり、層が厚いとは言えないア・リーグ西地区に所属していることからも、10から15の勝ち星を挙げることは可能かもしれない。

 ひとつ気になるのは、スカウトが「速球が威力を保てれば」と念押ししていたことだ。つまり”耐久力”に関してはまだ不透明だということ。メジャー1年目で、シーズンを乗り切れるかが証明されてないのだから当然ではある。

 中4日のローテーションに慣れていない日本人投手には、常に耐久力への懸念が呈される。短期間ならメジャーで活躍できる能力を持っていても、それを維持、持続できないなら価値が目減りするのは言うまでもない。

 ただ、日本人ピッチャーの扱いを熟知したマリナーズは、この点にもあらかじめ配慮している。盛んに喧伝されている通り、菊池のMLBルーキーシーズンは、1カ月に1度のペースで”1イニング限定の先発”が組み込まれるという。4月26日のレンジャーズ戦では、1回を無安打2奪三振で無失点に抑え、予定通りに降板。今後もこの斬新なプランは継続されるようだ。

 MLBの先輩であるヤンキースの田中将大も、マリナーズとのシリーズ中、1イニング先発に対して次のように理解を示していた。

「疲れは溜まってくるだろうし、1年目でいろいろと初めてのことがあってストレスもかかる。その中でひと月に1回、1イニングでマウンドを降りて次の準備をしていく。それは広い目で見た時に、少なからず助けになるんじゃないかなと思います。イニング数も自然と抑えられるし、体の休息にもなる。いいアイディアなのかなと思いました。毎年するわけじゃないじゃないですし、1年目だからということで、いいんじゃないかな」

「あくまで個人的な感想」と断った上での言葉だが、メジャーでも6年目を迎え、ベテランの域に達した田中の言葉には説得力がある。田中も1年目の前半に大活躍したが、シーズン中にケガを負った経験がある。そんなリスクを少しでも減らすための、マリナーズのプランは興味深い。

 再建中のチームだからこそ実践できることではあるのだろう。マリナーズ、菊池ともに目先の勝ち星が減ることを覚悟した上で、チームはまだ27歳のサウスポーをじっくりとエース級に育てる決断を下した。

 このプランのおかげで、スカウトが”カギ”と指摘した速球の球威を、菊池が1年を通じて保つことも可能になるかもしれない。また、メジャーで長く活躍することにもつながるのか。真の答えが出るのはしばらく先になるが、マリナーズと菊池の”勇敢な試み”が好スタートを切ったことは間違いなさそうだ。

Sportiva

「先発」をもっと詳しく

「先発」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