【国内トップドライバーオフインタビュー野尻智紀】課題の足首の柔軟性を自宅で改善。YouTuberデビューとレース界への想い

2020年5月22日(金)16時30分 AUTOSPORT web

 新型コロナウイルス渦において、国内レースの開幕が遅れている。そんな中、国内のトップドライバーたちはどのように“おうち時間”を過ごしているのか。普段の生活の様子やトレーニング事情、そして来たる開幕戦に向けての意気込みをリモート取材を行った。
 今回はスーパーGTではARTA、スーパーフォーミュラではチーム無限に所属する野尻智紀に話を聞いた。2020年、野尻はARTAから6年目、チーム無限で2年目のシーズンを迎える。


※ ※ ※


Q:スーパーGTの富士テストが中止になったあと、どのような生活をされていらっしゃいますか?
野尻智紀(以下:野尻):
どんな生活かと言われると正直、そんなにやることもないんです(苦笑)。でも、ここ数年ずっとオフがあるようでなかった生活だったので、大変な状況ではありますが、メンタル面をしっかり休める期間としては、プラスな面もあるのかなと。ただ、トレーニングなんかも100%満足にできる状況でもないので、その辺りはうまく維持するような形でやっています。


Q:私生活においてこの期間中に何か新しく始めたことはありますか?
野尻:
YouTubeを始めましたね。始めるときはすごく大変で、まず「編集とかどうやるの?」って(笑)。いままでの僕はレースにすごく時間を使っていたんですね。気持ちとしてはモータースポーツの人気が上がって欲しいと思うのに、そのために何か行動していたわけではなかった。でもせっかく空いた時間なので、ファンのみなさんに少しでも興味を持ってもらえるようにと思って始めてみました。



Q:何か参考にしているYouTubeチャンネルなどはあるのでしょうか?
野尻:
勉強になっているかどうかは別として、よく見ているのは「水溜りボンド」です。ゆるい感じで僕的にはすごい好きなんです。よかったら見てみてください(笑)。


Q:YouTube以外に何か見ている動画コンテンツなどはありますか?
野尻:
他にはないですね。家族もいてシミュレーターやそれこそYouTubeの編集、トレーニングなどの時間を自由に使わせてもらっているので、あまりそれ以外のことはしていません。こういう期間だからとあえて好きなようにやらせてくれていることにすごく感謝しています。


■シミュレーターでペダル操作の改善を図る


Q:自宅でのトレーニング環境について、何か工夫していることはありますか?
野尻:
基本的に自宅にウエイトはないんですけど、重いものはいくつかあったりするのでそれを使ったり、あとは基本的なトレーニングで体幹を鍛えています。自分がこのオフに取り組んでいたことをなるべく継続的にやるようにしているという感じですかね。あとはペダル操作に必要な繊細な動きをリハビリ的な感覚で忘れないようにするために、シミュレーターも使っています。


Q:シミュレーターは以前からやっていたのでしょうか?
野尻:
いえ、これまではやってなかったです。でもちょうどこのオフ中にやりたいと思って準備を進めていたんです。それで自粛が叫ばれるようになった時にちょうど自宅でできる環境が完成しました。いま、個人的に抱えている課題に対して練習になるとは思います。


Q:課題というのは?
野尻:
足首の柔軟性がもう少し欲しいんですよね。柔軟性がないからなんだと思うんですが、以前から少しペダル操作が雑になるところがあって。それを感じていたのになんとなくごまかしながらやっていたんです。でも細かいところではあるんですが、ロガーを他の選手と比較したときに、僕にはできない足の動かし方をしている選手がいた。それを見て同じようなロガーの形になるように、アクセルの抜き方、ブレーキの踏み方ができるようになったらいいなと。それでシミュレーターを取り入れて、実際のペダル感覚に近づけるようやってみています。


Q:シミュレーターの操作感覚は実車に近いんでしょうか?
野尻:
調整の仕方によってそれなりに近づけることはできると思います。でもメカニズム的には違うので完全に一緒ではないですね。ただ似せることはできるので、実車との違いをしっかり把握して取り組んでいれば、そこまで大きな違いはないかなと思う。


Q:シミュレーターに使用しているのはどのソフトウェアなんでしょうか?
野尻:
グランツーリスモSPORTもやりますが、いまはiRacingをよく使っています。いろんな挙動変化とかが100%リアルというわけではないけれど、実車に近いものがあります。シミュレーターで練習したからといって速くなるというものではないと思いますが、リアルに表現されていない部分は理解した上で上手に利用しながらやっています。




■マシンは万全、タイヤの評価にはやや不安も


Q:3月14、15に行なわれたスーパーGTの岡山テストの手応えはどんな感じでしたか?
野尻:
それなりに良かったかなと思っています。セパンからずっとテストしていますが、すごくいい前進の仕方をしていると思うので開幕が待ち遠しいという感じですね。


