63億円も安い。最高の大器、ダビンソン・サンチェス。日本に立ちはだかる22歳のプレミア級CB【W杯 日本を襲う猛獣たち】

5月24日(木)10時40分 フットボールチャンネル

プレミア最強コンビの牙城を崩した若者

 1ヶ月後に迫ったロシアワールドカップ。日本はグループHでコロンビア、セネガル、ポーランドの3か国と激突する。本大会へ向け改めて確認しておきたいのは対戦国の要注意人物たちだ。フットボールチャンネルでは日本と対戦する3か国の“猛獣”たちを紹介していきたい。今回はコロンビア代表のDFダビンソン・サンチェスを取り上げる。(取材・文:山中忍【イングランド】)

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「まだ21歳だなんてあり得ない!」−−トッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ監督は冗談混じりに言った。

 昨年10月17日のCLグループステージ第3節、レアル・マドリーと敵地で堂々の引分け(1-1)を演じた後の発言だった。当時21歳4カ月だったダビンソン・サンチェスは、結果的にPKでネットを揺らされはしたものの、オープンプレーでは、あのクリスティアーノ・ロナウドの鎮静化に成功した。

 トッテナムの新CBは、続く11月1日のリターンマッチでも、最終的にはトッテナムの今季ベストゲームとも言えるホームゲームで、カリム・ベンゼマとの個人バトル勝利を含む及第点以上の90分間。CLでの大一番2連戦を以って、イングランドのメディアは、アヤックス経由でやって来たコロンビア代表DFへの認識を改めた。

 サンチェス獲得に支払われた移籍金は推定4200万ポンド(約63億円)。トッテナムが史上最高額を費やした補強だったが、国内ではさほど騒がれはしなかった。財布の紐が固かったトッテナムが、ようやく「誰かを買った」という程度に受け止められた。

 既にトビー・アルデルバイレルトとヤン・フェルトンゲンがいるという、チームのCB事情もあっただろう。前シーズンをリーグ最少26失点で終えたトッテナムの正CBコンビには、「プレミア最強」の評価が与えられていたのだ。必然的にサンチェスの獲得は、「当面は控えの若手を高値で買った」と見られてさえいた。

 実際には、移籍2週目に交代出場でデビューを果たし、翌3節からは左右にフェルトンゲンとアルデルバイレルトがいる3バックの中央で先発するようにもなってはいた。

 だが「まだ若い」という見方は根強く、4節スウォンジー戦(0-0)などでは、力強さと度胸の良さを感じさせる守りが評価される一方で、数度のパスミスに「やはり21歳」との指摘があった。

強靭なフィジカルで空中戦もスピードも一級品

 だが、プレミアで先発を重ねる中、CLでも格上と渡り合ったことにより、サンチェスには、「いよいよ本物か?」、「移籍金4200万ポンドは安い!」といった声が上がり始めた。その後も、試合を重ねる毎に「伸びしろも十分の即戦力」としての説得力を増した。

 移籍1年目にして、プレミアでは29回の先発を含む31試合に出場。昨年12月後半からリーグ戦で14試合無敗を続けたトッテナムの最終ラインには、フェルトンゲンとサンチェスのCBコンビがいた。

 アルデルバイレルトは、奇しくもレアル・マドリーとの2戦目で負傷退場。怪我から復帰した後も、3バックから変更された4バック中央の一角を奪い返すことができない時期が続いた。29歳のベルギー代表CBをベンチに留めたサンチェスは、プレミア3位の正CBとしてシーズンを終え、クラブからも年俸アップの新6年契約で1年目の活躍を評価された。

 プレミアのCBは、昔も今も、フィジカルの強さが前提だ。身長187センチ・体重83キロのサンチェスは「巨漢」ではないが、十分な「大型」。筋肉質の体が、力強いタックルやブロックを可能にする。

 プレミア基準では、とりわけ「長身」のCBでもないが、全身のバネを生かして空中戦でも互角以上の競り合いを演じる。距離の出るヘディングでのクリアも朝飯前。そのフィジカル度は、身長と体重から連想するイメージよりもはるかに高い。

 得意のヘディングを自軍ペナルティエリアの外で披露することが多いように、サンチェス最大の特長はカバー領域の広さにある。ハイラインを基本とするポチェッティーノが、サンチェス起用を好む大きな理由でもあるはずだ。

