残酷な富士500km。GT-Rの濁ったエンジン音、au GRスープラのトラブル背景etc.【トムス東條のB型マインド/第2回】

2021年5月15日(土)16時27分 AUTOSPORT web

 スーパーGTのGT500クラスを始め、国内の各カテゴリーを最前線で戦うトムス。そのチーフエンジニアである東條力氏が、スーパーGTのレース後にコラムを寄稿してくださることになりました。


 開幕戦・岡山を取り上げた連載初回に続いて、第2回となる今回も、まずはスーパーGT第2戦『たかのこのホテル FUJI GT 500km RACE』の裏側を、東條エンジニアの視点から分析・解説。さらには、当連載のタイトルにもなっている、エンジニアに必要な資質として東條氏が挙げる「血液型はB型であること」について、詳細に(?)解説してもらいました。


 * * * * * *


 オートスポーツweb読者みなさん、こんにちは。トムスレーシングのチーフエンジニア・東條です。


 5月4日に開催されたスーパーGT富士500kmは、ドラマチックなレース展開でしたね。まずは17号車Astemo NSX-GTの塚越選手とバゲット選手、チームの皆さん、優勝おめでとうございます。レースファンの皆様、応援ありがとうございました。


 我がトムスの36号車au TOM’S GR Supraについては、優勝を目前に駆動系トラブルからストップ。一方、先頭の8号車ARTA NSX-GTはペナルティを受けて戦線離脱。23号車MOTUL AUTECH GT-Rや38号車ZENT CERUMO GR Supraの早期リタイアもありました。速さ、強さ、強運……どれも欠かせない要素で、レースとは残酷です。


■FCYの運用にはさらなる周知徹底が必要


 予選は第1戦岡山と同じく、6台のGRスープラがQ2で競うことになりました。富士でもトヨタエンジンは強かったです。そこへ割って入ってきたのが、8号車NSXと23号車GT-Rでした。


 PPは19号車WedsSport ADVAN GR Supraの宮田選手、2番手8号車の福住選手は3/1000秒差。次いで38号車立川選手と続き、サクセスウエイト30kgの36号車関口選手が渾身のアタックで4番手を確保。


 以下、37号車KeePer TOM’S GR Supra阪口選手、14号車ENEOS X PRIME GR Supra大嶋選手、23号車ロニー選手、39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraヘイキ選手と続きました。私は予選をサインガードで見ていたのですが、23号車のエンジン音がやや濁っていたので気になっておりました。


 レースは36号車坪井選手が勢いよく飛び出して8号車を射程に収め、あっという間に2番手へ。その直後23号車が白煙を上げてストップ、セーフティカー(SC)に。白煙の量からターボトラブルと推察します。


 36号車はSC明けのリスタートで8号車をパスし、序盤にトップへ浮上。一方37号車平川選手は、ステアリングの振動とグリップ不足に苦しみながらも14号車を追走する形。ピットウインドウに差し掛かったあたりでフルコースイエロー(FCY)となり、タイミング良くピット作業を行っていた、17号車と1号車STANLEY NSX-GTがジャンプアップ。ペース的には我らが優位なので、すぐに追いつく確信はありました。


 第2スティントは関口選手と阪口選手。36号車はトラフィックの巡り合わせが悪かったり、37号車はグリップ不足を感じたりと、スティント前半をやや離され気味に推移するものの、ふたりとも中盤から息を吹き返し、徐々に前との差を詰めてトップと戦える位置へ戻ってきました。


 第3スティントでは、36号車坪井選手が2番手へと浮上し、8号車を捉えます。終盤に差し掛かったころで再度のFCYとなり、再スタートを切った矢先、プロペラシャフトが折損し、コースサイドへ停止させました。


 その後、37号車平川選手は快調に突き進み1号車山本選手をパス、終盤14号車山下選手に激しくチャージしたのですが差し切れず。連続3位の表彰台。17号車が僅差で逃げ切り優勝、14号車が2位表彰台を確保。壮絶なレースとなりました。

2021スーパーGT第2戦富士 au TOM’S GR Supra(関口雄飛/坪井翔)


・FCYについて
 岡山のSC導入時のように、ピットエリアの危険な状態は回避されました。ピットウインドウと重なるタイミングでは、SC同様にラッキーもあるということも証明されました。また、レースの連続性は維持されていました。


 一方、これまで幾度となくFCY訓練を積み重ねてきたにもかかわらず、FCY制限開始と減速開始のタイミングを取り違えている事例が多くみられ、追突誘発の可能性や不公平感の訴えが多くありました。ペナルティの発出もなかったことですし、運用の周知徹底が必要です。


・36号車au TOM’S GR Supraのトラブルについて
 カーボン製のプロペラシャフトが折損しました。GT500はFRです。フロントにエンジンがマウントされていて、その動力をリヤタイヤへと伝えます。ちなみに私たちが一般道でドライブする市販FR車では、以下のような伝達経路です。


