窮地の錦織圭を救った、試合中に導き出した「確度の高いデータ」

6月1日(土)17時45分 Sportiva

 試合開始から3時間半を超え、スコアボードにはファイナルセット、0−3の文字が光っていた。

 全仏オープン3回戦で錦織圭が対したラスロ・ジェレ(セルビア)は、2月のリオ・オープンでツアー初優勝を手にし、わずか半年でランキングを50位以上ジャンプアップさせた成長株。さらに、ここ4カ月間でドミニク・ティーム(オーストリア)とフアン・マルティン・デル・ポトロ(アルゼンチン)を破るなど、トップ10選手と伍して戦う爆発力を秘めていることも証明済みだ。


フルセットの末に全仏ベスト16進出を果たした錦織圭
 今回の錦織戦でも、23歳のセルビア人は持てる高い潜在能力を、大舞台で戦う高揚感で存分に引き出した。常にセットで先行されながらも、左右に打ち分けるフォアの強打で、そのたびに追いすがる。

 そうして突入した初体験の第5セットで、彼はこの試合最高とも言えるパフォーマンスを発揮する。

フォアの強打はことごとくライン際に刺さり、あの鉄壁の守備を誇る錦織が見送ることしかできないシーンが続いた。

 2度のブレークを奪い、いきなり奪った3連続ゲーム。炎天下のなか、両者死力を尽くし、4時間近く戦った末のこのスコアは、試合の行方を決するに十分かに思われた。

 この時、人数では勝りながら、声量では劣勢だった錦織ファンから沸き立つ激励の大声援は、2ブレークダウンの絶望感を反映するものだったかもしれない。錦織の脳裏にも、負けるかもという思いが「多少かすめた」という。

 だが、同時に彼の理性は、「この3ゲームは相手がすごくよかったが、あんなハードヒットは続かない」とも告げていた。それは、ここまで4時間近く戦ったなかで得た、初対戦の相手に関する確度の高いデータである。

 錦織が未対戦のプレーヤーと戦う時、心がけるのは「相手のクセを見極めること」だという。試合前に動画などで見ていても、いざコートで打ち合うと、抱いていたイメージと実像が異なることは常にある。

 相手の好きなコースはどこか? 得意なポイントパターンは何か? そして、どの程度の実力の持ち主なのか——?

 それらのデータは、結局は戦いながら収集していくしかない。

 そして、最終セットで0−3とされた時、錦織がはじき出した分析は、「あんなにいいプレーが続いたことは、この試合中になかった。しっかり自分のプレーを続けていれば、チャンスはあるだろう」である。「もし、このままのプレーをされたら、しょうがないな」……そんな諦念(ていねん)も、心のどこかで抱きながら。

 3ゲーム連取された直後のゲームで、錦織は早々に反撃の狼煙を上げる。相手の気持ちがフッと緩む瞬間を逃さず、バックの強打、さらにはドロップショットを決めてブレークしたこのゲームは、逆転の予感を瞬時に1番コートへと散布した。

 さらに、ここから先のゲームで、錦織はファーストサーブの確率を大幅に引き上げる。

 試合終盤にきて切れ味を増すサーブは、5セットの未体験ゾーンで心身の疲労を覚えていたジェレに、「ケイのサービスゲームでは何もさせてもらえない」との重圧を覚えさせるに十分だった。ジェレはファーストサーブが入らなくなり、錦織はポイントに直結しなくとも、セカンドサーブを叩いてプレッシャーをかけ続ける。そうして第8ゲームで再びブレークし、ついに相手の背を捉えた。

 そのブレークから、6ゲーム後——。ジェレのセカンドサーブに飛び込み叩いたバックのリターンは、相手の足もとに鋭く刺さる。窮屈に打ち返したジェレの返球がベースラインを超えた時、錦織は一斉に沸き上がる大声援を浴びながら、両手を天に突き上げた。

 死闘を制してから、約1時間後の記者会見。赤みが差す錦織の表情に浮かぶのは、安堵と疲労、そして、反省の色である。

 錦織が「今日の一番の反省点」に挙げたのは、第1セットを先取し、第2セットでも先にブレークしながら、40−0からブレークを許した第7ゲーム。「ああいうところをきっちり取っていれば、3セットで終わっていたかもしれない」との悔いが、純粋に勝利を喜ぶことを彼に許さなかった。

 全仏での4回戦進出は5年連続で、グランドスラム2週目は錦織にとって、すでにいるのが当然の場所。

 勝利からも改善点を持ち帰り、「あまり先は見ず、1試合ずつ」戦う姿勢を崩さぬまま、2年ぶりのベスト8進出を目指す錦織は、曲者ブノワ・ペール(フランス)が待つアウェーの戦地へと向かう。

Sportiva

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