黄金ルーキーは“プロの壁”をどう乗り越える? 「控えという野球人生」を知らなかった度会隆輝が2軍落ちで気付かされた課題とは
2024年5月28日(火)6時0分 ココカラネクスト

開幕前から1軍で好調を維持してきた度会。しかし、その打棒は徐々に低調なパフォーマンスになっていった。(C) 萩原孝弘
プロの世界は甘くない。「社会人No.1野手」が苦しんだ原因
今春のオープン戦で首位打者となった度会隆輝は、「社会人No.1野手」の前評判通りの実力、そして持ち前の人懐っこいキャラクターも相まって、開幕前から球界の話題をかっさらった。
度会の勢いは開幕してからも続いた。オープニングゲームで逆転弾、その翌日にはグランドスラムと、誰の目にも明らかな結果を出し、早くも「新人王筆頭候補」という声も上がった。
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しかしプロの世界は甘くない。徐々に度会の成績は下降すると、守備でも精彩を欠く場面が散見。5月16日には2軍に降格し、晴れ舞台からフェードアウトとする形となった。
ぶち当たってしまったプロの壁。小さなときから親交があり、横浜高の先輩でもある鈴木尚典打撃コーチは、苦しんだ原因を挙げる。
「コンタクトするのが上手で器用な分、ボールの見極めがね。どのコースでも結構当てれるから、さすがにお前でも無理だろうっていう難しい球も手を出してしまう」
まず、度会のバットコントロールの良さを、悪循環に陥る原因の一つに分析した鈴木コーチは、「なおかつプロですから。本当に1打席に1球(打てるボールが)あるかないかの1軍の世界なので」と、がむしゃらに結果を出そうとした21歳が敵の術中に嵌ってしまったと説いた。
「初球からどんどん行くスタイルで、ボールを反応で打つタイプですから積極的に行くのはもちろんいいんですけど、向こうもプロですから、ボール、ボールから入ったり、フォークを続けたりとかで来る。それを打ちに行ってファールにしてしまったら追い込まれる。それは本当に打ちに行くべき球なのか、行っちゃいけない球なのかというのをしっかり見極められるようにならないとダメですね」
課題を明確にした鈴木コーチは、「横浜高校では1年からベンチに入ってずっとレギュラー。ENEOSでもレギュラーという野球人生しか送ってきてないと思うんです」とも厳しく指摘。自身の経験をふまえ、「自分がスタメンじゃない、自分が控えという野球人生がないんですよね。小中高、社会人と経験していま初めての心境を味わってると思う」とルーキーの胸中を慮った。
「1回り、2回り大きくなって、次に戻ってきた時はまたレギュラーを掴む。いまはそういう時だと思うし、来年、再来年含めて、彼が本当にスター選手になるための勉強だと思ってやりなさいっていう話はしたんです。リフレッシュではないです。修行ですね」
鈴木コーチの言葉には、苦しみを成長に変えてもらいたいという親心にも似た期待が込められていた。

プロ入り以来、1軍という“表舞台”に身を置いてきた度会。だからこその気づきもある。(C)産経新聞社
「ここに来て色々気づかされた」1軍と2軍の違い
では、現在2軍で研鑽を積んでいる本人は、この苦境をどう捉えているのか。
ファーム行きを告げられた際の胸の内を「僕もさすがに落ち込みました」と素直に漏らした度会は続けざまに「やっぱりやらなきゃダメなんで、切り替えようとはしましたね」と強調。球団からのシビアな宣告にもしっかりとマインドを切り替えていた。
そして、自らの「課題」と指摘されたボールの見極めには「そこはやっぱりあるのかなとは思います」とキッパリ。自身の考えを打ち明けている。
「ヒットコースが広い分、手を出してしまったのですが、もちろんヒットゾーンって、一番打ちやすいところなので。難しいところをヒットできる時もありますけど、できない時の方がやっぱり多いので、尚典さんのおっしゃる通り、そこの目付け、見極め、そういうところをもっと、もっと、とやっています」
もっとも、2軍降格後は目に見える結果を出している。打率は流石の.417だ。ゆえに本人も「自分のしっかりとやるべきことはできてると思います。フォアボールももちろん取れているので」とハツラツとした表情で技術面向上の手応えを口にする。
綻びが目立った守備面も「今はセンターもやってますし、守備の練習もナイター後にもしっかりやっている。それも含めてしっかりとパワーアップできてる部分もあると思います」と言い切る。
また、入団以来、煌びやかな世界に身を置き続けていたことも反芻する度会は、「ありがたいことにファームを経験せずにプロ野球生活が始まってから2軍に来る時まで、ずっと1軍の環境にいさせてもらっていました」と、2軍生活を通して生まれた“感謝”を噛みしめる。
「横浜スタジアムでいえば、お客さんがたくさん入って、応援団の方がたくさんいて、キラキラした演出もあった。僕はその景色しか見ていなかったので、1軍のありがたさ、本当に2軍と1軍の違いっていうのも改めてわかりました。ここに来て色々気づかされたものもあります。初めての試合は浦和だったんですけどファームでは環境の違いも、グラウンドも、お客さんの声援の量もやっぱり違いましたね」
だからこそ、だ。「やはりずっと1軍にいないと。いられるように頑張らないとなと思いました」と切実に語る度会は、「本当に尚典さんが修行って言ってくださっていましたけど、本当にその通りで。時間も無駄にせずに、1日でも早くまたあの舞台に戻りたいです」と吐露。鈴木コーチから送られた“修行”の意味を心の奥に刻み、日々野球に没頭する。
「またやるぞっていうその声が、いつかかってもいい準備は今も常にしています。本当にもうあとは待つだけなんで」
爪を研ぎ続けている日々は間違いなくいつか活きる。“一番星”は、華々しいスタジアムでこそ、輝きを増す。
[取材・文/萩原孝弘]