 カウンターで一気にラインの裏をつこうとしても、抜けたかに思える相手FWに激走で追いつき、強靭なタックルで敵のチャンスの芽を潰してみせる。思い返せば、アヤックスの一員として出場した昨年5月のEL決勝でも、チームとしてはマンチェスター・ユナイテッドに敗れたが、サンチェス個人は、マーカス・ラッシュフォードのスピードにも難なく対応していた。

若さゆえ? 唯一とも言える弱点は…

 指揮官が「アグレッシブなマーカー」と表現するサンチェスは、対人の守備にも強い。

 トッテナムが敵地スタンフォード・ブリッジで28年ぶりの白星を記録した、今年4月1日のチェルシー戦(3-1)では、果敢に仕掛けるタイプのエデン・アザールにも決定的な仕事をさせていない。対峙した相手の前で、ディレイからボール奪取へと移る判断の良さには、生まれ持った守備センスの良さが窺える。

 当初はMFとして育成された過去を持つだけに、足元の技術も確かなものを持つ。瞬時に逆サイドにプレーを振るような展開力を含むパス能力ではフェルトンゲンに敵わないが、短中距離のフィードはシャープ。

 1年目のプレミアでも、パス本数では平均70本弱のフェルトンゲンを約66本で下回ったが、成功率ではベテランのベルギー代表CBを3%ほど上回る89.4%を記録している。

 ビルドアップの起点として中盤にパスを通す意欲が裏目に出ていなければ、パス成功率は更に高まっていたかもしれない。逆に対戦相手から見れば、ボールを奪い取った直後のサンチェスは、素早いプレッシングでプレッシャー下に置けば、やや強引なフィードに失敗してショートカウンターのチャンスを提供してくれる可能性のある存在だとも理解できる。

 しかし、こと敵の攻撃を止める、相手からボールを奪うといった守りに関しては、ポチェッティーノもジョークを口にしながら感心していたように、とても21歳とは思えない落ち着いたプレーを見せる。

 CL準々決勝進出を懸けた、3月7日のユベントス戦第2レグでも、チームとして敗退は避けられなかったが(計3-4)、トッテナムの若きCBは、前半早々からインターセプトにシュートブロックにと、持ち前の速さと強さを発揮した。

 31歳のフェルトンゲンでさえ、いきなりダグラス・コスタにあわや一発退場かというタックルを見舞っていたが、サンチェスは終始、自軍DFで最も冷静だった。ホームの観衆から当日最大レベルの拍手喝采が沸き起こったのは、タイミングも抜群のスライディングタックルでサミ・ケディラを止めた前半の1シーンだった。

溢れる学習意欲。YouTubeで往年の名手を研究

 もちろん、完成品ではない大器が完璧であるはずはなく、そのユベントス戦では、敵の逆転ゴールに間接的に絡んでもいる。ボールにつられて持ち場を離れ、ゴンサロ・イグアインにラストパスを許す結果となった。ミスと指摘するのは酷だが、誰よりもサンチェス自身が悔いの残る1プレーだったに違いない。

 その67分のチーム2失点目の後は再び、ヘディングでのクリアやパスカットを繰り返し、反撃を期して前方へのフィードを試みる、サンチェスらしいパフォーマンスを見せることができていたのだ。

 成長期にある新CBには、元DFでもあるポチェッティーノが、事あるごとにアドバイスを送っているはずだ。サンチェスに言及する際の指揮官は、選手としての能力だけではなく、「助言を注意深く聞く」、「忠告を素直に受け止める」、「自分自身に厳しい」といった、若者としての性格をも大成を期待する理由として上げることが多い。

 往年の名DF、フランコ・バレージやパオロ・マルディーニの映像をYouTubeで確認して参考にしていることも、今では良く知られている。

 筆者がサンチェスに重ねたイメージは、マルセル・デサイー。元フランス代表CBとして98年W杯優勝も成し遂げた名手のプレーを頻繁に目にしたのは、当人が30代だったチェルシー時代に限られるが、モダンなCBに必要な全要素を潜在的に持つサンチェスの姿を見ると、「若い頃のデサイーはこうだったのでは?」と思わされる。

 今夏のロシアで、コロンビア代表にとってのW杯が始まる6月19日、対戦相手となる日本代表の前には、優れた身体能力と守備センスを備え、経験値の不足分は学習意欲で補う意欲をも持つ、22歳と1週間のプレミア級CBが立ちはだかる。

(取材・文:山中忍【イングランド】)

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