氷上からサーキットへ。フィギュアスケーター無良崇人が86/BRZで念願のレースデビュー

5月21日(火)18時28分 AUTOSPORT web

 2018年3月に現役選手生活から引退しプロフィギュアスケーターに転身した無良崇人が、5月18〜19日にスポーツランドSUGOで開催されたTOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race第3戦でレースデビューを果たした。


 無良は現在、アイスショー『浅田真央サンクスツアー』のメンバーとして、今年は全国23カ所(5月20日時点)をまわるツアーの真っ最中。5月11〜12日の青森公演を終え、5月24〜26日には東京公演が控えている。


 今回のレース参戦についてプロフィギュアスケーターの浅田真央さんは、「ケガだけは気をつけて欲しいけど、頑張ってね」と送り出してくれたそうだ。


 そんな無良は、出演するアイスショーの合間でもレース中継を欠かさずチェックするほど、大のスーパーGTファン。タイミングがあえばサーキットにも足を運び、多くのドライバーとも交流がある。


 今回は多忙なスケジュールの合間を縫っての参戦となったが、レースは幼い頃から憧れと語る無良は、「実はスケーターよりもレーシングドライバーになりたかった時期もあった」と微笑んだ。

氷とスケート靴のブレードが描かれた洗練されたデザインのヘルメット。スポンサーのヘッドホンがオシャレ
中嶋一貴小林可夢偉など、一流ドライバーのデザインを多数手掛けるハイデックスにペイントを依頼した


 また現役時代、互いに切磋琢磨したフィギュアスケーターの小塚崇彦(トヨタ自動車)は昨年7月、ひと足先にTOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Raceに挑戦。その小塚と一緒に出演したテレビ番組では、いつか自分も自動車レースに参戦してみたいと語っていた。


 元々、機械や乗り物に強い関心があり、クルマの運転も好きだったという無良は、フィギュアスケートの現役時代から織戸学の運営するレーシングシミュレーター『130R YOKOHAMA』でドライビングの腕を磨き、2019年4月には国内A級ライセンスを取得。これまで富士スピードウェイで5〜6回ほど、そしてスポーツランドSUGOでは4月に一度練習走行を行い、ついに念願のデビュー戦を迎えることになった。

「まずは思いっきりモータースポーツを楽しむことが一番」と憧れの織戸選手からもありがたいお言葉


■抜きつ抜かれつのバトルも演じた無良。「スタートの瞬間を待つドキドキ感は経験するほど楽しくなりそう」


 今年のTOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Raceは3つのクラスがあり、無良がエントリーしているのはビギナー向けのクラブマンシリーズ・オープンクラス。上級者クラスと混走したレース前日17日の練習走行では、「プロの方に後ろからハイビームでパッシングされてヤバイなって思いました」「(マシンがスライドして)斜めになりながら考えられない速度でコーナーを立ち上がっていく他のクラスのクルマの挙動に度肝を抜かれた」と、コース上で“本物”を体感。


 しかし、「無良さんは理解力が高く、学んだものを吸収するスピードがとても速いですね」と、所属チーム、茨城ワクドキクラブの平野拓郎氏は、世界を舞台に戦ってきた一流のアスリートの高い能力を感じていた。


 18日の午前に行われた公式予選は、「アタックしていた2回とも馬の背でアンダーが出てしまって、タイムが伸びなかったのが悔しい」と全24台中23番手で通過。

決勝へ向けヘルメットを装着。いよいよ気合いが入る瞬間


 決勝ヒート1、シグナルがブラックアウトになった瞬間、「えっ、これもう始まるの? という感じ」でスタートを切り、「前半は前のクルマに食らいついていけるペースだったけど、後半はタイヤの内圧が上がってリヤがまったくグリップしない状態で苦労した。でも、レースをしたんだなっていう実感、達成感はあります」と1台クラッシュした車両もあり22位でフィニッシュ。「スタート前には緊張で心臓が飛び出るかと思いました」と本音を漏らした。


