万博の陰に隠れた”国際大会”、吉村・大阪府知事が驚きのプランを提案「警備上の問題はあるが…」
2025年5月13日(火)11時0分 読売新聞
「Xゲームズ」の出場選手発表でパフォーマンスを披露する自転車BMX男子の中村輪夢選手
アクションスポーツの国際大会「Xゲームズ大阪大会(読売新聞社後援)」が6月20〜22日(公式練習を含む)、大阪市の京セラドームで開かれる。昨年までの3年間、千葉市で開かれていたが、初めて大阪で開催される。今大会の会長でもあり、大阪に誘致した吉村洋文知事にその狙いを聞いた。ノリのいい吉村知事はさらに、自身が大会の盛り上げに一役買うプランも思いついた。(デジタル編集部 古和康行)
知事が見せた並々ならぬ万博熱
インタビューは、張り詰めた雰囲気で始まった。
大阪・関西万博で世界中から注目を集めている大阪。東京から大阪府庁を訪ねると、知事応接室には多くの関連部署の職員が顔をそろえていた。全員が資料を抱え、いつでも質問に答えられるように構えているのだ。
そんな中、知事が現れる。「万博は行かれましたか?」と問いかけられる。「いや、この取材だけのために……」と答えると、「ぜひ、一度行ってみてください」。並々ならぬ万博への熱を感じさせる。
スケートボードや自転車BMXなどのアクションスポーツ。その世界最高峰の国際大会「Xゲームズ」が来月、大阪市で開かれる。もちろん、府の念頭にあるのは万博とのシナジーだ。吉村知事も「国内外から多くの人が訪れるこの時期に、大会を誘致したいと思っていた」と語り、「大阪はエンターテインメントの街。スポーツでありながら、エンタメ性の高いXゲームズと万博の相乗効果が期待できる。万博では、空飛ぶ車のように“移動”も話題を呼んでいる。スケボーやBMXなども移動という点では共通している」と力説した。Xゲームズの会場で万博のPR映像を流し、万博でもXゲームズの告知イベントを開く考えだ。
注目するのは意外な選手
今大会は、東京五輪スケートボード女子ストリートの金メダリスト、西矢
ただ、注目選手に挙げたのは意外な人物だった。スケートボード男子バートに出場する芝田モトだ。
「選手発表イベントの時に話したんですけど、面白い人で。阿倍野(大阪市阿倍野区)でスケートショップをされているとか。いい男でした」
スノーボードのハーフパイプのようにUの字のランプを滑る「バート」。ここを主戦場に活躍する芝田は、Xゲームズで計9個のメダルを獲得しているトップ級の選手だ。バイクが趣味で、服装や語り口もかなりラフ。お堅いイメージの政治家とは正反対にも思えるが、「元々、自分もいいかげんなところはある。シンパシーを感じた」そうだ。それに、「Xゲームズのイベントでは自分のとこで作ったTシャツ着て……。ちゃっかりしていますね」と
スケボーパークの整備進む大阪、知事も…
スケートボードが初めて五輪で開催された東京大会。女子ストリートで金メダルを取った西矢が大阪に与えたインパクトは大きかった。府内でもスケートボードパークが増えているといい、東京五輪の時期には20か所程度だったスケートボードパークは、35か所に増えたという。吉村知事は「大阪の公園を民間活用する取り組みをしているが、スケートボードパークの需要は大きい」と明かす。
スケートボードは騒音や危険な滑走などが問題視されることも多いが、「小さな子どもや歩行者がいる場所で滑ると危険。一方で、無料で使える施設も含めて、官民でパークを作ってきたので、そういったところで楽しんでほしい」と語った。
ちなみに、吉村知事はXゲームズで行われるようなアクションスポーツに親しんだ経験はあるのだろうか。知事は「もちろん」と即答。「子どもの時はスケートボードがはやっていましたからね。一応、乗れるんですよ」とのこと。でも、当時はパークなどなく「今やったら怒られるけど、路上で」滑っていたという。
