Jリーグの3バックブームは戦術進化の新潮流か

2025年5月29日(木)18時0分 FOOTBALL TRIBE

ミヒャエル・スキッベ監督(左)黒田剛監督(右)写真:Getty Images

今2025シーズンのJリーグで、3バック(【3-4-3】もしくは【3-5-2】)を採用するチームが増加している。この「3バックブーム」は、単なる一過性のブームなのか、戦術の進化を反映した現象なのか、まだその答えは出ていない。


現在のJ1ではサンフレッチェ広島や町田ゼルビアが、J2ではロアッソ熊本など多くのクラブが3バックを基盤とした戦術を採用。また、柏レイソルも、今季から就任したリカルド・ロドリゲス監督が3バックで強固な守備と流動的な攻撃を披露し、上位戦線を賑わせている。


なぜ今、3バックが再び脚光を浴びているのか。その背景には、国内外のサッカートレンド、選手の特性、対戦相手への対策など、さまざまな要因が絡み合っている。ここでは、Jリーグの3バックブームの要因、採用チームの事例、戦術的メリットと課題、そして今後の展望について掘り下げてみたい。




フィリップ・トルシエ氏 写真:Getty Images

世界で3バック再評価の流れ


3バックシステムの再評価は、Jリーグだけの現象ではない。欧州サッカー界でも3バックが再び注目を集めている。


2010年代後半から、バルセロナやバイエルン・ミュンヘンの監督を歴任し現在マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督や、同じく多くのビッグクラブを率いイングランド代表監督を務めるトーマス・トゥヘル監督、セリエA優勝に導いたナポリのアントニオ・コンテ監督といった名将たちが3バックを採用したこともあった。特に、ビルドアップの柔軟性や守備の安定性を高める戦術として、3バックは現代サッカーのトレンドに適合しているという見方だ。


日本代表の歴史を紐解くと、3バックを採用した例としては、2002年のFIFAワールドカップ(W杯)日韓大会に臨んだフィリップ・トルシエ監督の代名詞的戦術「フラット3」が有名だ。


そして時は流れ、現在日本代表を率いる森保一監督は、2018年のチーム立ち上げ当初は4バックを採り入れた時期もあったが、現在では3バックをベースに相手に応じて4バックと併用している。


これがJクラブの監督たちにも影響を与え、3バックを試すきっかけとなった。また、欧州の成功事例が映像などを通じ、Jクラブの監督の参考になった側面もあるだろう。


Jリーグでは【4-4-2】や【4-2-3-1】といった4バックを基盤とするチームが依然として多い。こうしたチームに対し、3バックは戦術的にギャップを作り出す有効な手段となる。3バックは、中央の守備を固めながら、両サイドのウィングバックが攻撃参加することで、相手SBやMFを混乱させることができる。この非対称性が3バック採用の大きな動機となっている。




中野就斗 写真:Getty Images

Jリーグ3バック採用チームの事例


Jリーグの選手層も3バックブームを後押ししている。現代のJリーグには、守備的MFやセンターバックとしてマルチに活躍できる選手が増えている。また、ウィングバックに求められる運動量や攻撃力を兼ね備えた若手も台頭している。これらの選手の特長を最大限に生かすため、3バックを採用するケースも多い。


サンフレッチェ広島は、Jリーグにおける3バックの代名詞ともいえるクラブだ。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(2006-2011)が礎を造り、森保監督時代(2012-2017)へと受け継がれた【3-4-2-1】を基調とし、2012年、2013年、2015年にはリーグ優勝を達成した。


2025シーズンも、ミヒャエル・スキッベ監督の下3バックを軸に攻撃的なサッカーを展開している広島。センターバックのビルドアップ能力とウィングバックの積極的な攻撃参加が特徴だ。特に、両ウィングバックの中野就斗や新井直人がサイドを駆け上がり、チャンスを演出する姿は、3バックのダイナミズムを象徴している。


また、2024シーズンにJ1で旋風を巻き起こした町田ゼルビアは、今季から新たに3バックを導入した。黒田剛監督は、【3-5-2】を基調に守備の安定と速攻を組み合わせた戦術を採用している。センターバックの強固な守備と、中盤の数的優位性を活かしたカウンターが武器だ。


特に、MF望月ヘンリー海輝とMF林幸多郎の若き2人がサイドで攻守にわたって高い運動量を発揮し、相手のサイド攻撃を封じつつ、素早い攻撃展開でゴールを狙う町田。4バックから3バックへの移行のケーススタディーを示し、ロングスローとセットプレーだけのチームではないことを証明しつつある。


J2ロアッソ熊本は、大木武監督の下で特徴的な3バック戦術を採用している。【3-4-3】を基調に攻撃的な選手を前線に並べ、積極的なプレッシングとパスワークを組み合わせたサッカーを志向している。守備時の安定感よりも、攻撃時の流動性を重視している。