 今回のラウンドは決勝が2ヒート制で開催されるため、ヒート1の結果である22位が翌19日の決勝ヒート2スタート順位となる。


「僕たちの競技(フィギュアスケート)は朝、公式練習をやってから本番になりますが、(19日のヒート2は)事前の練習走行のセッションもなくぶっつけ本番なので、技量を試されてるいる気がします」

朝の練習走行なし、ぶっつけ本番で挑む決勝ヒート2は、フィギュアとは勝手が違った


 そのヒート2では、スタート後に1ポジション落として、その後順位を取り戻すという展開になったが、これについては「抜いたり抜かれたりをやってみたいところもあったので、いったん先へ行ってもらって、“抜く”というのを味わわせていただきました」「(昨日から)セッティングを変えたらリヤも流れずに、タイヤもわりと最後まで余裕があった」と、2日連続のレースとはいえ、とてもこれがデビューの週末とは思えないほどの落ち着きぶり。


 1台コースアウトした車両があったため、ヒート2は21位でチェッカー。2ヒートの総合順位は21位となり、記念すべきデビューレースで無事に完走を果たした。

「前日よりも余裕をもって臨めた」というヒート2。初参戦とは思えないほど落ち着いた走りを披露
他車との接近戦も経験。走るごとに速さを身につけていく


「(フィギュアスケートの)試合とどっちが緊張するかと聞かれると、フィギュアの方が緊張していない感じはあります。ただ“ヒリヒリするような感覚”をひさびさに味わった気がしますね」と、無良からは、勝負の世界に身を置くことが好きなのだと思わせるコメントが聞かれた。


 レースをふり返ってみて、「昨日(決勝ヒート1)はけっこう長いなと思いましたけど、今日(決勝ヒート2)はあっという間でした。グリッドについてスタートの瞬間を待つドキドキ感は、これから経験すればするほど楽しくなっていくのかなと思います。今回は予選落ちがないレースだったので、決勝を走ることができましたが、今後、(参加台数が多数で)予選落ちがあるレースに参加したときに、しっかりと決勝に残れるよう、技術的な部分を磨いていけたらと思っています」と抱負を語った。


 そして、「これを機にフィギュアスケートファンがモータースポーツに興味を持ってくれるきっかけになればいいなと思いますし、その逆にモータースポーツファンもフィギュアスケートに興味を持ってもらうきっかけになれば……そういう部分で自分なりにひと役買えたらいいなと考えていますので、今後もできる限り走り続けたいと思っています」と付け加えた。


 フィギュアスケートのファンにとっては、今回のレースデビューで、もう一度、“無良選手”と呼べるのが嬉しいのだそうだ。レーシングドライバー無良崇人の今後の活躍に期待したい。

デビュー戦のダミーグリッドでチームメンバーと記念撮影。ドライバーもしっかりピースサイン!
グランドスタンドには応援バナーも
キックボードで移動する姿は、すっかりパドックの住人だ
レース後には主催者から、今回いちばん遠方からエントリーしたドライバーとして「グッドトリップ賞」が、そして初参戦を歓迎して「ウェルカム賞」が贈られた
「オレは6年もやってるんだから簡単に抜いていくなよ」と同じ86/BRZレースを戦う元プロ野球選手の山﨑武司さん
スケート靴からレーシングシューズに。二足のわらじならぬ二足のシューズを履きこなす無良


◆無良崇人(むら たかひと)

1991年2月11日、千葉県生まれ、28歳。2014年、四大陸選手権優勝。全日本フィギュアスケート選手権には、05〜17年まで13年連続出場(3位5回)。日本代表として世界選手権に3回出場。ISU GPシリーズ、12年エリック・ボンパール杯優勝。14年スケートカナダ優勝。18年3月、現役引退を発表しプロフィギュアスケーターに転身。現在はアイスショーやフィギュアスケート解説者として活躍中。昨夏の「艦これ 鎮守府“氷”祭りin幕張特設泊地-氷上の観艦式-」に出演以降、“無良提督”の愛称でも親しまれている。


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