魚雷バットでスイング時間短縮 ボール見極める時間増えた…ロッテ、中日でプロ経験の本紙記者が体験
2025年5月13日(火)5時10分 スポーツ報知
魚雷バットを手にする加藤記者
スポーツ報知では、ネクストベース社の全面協力の下、今季突如現れて日米球界に新風を吹き込んだ魚雷(トルピード)バットを徹底分析した。千葉・市川の同社「アスリートラボ」で実際にバットを振ってデータを計測したのは、ロッテ、中日で昨季まで計12年間プレーした加藤翔平記者(34)。現役時代の愛用バットと比較し、魚雷の感触、さらにどんな打者に最適なのかを探った。
引退後、初めて硬式球を打つことになった加藤記者は体の動きを正確に捉えるために上半身は裸になって、マーカーを装着。さらに下半身とバットにも同様のマーカーが付けられた。魚雷バットを使うとどうなるのか—。現役時代愛用したバットとの両方を使い、最新機器で動きを探知し、動作解析を行った。
現役時代、スイッチヒッターだった加藤記者は異なるバットごとに左右、球を置いてのティー打撃で5球ずつを試打。スイング速度の平均値に大きな差はなかったが、ネクストベース社が注目したのはスイング開始からインパクトまでを示す「スイング時間」の短縮。右では大きな差が出なかったが、左では平均で0・019秒短縮された。スイングが、トップスピードに速く達していることを意味しており、打者が球を見極める時間が増えることにつながる。投手がリリースしてから捕手に届くまでは0・4〜0・5秒ほど。わずかな時間だが余裕が生まれる。
計測や分析を担当した同社アナリストのニローシャン氏は要因について「バットの振りやすさはあるかもしれない。体が回転しやすくなっている。バットの重心が体に近づくことは、フィギュアスケートの選手がスピンやジャンプで手を体に近づけて速く回転するのと同じ。重心が近くなることで、実際の重量以上に軽く感じられるのかもしれない」と説明した。
そもそも魚雷バットの形状は、先端に近かった芯よりも手元側にボールが当たる選手がいたことに目をつけたのが発端。芯に当たりにくいのであれば、スイングではなく、芯の位置を変えてしまえという逆転の発想で生まれた。もちろんスイング速度が速く、時間が短いに越したことはないが、同氏はあくまで「バットのどこにボールが当たるかが大事」と強調した。
バット選びの常識を覆すきっかけになる可能性はありそうだ。今は感覚を頼りに長さ、重さ、グリップなどを決める選手が多い。だが、同社の中尾信一社長は「振ってみて『感触がいい』と選んでいた時代から、データを使って『打てるバット』を選ぶ時代になる」と予測。すでにメジャー球団では各選手に適切な情報を伝え、それを元に自分に合ったバットをオーダーするシステムが構築されている球団もあるという。
加えて中尾社長は「ピッチャーごとにバットを替える選手が出てくるかもしれない」とも予想する。スイング時間が短縮され、速度も速くなるのなら、160キロを出すような速球派の投手と対戦する時だけ魚雷を使うのも一つの手段だろう。向き不向きも当然ながらあり、飛躍的に打力が向上するような“魔法の道具”ではないが、現状のバットでは手元に当たり、詰まらされることが多い打者には新兵器になり得るだろう。(MLB担当・安藤 宏太)