衝撃ダウンから這い上がった井上尚弥が揺さぶった勝負師の感情 実戦遠のくドネアが漏らした“宿敵への本音”

2025年5月13日(火)7時0分 ココカラネクスト

井上と2度の激闘を繰り広げたからこそ、ドネアは特別な感情を持って、カルデナス戦を眺めていた。(C)Getty Images

いわゆる“メディア側”に立っていたドネア

 刺激的であり、ドラマチックな防衛戦は、大衆を熱狂させた。現地時間5月4日に米ネバダ州ラスベガスで実現したボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)のそれである。

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 まさかの出だしからの貫禄の防衛だった。2回に挑戦者のラモン・カルデナス(米国)が放ったカウンターの左フックを被弾した井上はキャンバスに沈んだ。4年ぶりに米国に舞い戻った怪物の予期せぬダウンは場内を騒然とさせ、SNSで話題沸騰となった。実際、この興行を主催した米大手『Top Rank』社がXで発信したダウンシーンを載せた投稿は、116万回以上の再生をされた。

 文字通り衝撃的だったダウン。しかし、井上はそこから王者の矜持を見せつける。カルデナスとの距離感を見事に修正した4回以降は、立ちはだかっていた難敵を圧倒。仕留めに掛かった7回にダウンを奪うと、8回には猛ラッシュで畳みかけ、試合を終わらせた。本人が「証明できたかな」と微笑みながら語ったリカバリーは、試合を劇的なものへと昇華させた。

 まるで漫画の世界で描かれるような復活劇。世界を舞台に「主人公」ぶりを発揮した井上には、多くのボクシング・マニアや識者が刺激を受けたわけだが、それはかつての“宿敵”も同様だった。元世界5階級制覇王者のノニト・ドネア(フィリピン)は、目の当たりにしたライバルの防衛に溢れ出る思いを抑えつけられないほどの高揚感を抱いていた。

 米スポーツ専門局『ESPN』のコメンタリーとして、カルデナス戦を追っていたベテラン戦士は、いわゆる“メディア側”に立っていた。そんな普段とは異なる視点から眺めた井上の試合は、何よりも輝いていた。米ボクシング専門サイト『Boxing Scene』のインタビューでドネアは、率直な心境を打ち明けている。

「試合を見て、またリングに上がりたいという気持ちが高まったのは間違いない。そしてインタビューの場で、イノウエの隣に座った時に『あぁ自分もそこに行きたいな』という気持ちにもなった」

 当然ながら、もう全盛期の身体ではない。以前よりもパンチのキレやスピードに衰えは生じている。しかし、井上の戦いを見て勝負師の感情を揺さぶられたドネアは告白する。「イノウエとも戦えるなら、もちろん戦いたい」と。

 無論、23年7月のアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)戦以降、実戦から遠のくドネアだけに、井上と3度目の正直が実現する見込みはない。それは百戦錬磨の本人が何もよりも理解している。それでも「レフェリーが止めない限りは何度でも立ち上がる。それが私のスタイルだ」と語る42歳は、今取り組んでいるバンタム級での挑戦に意欲を示している。

「バンタム級なら誰とでも戦うつもりだ。ここが私の居場所だと思っている。とにかくベルトを獲るっていう、そういう戦いをもう一度やりたいんだ。私自身、まだ十分に戦えると思っている。だから、できる限り長くいるつもりだ。

 私がチャンピオンを倒したり、競い合ったりできる限り、私はそこにいる。最終的には『なあ、お前にはもう力がないぞ』って言われるかもしれないし、個人的に『疲れた』と思う時が来るかもしれない。でも、今はそういう気持ちはない。今はそこにいられることに夢中になっているし、ワクワクしている」

 ドネアをふたたびリングへと駆り立てた井上。彼がラスベガスで繰り広げた戦いは、さまざまな人に影響を与える価値ある一戦だった。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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