オンライン教育後進国・日本へのヒント? 中南米「野球アカデミー」新たな文武両道の形

5月22日(金)15時30分 REAL SPORTS

「オンライン教育後進国」日本においても、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、オンライン教育が少しずつ広がっている。そんな中、オンライン教育を取り入れている野球学校がプエルトリコにあるという。文武両道を掲げて2007年に設立され、昨年千葉ロッテマリーンズでプレーしたケニス・バルガスが1期生だ。勉強もスポーツも自身の人生を切り開くツールと考えて合理的に上達を目指す「ネクスト・レベル・アメリカ・アカデミー」の取り組みを追った。

(文=中島大輔、写真=Getty Images)

改めて注目を集めるオンライン教育

新型コロナウイルスの感染拡大で日本全国の学校が一時的に閉鎖され、オンライン教育が注目を集めている。

2018年のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本は学校でのパソコンなどの使用頻度が同加盟国で最下位だったが、デジタルデバイスを有効活用している声を拾うと、その可能性に前向きなものが少なくない。テクノロジーをうまく使うことで「マンツーマンで話し合う機会をつくりやすい」など、現実世界の課題を乗り越えることができるからだ。

オンライン教育はスポーツに重点的に取り組む学生にこそ向いている。そう考え、中南米のアメリカ自治領プエルトリコで初めてオンライン教育を取り入れたアカデミー(私学の学校で、高校や中学の位置づけ)がある。

「エージェントとして働いているとき、IMGアカデミーを見てオンラインで学ぶほうがいいと気づいた。10代のスポーツ選手たちがオンラインで勉強している理由は、好きな時に学び、より多く練習できるからだ」

野球界の代理人として活動し、2007年に自身のアカデミーを設立したペドロ・レオンはそう語る。IMGアカデミーはテニスの錦織圭やマリア・シャラポワらトップスポーツ選手を輩出している文武両道の育成機関だ。ペドロがプエルトリコで生徒たちとともに行っている意欲的な挑戦は、アカデミーの名前にまさに込められている。

ネクスト・レベル・アメリカ・アカデミー。

「野球だけのプログラムではなく、スチューデント・アスリートのためのプログラムをつくりたかった。授業はすべて英語で行われる。生徒たちが卒業後、アメリカのカレッジに進学する準備をできるよう、学習システムを提供している。プレップスクール(進学に向けて準備する学校)のようなものだ」

「自身に責任を持ち、自立することを求められる」

カリブ海に浮かぶプエルトリコはメジャーリーグ(MLB)にロベルト・クレメンテ(元パイレーツ)ら4人の殿堂入り選手を生み、現在はフランシスコ・リンドーア(インディアンス)やハビアー・バイエズ(カブス)ら多くの一流選手が活躍する野球強国だ。

地政学的には特殊な特徴を帯びている。公用語は主にスペイン語で、通貨はドル。約320万人の島民は米国籍を有する一方、アメリカ合衆国国勢調査局2015年データによると、島民の80%は「英語が決して得意ではない」。10年以上前から経済問題が悪化し、住民の半分以上が貧困ラインで暮らしている。

そんな島の少年たちに人生のチャンスをつかんでほしいと、レオンは代理人業で貯めたお金でアカデミーを創設した。2014年にミネソタ・ツインズに入団して活躍し、昨年千葉ロッテマリーンズでもプレーしたケニス・バルガスが1期生だった。

筆者が訪れた2019年12月時点では、7th grade(中学1年)から12th grade(高校3年)の29人の生徒が在籍。ルキージョという町の施設を借りて運営し、月の学費は275ドルから375ドルと格安だ(プエルトリコの野球エリートが通うアカデミーは年間6000ドル)。

授業は月曜から木曜の午前中に教室で3時間行われ、それぞれ1台与えられるパソコンで受講する。昼食をとり、午後に3時間ほど練習だ。金曜はフリータイムで、休養に充てる者もいれば、受けたい教科をオンラインで受講することもできる。土日はオフで、それぞれ地元の町クラブでプレーする。