この戦術は諸刃の剣で、大勝と大敗を繰り返す可能性はあるが、これこそが“大木スタイル”でもあるのだ。その証明に大木監督は、2002シーズン、ヴァンフォーレ甲府の監督就任以来、のべ6クラブで指揮を執っている。それだけのニーズがあるということだ。


サッカーボール 写真:Getty Images

3バックのメリット:攻撃に厚みをもたらす


3バックの最大のメリットは、中央の人数が分厚くなる点だ。センターバック3枚が中央をカバーすることで、相手のストライカーやインサイドハーフの侵入を防ぎやすい。また、ウイングバックが守備時に下がることで、5バックのような形を作り、サイド攻撃にも対応できる。この守備の安定性は、カウンターを狙うチームにとって特に有効だ。


また、3バックは、ビルドアップ時に多くの選択肢を提供する。センターバック3枚がボールを持ち、ウイングバックやインサイドハーフがポジションを変えることで、相手のプレッシングを回避しやすい。特に、現代サッカーでは高い位置でのプレッシングが一般的だが、3バックは数的優位を作りやすく、ビルドアップの成功率を高める。


ウイングバックの攻撃参加により、3バックはサイドを効果的に活用できる。ウイングバックがハーフスペースやサイドの高い位置を取ることで、相手の守備陣を広げ、チャンスを生み出す。また、3トップや2トップ+シャドーの配置により、ゴール前の選手層も厚くなり、得点機会が増える。


これが4バックのチームだと、攻撃に厚みをもたらすためには両サイドバックの一方が長い距離をスプリントする必要がある。




秋葉忠宏監督 写真:Getty Images

3バックの難しさ:ウイングバックの負担や相手の対策


しかし一方で、3バックの成功はウイングバックの質に大きく依存する。ウイングバックは、攻守両面で広範囲をカバーする必要があり、90分間高い運動量を維持しなければならない。選手の疲労度が顕著なため、選手層の厚さや交代戦略が重要となる。3バックシステムの要となる両ウイングバックはテクニックやスピードはもちろん、アスリート性も求められるのだ。


3バックの普及に伴い、相手チームも対策を講じるようになっている。例えば4バックのチームがウイングバックの裏を徹底的に攻めたり、ハイプレスでウイングバックを封じたりするケースだ。3バックを採用するチームは、相手の戦術に応じた柔軟な対応が求められる。


実際、4バックと3バックを使い分ける清水エスパルスは、4月29日のJ1第13節FC東京戦(味の素スタジアム/2-0)で、秋葉忠弘監督が後半途中に4バックから3バックにスイッチ。するとFC東京の【3-4-2-1】システムとマッチアップする形となり劣勢に立たされる危険性があったことから、ピッチ上のイレブンの判断で4バックに戻した。結果、2点目を挙げただけではなく相手を完封したことで、秋葉監督は「大人のチームになった」と目を細めた。




Jリーグ 写真:Getty Images

主流となるかブームで終わるか


3バックは選手に高い戦術理解度を求めるシステムだ。特に、センターバックのビルドアップ能力や、ウィングバックのポジショニングが鍵となる。よって外国籍選手や経験豊富な選手が3バックの中央を任されるケースも多い。このポジションばかりは若手の育成や戦術浸透には経験が求められ、時間がかかる。


Jリーグの3バックブームは、戦術の進化を象徴している。このブームが長期的に続くかどうかは、まずは若手の育成が重要だ。3バックを機能させるためには、攻守両面で高い能力を持つ選手が必要であり、下部組織での育成が鍵となる。


一般論として、プロのDFであっても元々はFWだったという例は多い。元FWの経験は、“読み”の部分で役に立つ側面もあろうが、Jリーグのプレーレベルが上がってくるに連れ、コンバートされたDFよりも、初めからDFとして育成されてきた選手に軍配が上がるのは致し方無いところだ。


また、戦術哲学として、3バックを一時的な戦術として採用する監督もいれば、チームのスタイルとして定着させる監督もいる。さらに、Jリーグのレベル向上に伴い、戦術のカウンター戦術も進化する。3バックが主流になれば、4バックや他のフォーメーションで対抗するチームも増え、戦術のトレンドは再び変化する可能性がある。いずれにせよ、昨今の3バックブームはJリーグに新たな戦術的ダイナミズムをもたらしている。


つまりJリーグの3バックブームは、戦術の新潮流であり、国内外のトレンド、選手の特性、戦術的ギャップ作りのニーズなどが複雑に絡み合った上で生まれた結果だ。


前述の成功事例は3バックの可能性を示しているが、ウイングバックの負担や相手の対策など、いずれは課題も浮き彫りになってくるだろう。今後、3バックがJリーグの主流となるかブームで終わるかは、監督や選手の適応力にかかっており、それは日本代表の基本システムにまで影響してくるだろう。いずれにせよ、この戦術の再評価はJリーグの戦術的成長を象徴する現象であり、今後の展開が注目される。

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