全米ドラ1男がソフトバンクへ。MLBとの仁義なき契約戦争が始まる

6月5日(水)6時57分 Sportiva

 福岡ソフトバンクホークスが、昨年のMLBドラフトでアトランタ・ブレーブスから1巡目指名を受けたカーター・スチュワートと契約したというニュースは、日米の野球界に衝撃を与えた。

 従来、日米間のアマチュア選手の契約に関しては”紳士協定”が存在し、両国のドラフト候補に触手を伸ばすことを相互に控えるという慣習があったのだが、この”協定”には法的拘束力はなく、世紀が変わる頃からMLBの”資本論理”により、次第に形骸化していった。

 これを決定づけたのが2008年、ドラフトの目玉だった新日本石油ENEOS(当時)の田澤純一のボストン・レッドソックスとの契約だった。これに対し日本側は、NPBのドラフト指名を拒否して国外のプロ野球と契約した選手については、当該球団を退団したあとも大学・社会人出身なら2年間、高校出身なら3年間はNPB球団と契約できないとする”田澤ルール”で応酬。


ソフトバンクに入団したカーター・スチュワート

 しかし、より高いレベルでプレーしたいという選手の欲求と、MLBで手にできるかもしれない巨額の報酬の前には、このルールはまったくの無力で、昨年もパナソニックの吉川峻平がNPBのドラフトを前にアリゾナ・ダイヤモンドバックスとマイナー契約を結んだ。

 こうした背景には、今世紀に入ってから拡大した日米両リーグ間の圧倒的な契約内容の格差があるのだろう。だからこそ今回、MLBのドラフト上位指名候補がこれを拒否してNPBの球団と契約したことは驚きをもって迎えられた。

 聞くところによると、スチュワートはドラフト指名後のメディカルチェックで手首に異常が見つかり、その結果、契約金を抑えられたことでブレーブスとの契約を拒否し、東フロリダ州立短大に進み、この6月のMLBドラフトを待つことになったらしい。

 しかし、今年のドラフトの評価も落ちたことから、代理人のスコット・ボラスの画策により、ソフトバンクとの6年700万ドル(約7億7000万円)という契約が成立したという。

 しかしながら、スチュワートならびにボラスの最終目標がメジャーであることに変わりはないだろう。成功した際の最終的な報酬を考えれば、いかに資金力豊富なソフトバンクであってもメジャーにはかなわない。

 周知のとおり、選手層の厚いアメリカではいくら有望株であっても、いきなりメジャーデビューというのはまずない。そもそも彼らには、最初はマイナー契約しか用意されていない。

 アメリカの大学の卒業時期は6月。すでにメジャーのシーズンは中盤にさしかかっている。キャンプを経験していない彼らを使わなければならないほど、メジャーは人材に困っていない。ドラフトで指名された1000人を超える選手たちは、その技量に応じて、ある者はキャンプ施設で体づくりをし、ある者は国外のアカデミーに送られ、そして大多数は全米各地で開催されているマイナーリーグでプレーする。

 そのため、デビューするルーキーのためのリーグは6月に開幕。トッププロスペクトと呼ばれる上位指名組のほとんどは、ショートシーズンAにランキングされる リーグに配属される。

 その点、日本ではドラフト上位選手、あるいは大学・社会人出身者は”即戦力”として、いきなり一軍の戦力として期待される。つまり、一定以上の技量がある者ならば、NPBの方が早い段階でトップの舞台を経験できる。

 NPBの一軍がメジャー同等とは言うつもりはないが、少なくとも3Aは凌駕するレベルであることに異論はないだろう。いい素材は高いレベルを経験することで才能を伸ばすことができる。そう考えれば、スチュワートもアメリカで数シーズンをマイナーで過ごすより、NPBでプレーすることを選択したとしても納得がいく。

 じつは、このようなことは今に始まったことではない。ソフトバンクにはこれまでも代理人を通じて売り込みがあったと聞くし、20年ほど前にも、短期間ではあるがオリックスにドラフト候補の大学生が練習生として参加したことがある。その時の報道では、アメリカのマイナーでプレーするより、日本のコーチングを受けた方が技術の進歩につながる、という選手サイドの目論見が報じられていた。結局、この時は正式な契約にいたらなかったが、日本で指導を受けたいというアメリカのドラフト候補は以前からもいた。

 また、かつてイチローらとともにシアトル・マリナーズのキャンプに参加した現・楽天二軍の佐藤義則ピッチングコーチのもとにマイナーの選手が指導を求めて殺到したという報道があった。佐藤コーチも「こっちの選手は細かい指導を受けていない」という意味の発言をしているように、選手をあまりいじらないアメリカ流の指導と、丁寧に教える日本流の指導では明らかに違いがある。

 だからといって、MLBの育成システムが日本に比べて「雑である」と言うことはできない。”育成”という部分だけを考えると、MLBドラフトで上位指名が確実視されていたるスチュワートなら、週間、月間、年間と、期間ごとに球数制限がなされるなど、日本以上にきめ細かい育成システムのもとでプレーができていただろう。

 三軍まで保有し、育成選手の多くが一軍の戦力になるなど、育成に定評のあるソフトバンクだが、巨額の契約金を見てもスチュワートを育成の対象とは見ていない。あくまで戦力としてスチュワートを見ているはずだ。その点では、スチュワートに関しては、日本よりもアメリカの方が大事に育てられる可能性は高いと思う。しかし、彼の将来にとってどっちがいいのかというのは、また別の話だ。

 いずれにしても、今回のケースは今後の日米のスカウトのあり方の試金石になるものである。MLB側からすれば、NPB側が”パンドラの箱”を開けたことになり、今後、日本のアマチュアトップクラスの選手の獲得に際して、ためらいが少なくなり、スカウティングに拍車がかかるだろう。

 またアメリカのプロスペクトたちの視点は、”ハンバーガーリーグ”と呼ばれるマイナーを経由せず、メジャーの舞台に立てるルートができることで、少なからずキャリアの選択肢は増えることになる。

 近年、契約保障のないアメリカを嫌い、シーズン途中でのクビの可能性が低い日本の独立リーグでプレーをするラテンアメリカ人の選手は増えている。また、職業として考えた場合、NPBの一軍で活躍すればメジャーほどではないが、相応の報酬を手にすることができ、二軍であってもマイナーより環境も待遇もいい日本球界は、アメリカよりも”セーフティーネット”が整っていると言える。

 そういう意味では、スチュワートの今後次第で、アメリカから一旦、日本球界を経由してメジャーに進もうとする選手も出てくる可能性は大いにある。

 今回のスチュワートのソフトバンク入りは、世界の野球界における新たなレジームの胎動を告げるものになるかもしれない。

Sportiva

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