Q:昨年のミッドシップからフロントエンジン(FR)に変わったことで変化を感じる瞬間はありますか?
野尻:
すごく細かいところで言ったらあります。FRになったことだけでなく、共通パーツに変わった部分もあるので、一概にFRだからとは言いにくいんですけど、たとえば、後ろにエンジンがあるとアウトラップではリヤタイヤの温まりが早いと思われがちですけど、温まっていないときは結構ピーキーだったりするんですよ。その辺は今までより扱いやすくなった感じがあります。あとフロントにエンジンがあることで前の負荷が増えるので、アンダーステアが出たりフロントタイヤの劣化が早かったりという部分はあると思います。そういった点で違いは感じているけど、でも思ったほどめちゃくちゃ違う、これは乗りこなすのが大変だという印象はなかったです。


Q:岡山テストでは気温がかなり低かったですが、タイヤの評価という部分ではどうだったんでしょうか?
野尻:
やはり路温が低いとタイヤが発動しなくて表面だけが削れてしまうような感じがありました。ロングランなんかも結構早めにドロップしてきちゃって。だからそこはちょっと分からないですね。レースの気候になってタイヤがしっかり発動するときになったら、もう少し違う挙動を示すだろうし。いまはいろんなプラスもマイナスも想定できるときかなと思うので、その辺をいかに多く想定しながら進めていくかが大事なところかなと思います。

ARTA NSX-GTをドライブする野尻智紀/福住仁嶺


Q:今年、GT300からステップアップして新しくチームメイトになる福住仁嶺選手とどんなチームを作っていけそうですか?
野尻:
福住選手はすごく速くて才能もある。だから僕がどうこう教えるというよりもふたりでどう協力関係を築くかが大事かなと。あとはチームも含めて、どう福住選手とフィットしていくか、ドライバーふたりがどうチームにフィットしていくかが大事だと思います。その辺りは昨年まで伊沢(拓也)選手と組んでいたときとは違うので、1からやりつつチームが僕たちのために一生懸命やってくれるような関係性を築いていきたいです。


Q:スーパーフォーミュラの話に変わりますが、3月24、25日に富士スピードウェイで行われたテストの感触はいかがでしたか?
野尻:
そっちもすごくいい状態でいけているので問題ないというか、開幕が楽しみですごくワクワクしています。


Q:2020年はソフトタイヤだけの1スペックになりますが、コンパウンドは去年と同じですよね?
野尻:
一緒という風には聞いていますが、あのときも路温が低かったので、少し違う感じ方をしているのかなという印象もあります。


Q:ソフトタイヤの1スペックになることでレース展開はどのようになるでしょうか?
野尻:
タイヤの持ちという部分では去年とあまり変わらないと思います。ですので、2015年までのスーパーフォーミュラみたいに、純粋に速い人が勝つという感じかなと。それがフォーミュラの正しい姿でもあると思うので、いち選手としてはそういう姿に戻ってくれるのはうれしいです。


Q:テスト以降、エンジニアたちとは連絡を取られていますか?
野尻:
そうですね。チームも休みの期間がありましたが、その中でテストを振り返る時間ができました。そこからさらに新しいものを準備する期間としていまは動いてくれています。チームにとってもこの期間はいままで以上に集中して準備ができていますが、それはライバルも同じ。そういった意味では今シーズンの戦いはすごく僅差になるかもしれません。


Q:ではスーパーGTとスーパーフォーミュラ、それぞれ今年はどんなシーズンにしたいですか?
野尻:
まずスーパーGTはチームメイトが変わりましたけど、チャンピオンを目指すというのは変わりません。あと、勝つことによってお互いの信頼関係も増すことがいままでの経験からも分かってますし、まずは早めに1勝したいなというところです。スーパーフォーミュラの目標はチャンピオンしかないです。チーム無限で走れる2年目のチャンスをいただいたので、いいレースをしてチームとホンダといままで支えてくれた人たちに、恩返しできるような結果が欲しいと思います。


Q:野尻選手と同じく、レースファンも今年の開幕を心待ちにしています。
野尻:
いまはまだ厳しい状況ですけど、そのぶん開幕したときにはこれまで以上に熱く、しびれるレースをお見せできるように準備をしています。ぜひ、期待して開幕をお待ちいただければうれしいです。


※ ※ ※


 スクールの教え子でもあった松下信治には「あいつには敵わない」などの発言や、チームメイトになったドライバーの速さや強さを素直に認めるなど、これまでのレーシングドライバーとは一線を画す魅力を持っている野尻智紀。今回の自粛期間となったオフにも自宅シミュレーターをSNSで発信、そしてYouTubeデビューして新しい試みを試すなど、国内レースに新しい風を吹き込みつつある。若手とは言えなくなった昨今の野尻にとって、狙うは本人の言葉のとおりチャンピオンであり、ホンダの絶対的なエースとなること。常に比較される山本尚貴と今年、どんな戦いを見せてくれるのだろう。

8号車ARTA NSX-GT
野尻智紀(TEAM MUGEN)


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