腕前は「チクタク(ボードを左右に振って前進する基礎技)ができる程度」という一方で、「坂も上れるくらいのテクニックはある」と胸を張る。だが、中学生になって部活動や勉強が忙しくなると自然と遠のいたという。
それだけに東京五輪で見たスポーツとしてのスケートボードの“進化”には驚いた。「遊びだったスケボーが、いまはもうスポーツとしての地位を確固たるものにしている」と感じ、「自分も乗ったことがあるから分かるが、ジャンプしたり、障害物にスピードとテクニックで進んでいったりするのが本当にすごいと感じた」と語る。
吉村知事が明かしたプラン
取材場所となった知事応接室。知事の背後に設置されたパネルには大阪万博の公式キャラクター・ミャクミャクが写っていた。思えば、新大阪駅に着いたときから、街は万博一色で、この街で世界最高峰の選手たちが集まる大会が開かれるということが、どれだけの人に伝わっているんだろう——。そんな疑問も持った。
事前に府庁に知らせていた質問をし終えた後、記者が「大会のことがあまり知られていない気がしますが、知事の発信力を生かしてどのようなPRを考えていますか?」と投げかけると「現場に行って、いろいろ体験したことを発信するっていうことですかね」という。
記者が「Xゲームズでミャクミャクがスケボー滑ったら面白いですけどね……」と漏らすと、吉村知事は「なるほど! 忘れていた!ミャクミャクが登場できないか考えてみます」と返してきた。同席していた職員は「来るのは来ます。けどスケボー乗るのはちょっと……」と頭を抱える。
吉村知事は「ミャクミャクの気持ち次第やな」「それやったらコスプレでいくか」「ミャクミャクの足でスケボーはさすがに無理やなぁ……」と続ける。Xフォロワー約130万人の発信力を持つ、吉村知事からはどんどんアイデアが生まれた。「ミャクミャクと僕がミャクミャクのかぶり物を選手にプレゼントして、それをつけて(選手に)滑ってもらったらどうやろ」とも。
その瞬間、「自分で体験したことを発信する」と知事が言っていたことを記者は思い出し、思わず口をついた。「知事がスケボーで選手の後を追いかけてみては?」
吉村知事は「話、聞いていました? 小学生以来、やってないですけど……」と言うが、「知事が一生懸命滑っているところを見たら、全国のスケーター沸きますよ」と食い下がってみる。
「でも、今のスケボー小さない?」と知事。「サイズはいくつかありますよ」と記者。すると、吉村知事も「俺、乗れると思うねんけどな、ほんまに。やってたから」と自信をのぞかせ、「行ける気はします。チクタクで10メートルくらい」とやる気を見せた。
最後に、吉村知事は最終日に会場を訪れ、表彰式に参加予定だということを府庁職員に確認。「よし、じゃあ『選手へのミャクミャクかぶり物プレゼント』はやる。なんなら表彰式にスケボー乗って出ましょうか」と豪胆に笑った。直後に「警備の問題もあるし、無理やったら無理やけど」と“逃げ道”を作ってはいたが、「表彰式でやるかはさておき、スケボーに乗ってみるっていうのも考えます。いける気はするけどな」と言い放った。
Xゲームズでの多くの選手のこだわりは、順位だけではない。技で、ファッションで、パフォーマンスで観客を楽しませようとする。そして、それが「祭り」ともいわれるゆえんだ。
小学生の時以来、35年以上も乗っていないスケボーに挑戦しようという吉村知事。「自分が何かをすることでアクションスポーツを色んな人に知ってもらったら面白いじゃないですか」
張り詰めた「知事応接室」の空気は、いつのまにかすっかり和らいでいた。面白いか、面白くないか——。そんなシンプルな大阪イズムは、Xゲームズというアクションスポーツの祭典にうってつけのように思えた。