生徒たちはアメリカ本土のカレッジ進学を最大目標とし、同国のスチューデント・アスリート・プログラムの下で学んでいく。文武両道を掲げる学生のために開発されたスチューデント・アスリート・プログラムをオンラインで学ぶ利点について、ペドロはこう説明する。

「普通の学校では目の前に先生がいて、生徒はテストを含めてプログラムが受動的に与えられていく。しかし、うちのアカデミーは違う。自分が学びたいことを英語で書いてアメリカ人の先生にEメールでリクエストし、授業を受ける。しかも毎日だ。子どもたちは自身に責任を持ち、自立することを求められる。今はテクノロジーの時代だから、積極的に使いこなしていくべきだ」

ほとんどの生徒たちは入学時に英語ができないが、使用しなければならない環境に放り込まれれば、半年ほどで話せるようになるという。一般的にオンライン教育ではモチベーションと集中力が課題とされるが、ネクスト・レベル・アメリカ・アカデミーでは普段のテストでは90%以上のスコアを取らなければ野球の練習をさせないという高い目標を設定し、生徒のやる気に火をつけている。

野球をすることで得られるアドバンテージ

また、生徒たちは日常生活から「規律」を求められる。ラテンの人々は総じて時間や規律にルーズだが、ネクスト・レベル・アメリカ・アカデミーの生徒は授業中に私語をはさまず、授業の終了時間になると自発的に掃除を始める。カバンやグローブを一糸乱れず並べ、中南米というより日本の高校野球のような雰囲気だ。こうした姿勢を普段から大切にすることが、人としての飛躍につながるとペドロは語る。

「自分の人生に対してプランを持たなければならない。組織の中で生きるには、規則が必要だ。髪型を清潔に整え、制服をしっかり着る。そういう生活を送ることを選手自身が選び、実行していく。そうしてファーストクラスの人間になり、将来のチャンスをつかみとっていく。勉強や野球に取り組む中で自立した人間になり、ネクストレベルに挑戦しようというのがこのアカデミーのメッセージだ」

オンラインでの学習だけでなく、野球でも合理的に上達を目指していく。例えば選手たちは肩の可動域により、適性ポジションを判断される。キャッチボールでは12オンスの球を使用し(通常の球は5オンス)、自分に合った投球フォームを身につけていく。アメリカでメジャーリーガーも通う施設「ドライブラインベースボール」などで、最先端の練習法として行われるメニューだ。

生徒たちは限られた時間の中、2つの道で合理的に努力しながら自分の可能性を広げていく。スチューデント・アスリートにとって、勉強もスポーツも自身の人生を切り開くツールという位置づけだ。両方に取り組むことで、相乗効果が出るとペドロは語る。

「うちの生徒たちは野球を通じてカレッジに行くことができる。野球をすることで、自分にとってアドバンテージを得られるとわかっているんだ。カレッジに行けば、将来に向けてよりよい準備ができる。MLBに行くにしろ、プエルトリコの高校を出てからドラフトで指名されても契約金は100万ドルくらいだが、カレッジで力を蓄えれば契約金を3、4倍多くもらうことができる。しっかり教育を受けることで、人生のチャンスが増えていく」

昨今、日本では部活のあり方が見直されているが、勉強もスポーツも人生の可能性を広げる手段だ。どちらかに絞るのではなく、2つの道に取り組むことでチャンスが増えていく。野球漬けの高校生が「野球バカ」というレッテルを貼られる一方、「野球をすることがアドバンテージになる」という考え方の人々が海の向こうにはいる。若者たちにとって、どちらが将来の可能性を広げるかは一目瞭然だろう。

万人の生活が1日24時間に限られる中、場所と時間を効率的に選択できるオンライン教育という選択肢は、スポーツに重点的に取り組みたい学生にこそ有効ではないだろうか。コロナ禍でオンライン教育が注目される今、日本のスポーツ界にとって、新たな選択肢を模索していくチャンスだ。

<了>

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