EL決勝は虚々実々。稀代の戦術家ウナイ・エメリが真髄を見せるか

5月28日(火)5時57分 Sportiva

 ウナイ・エメリは、欧州サッカーにおいて”希代の戦術家”として知られる。相手チームを研究し、手持ちの選手で最大限に相手を叩きのめせる布陣、戦い方を選択。試合の中での修正も巧みで、その慧眼は欧州でも随一と言える。


チェルシーとのヨーロッパリーグ決勝に挑む、アーセナルのウナイ・エメリ監督

 エメリはフランスリーグのパリ・サンジェルマン監督を退任した後、今シーズンからプレミアリーグの強豪アーセナルを率いている。20年以上も監督を務めていた名将、アーセン・ベンゲルの後任として、当初は懐疑的な意見も少なからずあった。しかし、エメリは監督1年目でチームの統率に成功している。

 ヨーロッパリーグ(EL)ではフランスのレンヌ、イタリアのナポリを下した後、準決勝では古巣でもあるスペインのバレンシアを合計スコア6−3で撃破し、決勝に進んでいる。タイトル獲得まであと一歩だ。またプレミアリーグも5位と、昨シーズンの6位を上回り、ひとつの結果を出した。

「ベンゲルが22年間にわたってやってきたことは、リスペクトしている。しかし、チームは変化を必要としていた。(チームが部屋だとしたら)椅子をどかし、絨毯を干して、床を掃いて、窓を開ける。選手には『0kmから始めよう!』と伝えたよ」

 脚光を浴びる、”エメリイズム”とは——。

「私はディテール主義者と言われているようだね」

 エメリは自らの肖像についてそう語っている。

「それはポジティブに聞こえるが、なんでもかんでも選手に求めるわけだから、しつこい、という意味ではネガティブなことだろう。しかし、サッカーではスペースをどのようにシェアするのか、カバーし合うのかがとにかく大事だ。私はビデオでとことん研究し、選手たちに指示を伝える。ひとつずつ詳しく分析する必要があるんだよ」

 選手時代に遡ると、エメリは大成することができなかった。名門レアル・ソシエダの下部組織で育っているが、サンセ(Bチーム)どまり。天才肌の左利きアタッカーとして期待されるが、同じポジションで2歳下のハビエル・デ・ペドロが台頭し、あっという間に追い抜かされた。スペイン代表としてW杯にも出場したデ・ペドロとの競争は分が悪かった。結局、トップチームではプレーできていない。

 その後は2部、3部のクラブを転戦し、最後は膝のケガに見舞われる。33歳のときだった。所属していた2部B(実質3部)ロルカが監督を更迭。すでに監督ライセンスを取得していたエメリに白羽の矢が立った。

 熱心な勉強家で、指導者としての才覚があったのだろう。エメリはロルカを2部に昇格させただけでなく、次のシーズンには5位に躍進させている。

「選手時代から、監督が舌を巻くほどの戦術家だった」と言われるエメリは、勝利を積み上げていった。2部のアルメリアを率いた時は1部へ昇格させている。そしてなんと1部でも8位に躍進。すべて30代での出来事である。

 エメリは気鋭の監督として、その後もバレンシア、スパルタク・モスクワ、セビージャ、そしてパリSGで実績を残していった。バレンシアでは3シーズン連続でチャンピオンズリーグ出場権を獲得。セビージャでは、ELで3連覇の偉業を達成している。そしてパリSGでは国内カップ、国内リーグを制した。ディテールにこだわった戦術が、各チームで功を奏したのである。

 アーセナルでのエメリは、戦術家としての真骨頂を見せる。4−2−3−1というフォーメーションを軸にしながらも、変幻自在にさまざまな布陣を採用。相手次第で最善の戦い方を見つけ出している。

 バレンシアとのEL準決勝第2戦の戦い方も老獪だった。ホームの第1戦で得た3−1という勝利のアドバンテージを守るのを優先。5−2−3という守備カウンター戦術を選んだ。前線の3枚がしつこくプレスしながら、中盤の2枚がコースを遮り、バックラインが押し上げ、スペースを消し、敵のよさを前から封じた。一方で、押し込まれたら、集中的にリトリートし、堅牢なブロックで対応している。

「逆風の中で、戦い抜くことができたと思う。完璧な試合をやってのけた」

 エメリはそう振り返っている。

 攻撃は中盤でつながず、とくに中央は、カウンターを浴びる危険があるため、極力使っていない。徹底的にサイドから仕掛け、敵の脇腹にジャブを打ち込んでいる。一方で、高さと速さで先手を取れるエメリク・オーバメヤンやアレクサンドル・ラカゼットへ、狙いを込めた長いボールを入れた。

 事実、アーセナルの1点目は、GKが蹴ったロングボールをオーバメヤン、ラカゼットが競り、こぼれ球をオーバメヤンが蹴り込んだものだった。

 5月29日、アゼルバイジャンの首都バクーで行なわれるEL決勝戦。チェルシーに対して、エメリがどんな戦術を用いるのか——。同じプレミアリーグの敵だけに、手の内は知り尽くしている。それだけに虚々実々の戦いとなるだろう。プレミア得点王で戦術的柔軟性も高いオーバメヤンが勝負のカギを握るかもしれない。

 アーセナルが戴冠したら、エメリは、異なるチームで出場したEL4回連続優勝という記録を作る。目標にしていた来季のチャンピオンズリーグ出場権も得ることができる。ベンゲル退任後、クラブの新たな時代の扉を開けることになるだろう。

Sportiva

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