エンジン⇒クラッチ⇒トランスミッション⇒プロペラシャフト⇒デファレンシャル⇒ドライブシャフト⇒アクスルハブ⇒タイヤ⇒地面


 エンジンの常用回転数は低く、トランスミッションで一次減速が入るため、5速や6速のように長いギア以外では、プロペラシャフトはエンジンよりも低い回転数での運用となります。


 しかし、GT500では重量配分と軽量化の観点から、トランスミッションはトランクルームへレイアウト。その経路としては下記の通りです。


エンジン⇒プロペラシャフト⇒クラッチ⇒トランスミッション⇒以下同じ


 プロペラシャフトは長くなり、エンジンと同速回転することになりました。カーボンコンポジットへと変更され、軽量化と慣性力の低減を実現する反面、エンジン振動の影響を強く受けることになります。共振域に重なる回転数によっては破壊につながるリスクも高く、各チームには慎重な運用が求められます。


 今回はトムスとして、この運用面を完全に管理することができなかったために、レース中の共振のダメージが蓄積され、リスタート時の急激なトルク上昇によって破壊に至りました(エンジン側に問題があったわけではありません)。富士での36号車は間違いなく速かったけれど、このトラブル以外にもいくつかの軽微な問題があり、エンジニアリング領域の強さとしては足りていませんでした。


■路温推移の『読み』と、ソフト側に寄せたタイヤ選択


 そして、今回もタイヤ戦略が重要な要素となりました。5月の富士ですから気温差は大きく、強い日差しは路面温度に大きな影響を与えます。また、雨が絡む場面では極低温となる可能性が高まります。


 トムスでは曇天15度〜快晴42度までを想定。3月末の公式テストでは25度でのロングラン実績があり、岡山レース時の35度と両サーキットの路面グリップを考慮。スタート時刻が14時30分と遅く、ピークをやや下回ってMAX40度。フィニッシュが17時30分前後になるため、第3スティントでは晴れていても25度付近と想定し、コンパウンドは ミディアム(M)×3セット、ソフト(S)×4セット(※500kmレースなので通常+1セット)の2種・7セットに絞りました。


 我々は常々、タイヤを長持ちさせるよう心がけてセットアップをしています。それ故、持ち込みタイヤをS側に寄せても、十分戦えると考えました。


 結果的には天候に恵まれ、予選の29度、スタートの36度、第2スティントの33度をMで快調に乗り切り、チェッカーフラッグの23度をSで締めることができただけに、36号車のストップは本当に残念です。トムスはGRスープラ勢の中でもS側へ寄せましたが、温度レンジは想定通りとなりました。ちなみにソフトとかハードとか便宜上呼んでいるだけで、我らのミディアムはNSX勢のハードにあたるのかもしれません。注意してくださいね。


■「エンジニアはB型じゃないと!」理論・解説


2021スーパーGT第2戦富士 KeePer TOM’S GR Supra(平川亮/阪口晴南)

 今回もレースの分析が長くなってしまいました……。話変わって今回の本題ですが、嫌いな血液型No.1といえばB型ですよね。


 世界的な人口比では16%と少数派。自己中、マイペース、協調性無し、落ち着かない、変わり者、空気読まない、断われない、熱しやすい、すぐ冷める……ネガティブの見本市のようですね。


 ここまで悪評高いと、東條さんB型なのですね? うふふ と囁かれたところで、「べつに (エリカ様風)」としか答えられません。しかし、レースエンジニアとなると、悪くもないと考えます。


 B型は興味の対象が広いです。突然95%の意識を注ぐ事ができて、それがストライクだった時の集中力は抜群です。いつでも何にでも興味のアンテナを張り巡らせているため、落ち着きがない風に思われてしまいがちなのかもしれません。逆に興味がないことや、すでに結果が分かってしまったことは、ヲイ! と云われるほど華麗にスルーできるのです。


 さて、レースエンジニアとは、何をする仕事なのでしょうか。


 もちろんレース全般をコントロールするのが役割なわけですが、そのためには


 【決めること】


 これに尽きます。


 セッティングやタイヤ、ピットタイミング、給油量等、即断を迫られるのでボーっとする暇はありません。レースシーンではあらゆる事柄が常に変化するため、変わり身の早さは特に大切です。失敗も数多くあるでしょう。その度に周囲の顔色を伺っていては、精神衛生上良いことは何もありません。


 レースエンジニアには、次の要素が大切ではないかと考えます。


1)決められる
2)追求できる
3)固執しない
4)ぼーっとしない
5)気にしない


ね、まんまB型でしょ?


続く……

AUTOSPORT web

「GT-R」をもっと詳しく

「GT-R」のニュース

「GT-R」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