アジア制覇の主将・藤田譲瑠チマが迎える「パリ五輪」だけじゃない正念場の1年 「生きる道」を確立できるか

2024年5月19日(日)17時30分 ココカラネクスト

チームをコントロールするパスワークは見事だが、欧州で評価を高めるにはさらなるアピールが必要だ(C)Getty Images

 先月行われたU−23アジアカップで優勝を果たし、パリ五輪の出場を決めたU−23日本代表。本大会に向けてはオーバーエイジやU−23欧州組を加え、招集リストそのものが変わるため、殊勲のチームは一度リセットされる運命にある。

 とはいえ、予選で活躍した選手が最初の候補であるのは間違いない。特に大会MVPに選ばれたキャプテンの藤田譲瑠チマは、五輪本大会でもメンバー入りが期待される筆頭候補の一人だろう。

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 藤田の魅力は複数あるが、まずは正確な技術だ。彼のインサイドキックのパスが、味方の勢いを殺す方向、つまり逆足に出てしまう場面を見ることは少ない。軌道も氷の上を滑るかのように美しいグラウンダーで味方の足下へ届く。ワンタッチも正確だ。U−23アジアカップ準決勝のイラク戦、前半42分に荒木遼太郎が決めた日本の2点目は、大畑歩夢からのスピードパスを、荒木の3人目の動きを見定めた藤田から、完璧なワンタッチパスが入った。こうしたシンプルな技術で藤田の上を行く選手は、なかなかいない。

 また、藤田はキックの予備動作が小さく、蹴り足の落下エネルギーを使ってコンパクトに蹴るので、タイミングを逃さないのも大きな特徴だ。

 その恩恵を最も受けたのが、細谷真大だろう。U−23アジアカップ準決勝のイラク戦の前半28分の場面では、細谷のプルアウェイを見定めた藤田の絶妙な浮き球パスが、ストライカーの奮起をアシストした。通常、使ってもらえないことも多い細谷の動き出しだが、藤田はタイミングを縮めたとっさの判断でも、イチ、ニ、ポン!で正確にパスを出せる選手であり、細谷とは理想の関係性が見えた。

 このアシスト場面に限らず、藤田はFWがサッと顔を出した箇所へ、瞬間的な反応で縦パスを通すことができる。他にも動き出しに特徴のある選手、たとえば上田綺世や伊東純也らとも面白い連係ができるのではないか。

 こうしたプレーテンポの早さ、豊富なタイミングとも深い関わりがあるが、藤田のもう一つの魅力はアジリティ(敏捷性)だ。高重心で軸の移動がスムーズであり、バランスの回復が異常なほど早い。

 これはパスだけでなく、ボール奪取にも生きている。相手の懐へ潜り込み、ボールを奪い切る能力が高いのは、藤田の大きな持ち味だ。上背が無くても、スピードが普通でも、方向転換と加減速をベースとしたアジリティの高さが、藤田を攻守にバランスの良いMFとして成立させている。

 これだけの魅力がある以上、本大会でも藤田のスタメンは間違いない、と言いたいところだが、所属するシント=トロイデンでは準主力の扱いに留まっている。3−4−2−1のセンターハーフで伊藤涼太郎とのチョイスになることが多く、基本的には伊藤のほうが出場機会をつかんでいるのが現状だ。2人でスタメン出場したり、あるいは山本理仁と組んで試されたりもしたが、勝負所で結果を残せず、現状の扱いに甘んじている。

 シント=トロイデンはポゼッションスタイルなので、相性自体は悪くない。しかし、藤田は360度の大角度で複雑に味方と関わり続けるのが、最も持ち味が引き出されるプレーであり、ポジションを具体的に挙げればアンカーだ。しかし、3−4−2−1のセンターハーフの場合は、前方にスペースがあるため、トップ下のように振る舞える伊藤のほうが大胆に敵陣を攻略し、得点力を発揮している。監督は元神戸のトルステン・フィンクだが、日本人同士でセンターハーフを組ませると空中戦の不安が大きいため、2人のチョイスで伊藤を優先している判断は理解できる。

 藤田の特徴は、周りの味方の能力が高く、プレーが早く複雑になればなるほど相乗効果が出る。ビッグクラブでこそ真価を発揮するだろう。しかし、ステップアップするためには勝負所で自らを輝かせる必要があり、合わせたりバランスを取ったりするだけでは永遠に声がかからない。そういう役割は自国の選手や、監督に近い選手で賄われてしまうからだ。

 横浜F・マリノスでの最後のシーズンも、渡辺皓太と喜田拓也の壁を越えられず、控えがほとんどだった。決して藤田も能力で劣っていたわけではないが、渡辺が持つ攻撃の大胆さと身体の張り方、そして喜田はどんな汚れ役でも買って出ようとする起点潰しの信頼感があった。

 評価は高くても、信頼まで到達しない。1.5軍に回されがちな現状はそう見える。言い方を変えれば、伊藤や渡辺、喜田の場合は、仮に出場させなければ、その判断を後悔させられそうな選手だが、藤田はそうではない。いかにプレゼンス、影響力や存在感を高めて、恒星になるか。

 シント=トロイデンはこの7年ほどの間、欧州スカウトに評価されにくい日本人選手の玄関口として、重要な立ち位置にあった。冨安健洋や遠藤航、鎌田大地のようにステップアップを果たした選手がいる一方で、叶わなかった選手も多い。パリ五輪を含め、2024年は藤田にとって岐路となる1年だろう。

[文:清水英斗]

ココカラネクスト

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